転職先のWebメディアの運営会社では、広告サービスを使って、広告主のマーケティング課題を解決するソリューションを提供する営業を担当した。既存の広告枠だけでなく、タイアップ記事や新たな広告商品の開発など、様々な広告フォーマットを組み合わせて提案する職務だ。ここで学んだWebメディアの運用ノウハウが、直接的に生かされたのがLideaだ。

 また、メディアの収益構造や広告代理店の価格付けなど、「広告主側では分からない業界の裏側を学んだことで、価格交渉などが非常にやりやすい」(中村氏)という利点につながっている。

クリエイティブを極めたい

 デジタルマーケティングのスペシャリストを目指すべく、まさに事業会社を飛び出したばかりなのが、リクルートコミュニケーションズ(RCO)第2ソリューション局マーケティングコミュニケーション推進1部マーケティングコミュニケーション推進グループの川波朋子氏だ。5年間勤めた日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)を昨年3月に辞め、現職へと移った。

 川波氏はKFCでソーシャルメディアのマーケティング活用の推進や、「LINE」を使った販促活動に取り組んできた。転職を決める直前には動画広告とクーポンを組み合わせたO2O(オンラインtoオフライン)マーケティングを実践。店舗に送客し、オンライン広告の効果を実店舗での売り上げで測定することに挑むなど、多岐にわたってKFCのデジタルマーケティングを支えた。

リクルートコミュニケーションズ 川波朋子氏
「再現性の高いデジタルマーケティングや、クリエイティブスキルの取得と、消費者視点のサービスを設計できるスタンスが必要。また、新たな技術をいち早く検証して、その実用性を判断するスピード感も大切になる」

 その川波氏は転職を決めた理由をこう語る。「広告代理店に実現したい施策について大枠の概念を伝えて、それが提案となって返ってくるという関係だった。ただ、UI(ユーザーインターフェース)の設計やクリエイティブの知識が少ないため、きちんと判断できる基準を養う必要性を感じた」。

 また、よりスピード感を持って、新しい技術、新しい手法に取り組みたいという意欲も高まっていたという。その点で、「事業会社の利益を最大化するための機能会社であり、利益貢献できると判断すれば、新しい手法でもすぐに取り入れることを検討し、ないものは開発する」(川波氏)というRCOの企業文化は、うってつけだった。

 RCOでは、旅行予約サイト「じゃらん」で展開する、19歳の人はゲレンデのリフト券が無料になるキャンペーン「雪マジ!19~SNOW MAGIC~」や、それを横展開して、20歳の男女はサッカー「Jリーグ」の試合を無料で観戦できるキャンペーン「Jマジ!20~JLEAGUE MAGIC~」の支援などを手がけている。「前職とは真逆の極めて限定的な消費者を対象としているため、マーケティング施策におけるクリエイティブ面でも、より響くように最適化が求められる」(川波氏)。

 また、新たな事業開発にも取り組んでおり、来店ポイントサービス「ショプリエ」とiBeaconを連携した、O2Oの実証実験を実施した。実験を通じて、ビーコンを活用した新規事業開発を目指す。

 川波氏は、こうした経験を経て「将来的にはクリエイティブを含めたマーケティング支援で独立することも考えている」と明かす。スペシャリストを目指し、自らの腕で勝負するのも1つの選択肢と言えるだろう。

【ゼネラリスト志向】社内のハブとなりデジタルの効果を最大化

日本航空 渋谷直正氏
「マーケティングの基礎となる、お客さまを理解するマインドと販売センスが最重要。それを踏まえた上で、よく使う5つの分析手法を用いた解析技術を学び、データを活用した施策を実行に移して成功体験を積むべき」

 「事業会社で求められるのは、データ分析を専門としたデータサイエンティストであっても、ゼネラリストであるべきだ」

 こう言い切るのは、日本航空(JAL)Web販売部1to1マーケティンググループの渋谷直正アシスタントマネジャーだ。渋谷氏は昨年、日経情報ストラテジー誌の「第2回データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた、データドリブンマーケティングのスペシャリストとも言える存在だ。だが当の本人はゼネラリストを志向する。その心はこうだ。

 「データ分析のスキルが高くても、その数字が自社の事業にどのような影響があるのか読み解く能力がないと、数字遊びに終わってしまう。高度な分析スキルよりも、商品を売ることのセンスの方が重要になる。だから、営業経験者が分析手法を学ぶ方が有利だ」

