企業のWebサイトは、一般的にメーンの公式サイトを軸に、主要ブランドの独立サイトやEC(電子商取引)専用サイト、そのほか企業によってはコミュニティー専用サイト、サポート専用サイトなどで構成している場合が多い。これまでどちらかと言えば、コンテンツおよびサイトが増えた結果、統一性や管理に難が生じ、サイトを整理・統合する方向の取り組みが目立った。例えばソフトバンクグループは2013年10月、ソフトバンク本体と、ソフトバンクモバイルなどのグループ企業が別ドメインで運営してきたサイトを、「www.softbank.jp」に統合している。

 その一方で、企業情報サイトから製品情報サイトを分割リニューアルする動きがあるので紹介したい。

 世界のタイヤ市場で首位のブリヂストンは2014年12月、公式サイトから製品情報を独立させ「タイヤサイト」を新設。企業サイトとタイヤサイトの2本立てで運営し始めた。

 サイト分割の狙いは、タイヤ情報へのアクセス改善にある。広報部広報第3課の瀬口暁雄氏は、「自社サイト来訪者の多くは一般のドライバーの方。その目線で見たとき、使い勝手に課題があった」と語る。

 刷新前のサイトは、「会社情報」や「採用情報」が並ぶナビゲーションメニューに「個人のお客様」と「法人のお客様」の項目があり、個人を選ぶと「乗用車用」「二輪車用」から「自転車」「スポーツ用品」「CMライブラリ」までサブメニューが並ぶ構成だった。多くの人が乗用車用を選ぶページの作りとしてはややムダがあり、離脱を招く要因にもなっていた。

 新設したタイヤサイトでは、「タイヤを探す(乗用車用)」のほか、FAQの「タイヤを知る(乗用車用)」とタイヤショップ検索機能「店舗を探す」をナビゲーションメニュー項目に格上げした。タイヤサイトで調べたかった情報にすぐたどり着き、マイカーにマッチするタイヤを簡単に探せれば、購入に一歩近づく。ショップ検索はその背中を押す役目と位置づけ、その利用者の伸びをKPI(重要業績評価指標)に据えている。

ブリヂストンのタイヤサイト

 また、タイヤ情報を探す人が企業サイト側を訪れたとしても、ファーストビューでタイヤ、化工品、スポーツ用品、自転車の4メニューを目立つように配置しているので、すぐタイヤサイトに飛んでこられる。効果検証はこれからだが、埋もれていたメニューががぜん目立つようになっただけに、効果が期待できそうだ。

分割でPV2~4倍増

 ブリヂストンはBtoC(消費者向け)を意識したサイト分割だったが、BtoB(企業向け)でもサイト分割は有効に働く。事務機器大手のリコーは2014年3月、やはりコーポレート系のサイトと製品・サービス系のサイトに分割するよう刷新した。

 同社は、単に二分する分割ではなく、販売会社とリコー本体のコンテンツを統合・整理した上での分割である。

 コーポレート統括本部コーポレートコミュニケーションセンター戦略・統括室シニアスペシャリストの伊藤恵美子氏は、「サイトを開設して20年弱、ユーザビリティの改善やデザインの見直しなど大小さまざまなリニューアルをしてきたが、今回はサイトの役割を根本から見直して再編した最大のリニューアル」と説明する。

 同社の販売系組織はここ6~7年で大きく変わった。かつては青森リコーなど各都道府県単位で販社を構えていたが、2008年にこれらをリコー東北などの地域統括会社に統合して全国7販社体制を敷いた。さらに2010年には、7販社と本体の販売支援部隊を統合して全国一社の販売会社リコージャパンを設立した。

 このため、地域統括会社のサイトの寄せ集めになって統一感に欠けたり、ドキュメント管理などのソリューション事業は販社サイトのみで本体にはなかったり、といった問題を抱えていた。コンテンツの整理や相互リンクは適宜進めていたものの、導入検討企業側から見れば分かりづらい点があったのは否めない。これを整理・統合し、「リコーグループ企業・IRサイト」と「ソリューション・商品サイト」の2つのサイトが連携する構成にリニューアルした。

 刷新効果は早くも表れた。ソリューション・商品サイトのPVが刷新前の約2倍に増加した。商品サイト側を管轄するリコージャパン経営企画本部コーポレートコミュニケーション部マネージャーの山崎義之氏は、「体制が整ったので、アクセス増が受注につながるよう、課題ごとのソリューション紹介など顧客目線で有用な内容に強化していきたい」と語る。

リコーのソリューション・商品サイト

 企業・IRサイト側でも成果が出ている。ナビゲーションメニュー左端の「リコーについて」の隣に「技術」の項目を置き、研究開発の取り組みや同社独自技術の解説、デザインポリシーなどの紹介記事群を配置したところ、PVが4倍に増えたという。技術コーナーは刷新前、ナビゲーションメニュー右端にあった「リコーについて」に属し、企業概要やリリース、IR、採用情報などの下で埋もれていた。世はコンテンツマーケティングブームだが、強力なコンテンツがサイトの奥底に眠っている企業は多いかもしれない。

 このほかヤマハ発動機、味の素、サイボウズ、ロート製薬などが、同じく分割型でサイトを展開している。自社がサイト分割はしない方針でも、分割した場合のシミュレーションをしてみることは、見慣れた自社サイトを新鮮な目で見直すいい機会になりそうだ。

企業サイトと製品サイトの“分割”が進む

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