
米国でデジタルマーケティング人材の価値が高まっている。右表は、米リンクトインが発表した、ビジネス特化型SNS「LinkedIn」上で2014年に人気のあった専門技能のランキングだ。上位20に7つのマーケティング関連技能が入った。
特に注目が高いのが、いまやデジタルマーケティングの核となる技能となった「統計分析・データマイニング」だ。国別のランキングでも、10カ国中9カ国で首位に輝き、世界各国で最も人気の高い技能となった。
国内でも同様の傾向が見られる。リクルートキャリアの中途事業本部第1営業統括部3部CA2グループの仲井亜紀子キャリアアドバイザーは、「マーケティングにおいて費用対効果をきちんと分析したいという企業ニーズが高まっている。その傾向とともに、データに基づいてマーケティングプランを立てられる人材へのニーズが高まっている」と明かす。
かくいう仲井氏も元々は、リクルートキャリアのデジタルマーケティング担当者だった。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)やDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を活用できる人材ニーズの高まりに合わせて、リクルートキャリアにとっても、そういった専門分野に明るいキャリアアドバイザーが必要不可欠になり異動となった経緯がある。
このように、様々な分野でデジタルマーケティングの知識を持つ人材が求められるようになっている。こうした専門知識を強みに、マーケティング全体を統括する立場に就くケースも出てきた。
デジタル担当からCMOへの道

今年1月に、バッグや靴が人気のスイスのラグジュアリーブランド「Bally」の国内展開を手掛けるバリー・ジャパンに転職した宮野淳子氏もその1人。バリー・ジャパンにおいて宮野氏は「マーケティング&コミュニケーションディレクター」という肩書きを持つ。マスやデジタルの広告宣伝にとどまらず、PR戦略から店舗設計までを手掛けることになる、事実上のCMO(最高マーケティング責任者)と呼べるポジションだろう。
宮野氏は現職に就くまで、日本ロレアルで9年間、化粧品ブランド「ロレアルパリ」のデジタルマーケティングマネージャーを務めた。DMPを活用して、メール会員の年齢、居住地域、過去のキャンペーン応募履歴やWebサイトのアクセスデータなどに基づいて、広告出稿の最適化などに取り組んだ。
こうしたデータに基づくマーケティング施策をデジタルにとどまらず、マス広告や店舗などにも広げるために、現職への転職を決めた。
宮野氏は「今後、デジタルマーケティングを理解できなければ、マーケティングのトップになるのは難しい」と言い切る。デジタルマーケティングは、施策に対する反応がクリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)で分かり、DMPを活用すれば反響が大きかった消費者層をデータで理解しやすい。
必然的に、そのデータを参考に次の施策を組み立てることになり、自然とデータに基づくPDCA(計画、実行、検証、改善)サイクルが身体に染み付いていく。そうした、「デジタルマーケティングの知識は、リアルの施策にも必ず生かせるはずだ」(宮野氏)。
デジタルマーケティング責任者から、CMOへ。そうした道が切り開かれていることを示す一例と言えるだろう。ただ、キャリアパスは無限にある。CMOに通ずる道も一本ではない。そこで、一線で活躍するデジタルマーケティング責任者・担当者を、スペシャリスト志向とゼネラリスト志向に分けて紹介したい。今後、自身の強みをどこに見出そうかと悩む方々にとって、参考になるはずだ。
【スペシャリスト志向】デジタルを極めるためには、専門企業への転職も辞さず
「マーケターのスペシャリストを目指したい。それには、デジタルマーケティングの知識が必須になると考えた」

こう語るライオン宣伝部デジタルコミュニケーション推進室の中村大亮氏は、2006年に一度ライオンを飛び出して、Webメディア運営会社で2年間働き、デジタルマーケティングの基礎知識を学んだ。そして家電メーカーのマーケティング担当を経て、2010年にライオンのキャリアリターン制度を使って再入社するという非常に珍しい経歴の持ち主だ。
現在ライオンでは、デジタルマーケティングの専門部署でブランドサイトの運営や、ネットを使った販促施策に取り組んでいる。昨年10月には生活情報サイト「Lidea(リディア)」を開設。オウンドメディアの強化とそこでのデータ取得に力を注ぐ。
中村氏は新卒でライオンに入社後、一貫して営業職を歩んだ。マーケティング担当部門に異動になったのは2005年のこと。これをきっかけに、「マーケティングに対する興味関心が開花していった」(中村氏)。とはいえ、担当していたのはマス広告の出稿などが中心で、デジタルマーケティングとは関わりが少なかった。
転機となったのは、ブログマーケティングの勃興だ。「ほかの企業がブログを使い、消費者と直接コミュニケーションをしている様子を目の当たりにして、デジタル技術を使った新しいコミュニケーションに大きな可能性を感じた。直感的にこれからのマーケターはWebのことを知るべきだという印象を持った」と中村氏は振り返る。
とはいえ、数百円の商品を数千万人単位の消費者に販売するライオンのような事業に、消費者と直接つながるようなダイレクトマーケティングが合致するかは未知数。そこで、ライオンを離れて、「一度デジタルマーケティングにどっぷり浸かって、その可能性を見極める」(中村氏)決断をした。