 その渋谷氏も営業畑の出身。5年間、国内線の営業を担当した。2009年にEC(電子商取引)サイトの運営部門に移った。そして、2011年に現在の1to1マーケティンググループに異動。自社サイトのアクセスログなどのデータを基に、Webサイトに表示する情報を顧客ごとに切り替えるレコメンドエンジンの最適化や、メールマーケティングの支援などに取り組んできた。

 デジタルマーケティングに転向後も国内線の販促施策においては、営業経験が生きた。一方で、経験が浅い国際線では苦労した。「数字を分析しても、的外れなアドバイスになってしまっていた」(渋谷氏)。そこで、国際線の担当者と話をして、事業課題を学んでいるという。

 このような経験から、「航空事業のことをよく知り、事業課題を理解している人間に統計学を教えるべき」(渋谷氏)という考えに至った。これが、事業会社のマーケターはゼネラリストであるべきという考えの背景となっている。

 渋谷氏は、データドリブンマーケティングを一層推進するために、データサイエンティストの育成に力を注ぐ。教育プログラムを作る上で、渋谷氏は「習得すべき分析手法は5つで十分」という持論に行き着いた。

 渋谷氏自身は、学生時代に統計学を学んでいたという素養があったため、すぐにデータの解析に取り組めた。だが、渋谷氏がデータサイエンティストに推薦する営業担当者の多くは、統計学の知識を持たないだろう。そのため、一から統計学を学ばせようとしても、「途中で挫折してしまう」(渋谷氏)。そこで、習得すべき手法を5つに絞ることで、ハードルを下げることを目指した。そうして、「自分でデータを分析できるマーケター」(渋谷氏)をJAL内に増やすことを目指す。

ECと店舗の組織も結ぶ存在に

 ネットと店舗を融合して、消費者に新しい購買体験を提供する。昨年から、小売業を中心に注目を集めるオムニチャネルを実現する上でも、ゼネラリストとしての立ち回りが求められそうだ。

 東急ハンズのオムニチャネル推進部オムニチャネルコマース課の緒方恵氏は、オムニチャネルというキーワードが登場する以前から、ネットを活用することで店舗の購買体験を向上させられるはずという信念を持ち、矢継ぎ早にECサイトと店舗の連携強化策を打ち出してきた。

東急ハンズ 緒方恵氏
「オムニチャネルを進め、ECサイトと店舗の距離が近づくほど、そこをつなぐハブ的な存在が重要になった。販促においてもネットと店舗の垣根がなくなる中で、リアルとネットを両方知る人材の価値が高まるだろう」

 緒方氏は東急ハンズに中途入社後の5年間、東京・渋谷店の販売員と照明やスマートフォン関連商品の仕入れ担当を務めた。2010年に人事異動で、ECサイトの運営部門に移った。しかし、「ITの知識もないし、HTMLのコードを書けるわけでもない。ほとんど転職に近い形での異動となった」。緒方氏は当時をこう振り返る。

 異動当初は、ECサイト運用のルーチン作業を学んでいったが、「会社の役に立てている実感がなかった」(緒方氏)。そこで、ほかの人がやっていない業務を探し始めた。そのうちの1つが、ECサイトと店舗の会員の重複率の分析だ。当時は会員制度が分かれていたため、名前や電話番号でデータを突き合わせた。

 すると、「店舗での購入金額が多い人ほど、ECサイトも利用していることが分かった」(緒方氏)。結果的に、これをきっかけにECサイトと店舗の連携に大きな可能性を感じるきっかけとなった。

 システム面では、ECサイトと店舗で、元々別々だった会員基盤や在庫情報を統合した。これにより、ECサイトに各店舗の在庫情報を掲載できるようになった。2014年11月にはスマートフォン向け「東急ハンズ公式アプリ」の提供を開始。ECサイトと店舗で共通のポイントカードとして利用できるほか、店頭で気になる商品のバーコードをスキャンすれば、いつでも好きな時に注文できる。

 仕組みは着々とできつつある。しかし、オムニチャネルをさらに進めるには、当然店舗の協力は欠かせない。「仕組みとしての、ネットと店舗のシームレス化はおよそ見えてきた。これを実際に形にするには、店舗や販促部隊の思考回路を(オムニチャネルに対応できるように)変えていく役割を担っていかなければならない」(緒方氏)。そうして、最終的には組織的にも店舗販促とデジタル販促を統合して、オムニチャネルの進化を目指す。