ファッション情報の配信などを手がけるアパレルウェブ(東京都中央区)は、昨年12月末から今年3月末までの予定で、東京の渋谷・原宿近辺エリアでビーコンを利用した情報配信サービスの実験を始めた。
アパレルウェブが運営するスマートフォン向けファッション情報アプリ「Staff Snap(スタッフスナップ)」の利用者が、実験に参加するアパレルショップなどに近づくと、店の入口近くに設置したビーコン端末がユーザーの位置を検知し、アプリ向けに来店を促す情報をプッシュ通知する仕組みだ。iPhoneとAndroid端末の両方に対応する。
Staff Snapはアパレルブランドのスタッフやアパレルショップの店員などが、自社のファッション情報を提供するアプリ。ユーザーが、シャツやセーターといったアイテムの種類や、好みの色、ブランド、どんなシーンに向くかなどを指定すると、商品単独ではなく、実際にそのファッションを着こなした人の写真が見られる。ブランドや店が薦めるコーディネート情報が多数掲載されており、トレンドを追えるのも特長だ。2011年からサービスを開始しており、参加するアパレルブランドは約200、ダウンロード数は60万件に達している。
店頭でコーディネート情報を配信
今回の実験には、カバンで有名な「マンハッタンポーテージ」など、渋谷の明治通り沿いや原宿のキャットストリート沿いにある約30のアパレルショップなどが参加。現在も、「実験が浸透するにつれて参加を希望する店が増えている」(アパレルウェブ新規事業開発部の関山昌宏サブマネージャー)と言う。
ビーコンを利用して配信する情報は、Staff Snapが得意とするファッションのコーディネートや当該店で扱う新作の情報が中心。割引クーポンなどはできるだけ避けるように参加店に働きかける。「ビーコンを利用することで不要なクーポンが次々に届けば、ユーザーがブランドやアプリに愛想を尽かす可能性が高い」(アパレルウェブ事業本部新規事業開発部の吉岡芳明マネージャー)からだ。
一部の参加店では店内にもビーコン端末を配置し、店内の売り場ごとに店のスタッフお薦めのコーディネート情報などを重ねて配信し、購買促進効果の向上を狙う。これはアパレルウェブの目的の1つが、「ビーコンを利用し、コーディネート情報を次々に送ることで、街を歩いているユーザーをどれだけ目の前の店に招き入れ、購買してもらえるかを試す」(吉岡氏)であるため。割引クーポンやポイントに頼らない集客の可能性を探る試みといってよい。
集客増などの具体的な成果はまだ明確になっていないが、参加を希望する店が増えるなど、「参加店の集客増に貢献している手応えはある」(関山氏)という。現状は参加小売店に対して、ビーコンからの情報配信数といったデータを日々定期的にフィードバックすることはしていない。実験がある程度進んだ段階で、「定期的なフィードバックを検討する」(吉岡氏)考えだ。
実験店には「しろくま」ステッカー
これまで小売りのチェーン店やショッピングセンター(SC)などが、自社店舗やSC内にビーコン端末を設置してアプリ向けに情報を配信し、来店客数の増加を狙ったケースはあったが、一定エリア内にある異なる経営主体の複数店にビーコンを設置するケースは珍しい。実験に参加した店からすると、新規顧客の増加だけでなく、自社店舗に来た客がどの店を見てきたかという“回遊”情報も期待できる。
今回の実験はNTTドコモがアパレルウェブに協力し、ビーコン端末の設置や技術サポートを提供する他、データの分析も共同で行う。実験終了後は、「参加店には費用負担をお願いすることになるが、同じような形でサービスを継続したい」(吉岡氏)と考えている。実験参加店にはStaff Snapのモチーフである「しろくま」をデザインしたステッカーを既に配布済み。「このステッカーを貼ってある店が、Staff Snapのビーコン利用サービスが受けられる目印だとユーザーの間に浸透させていきたい」(吉岡氏)と言う。
アパレルウェブは、ファッション業界に特化し、アパレルブランドなどの顧客に対して、集客などを目指すWebソリューションを提供したり、運営する情報ポータルサイトから情報を発信したりして、成長してきた。今回の実験も、Staff Snapアプリの来店促進効果を引き上げることが狙いだ。「ファッション情報アプリとしてのStaff Snapのポジションを確立させる」(吉岡氏)ことで、アプリ利用者と参加するアパレルブランドやショップの数をさらに増やし、収益増につなげる考えだ。
