
本誌は12月6日、読者無料セミナー「デジタルマーケティングの2014年を読む」を開催した。まずデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏が登壇。「DMPの可能性と課題」と題してDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を導入、活用するポイントについて語った。
企業のDMPへの注目度は高く、横山氏は「どのツールを使うべきか」、頻繁に相談されるという。しかしツールは単なる箱。どのようなデータを選んでどう分析するか、そして分析を担当する人間がどのような分析スキルを持っているか。それこそが問題との指摘に参加者の多くがうなずいた。
2014年に注目すべき動きとしては「Amazonが相当なデータを出してくるのでは」と予測。現実になれば、そのデータを求めてAmazonに商品を提供する企業が増え、データを活用した商品開発やコミュニケーション開発が可能になる。リアル店舗を持つ流通業者などもデータを出してくるだろうと見立てた。「本格的な動きになるまで数年かかる。今のうちに自社のデータをしっかりと分析しておくことが重要だ」(横山氏)。
リアルとデジタルは互いに関連していて、マスやテレビもDMPの対象になる。「最後はインハウス(社内)でどれだけ知見を蓄積できるか。人材をどう育てるかの競争になる。DMPに取り組む企業とそうでない企業では今後に大きな差が出てくる」と話し、講演を締めくくった。
ビッグデータを持っている企業はない?
続いて登壇したのは国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授の佐藤一郎氏。ビッグデータを活用したマーケティングの可能性についてアカデミックな視点から語った。

まず、自らを「業界でも有名なビッグデータ嫌い」と紹介した佐藤氏は、「日本でビッグデータと呼べるほどのデータを持っている企業などほとんどない」「ビッグデータ活用で儲かるなら成功事例がもっと出ているはず」などと刺激的な言葉で聴衆の心をつかんだ。真意はビッグデータに対する過剰な期待感を、研究者の立場から戒めることにあったようだ。
その上で、収益拡大より損失縮小を狙う方が分析も容易。実際はそうした例が圧倒的に多いとして、クレジットカード会社の不正利用検出、ゲーム会社の退会防止施策などの例を紹介した。収益拡大に比べると損失縮小というのは“地味”な目的に思えるが、今後のマーケティングには、そうした現実的な視点が大切。それがビジネスの安定につながるという。
ビッグデータを分析すれば新たな気づきが得られたり、将来を予測することが可能になる。そんな期待が膨らんでいるが、佐藤氏はそれも「ありえないこと」と断言。ビッグデータを分析しても実際に出てくるのは「誰でも予測できる当たり前の結果だ」と言う。それでも現場がうすうす気づいているようなことが結果として確かめられれば経営陣への説得材料になる。それこそが現実のビジネスでは大切とした。
「アカデミックの世界では面白い分析結果が出ればそれでよしとすることもある。しかしビジネスはそうではない。そこには大きなギャップがあることを認識し、ビッグデータの活用に取り組んでほしい」と話し、講演を終えた。