動画を活用して消費者と一体感を生み出すのは容易ではない。賃貸住宅事業のレオパレス21は10月に、ネットメディア事業のJDN(東京都台東区)が運営するコンテスト情報ポータルサイト「登竜門」上で、レオパレスが展開しているサービスや公式キャラクター「レオパリス」を紹介する動画の投稿コンテストを実施した。しかし、フタを開けてみれば、最優秀賞は該当なしに終わった。広告宣伝部の中村景一課長代理は、「件数が全然集まらなかった」と肩を落とす。
レオパレスが動画投稿コンテストを実施したのは、入居者や消費者とともに、ブランドを盛り上げたいという狙いからだ。雇用形態の変化などで法人による賃貸契約が減り、一般の消費者と直接契約するケースが増えてきた。レオパレスの住宅を選んでもらうには、ブランドに親近感を持ってもらうことはますます重要になっている。
2012年から入居者や消費者とともにブランドを盛り上げるという戦略を掲げて、多数のコンテストを実施してきた。例えば、レコード会社のソニー・ミュージックエンタテインメントと共同で実施した、テレビCMソングの歌い手を募集するコンテストには5944組の応募があった。現在、放送しているテレビCMの楽曲はコンテストの優勝者が歌っている。
「お部屋カスタマイズ」には1万件以上の申し込み
また、2012年5月に開始したサービス「お部屋カスタマイズ」でも、消費者から部屋のカスタマイズのアイデアを募集するコンテストを実施した。同サービスは壁に画鋲でポスターを張ったり、塗装をしたりしても、退去費用に追加料金がかからないサービス。自分好みに部屋をカスタマイズし、愛着を持ってもらうことで、長期入居を狙った。既に1万件以上の申し込みがあるなど、「よいペースで顧客が増えている」(広告宣伝部の久保田陽二課長)。
この流れから、2013年6月には同社の公式キャラクターを募集するコンテストを実施した。ブランドも消費者とともに構築するというフェーズに入ったわけだ。「ビルの4~5階にあるような店舗は消費者が入りづらい。そこで、キャラクターも使いながら、社員などを紹介して気軽に入れる印象を与えたい」(中村氏)。そんな狙いから、実施した。このコンテストも人気を集め、700を超える候補が集まった。まず、女性社員を中心に40まで候補を絞り、最後に全社員にアンケートをとって最優秀賞を決めた。こうして生まれたのが、リスをモチーフにしたレオパリスだ。
こうした成功体験から、動画投稿コンテストも多数の応募が集まるのでは…。そう期待した。だが、結果は既に書いた通りだ。その要因について同社は、大きく3つあると分析する。まず、募集期間が1カ月と短かったこと。開始時には美術大学などにも応募を呼びかけたが、動画を作るには期間が短すぎると指摘を受けたという。
また、動画がどのように利用されるか、明確でなかった点が挙げられる。これまでのコンテストはテレビCMに使われる、レオパレスの公式キャラクターとして使われる、といった応募する価値を打ち出せていた。そうした動機付けをできなかったため、クリエーターが動かなかった可能性がある。
そして、最後の要因は伝えたいメッセージを絞り込めなかったことだ。募集要項ではテーマとして6つを提示したが「レオパレスのブランド価値を高めるような動画」「レオパレス21公式キャラクター『レオパリスくん』を使用した動画」など、漠然としたテーマが多かった。動画を制作する上でストーリー性は非常に重要だが、誰に、どんな風に、何を伝えたいのかを明確にしなければ、ストーリーは作りづらい。
これらの要素から、投稿が思うように集まらなかったのだろう。ただ、レオパレスは決して悲観していない。「失敗の理由をしっかりと分析して、そこを修正した上で2回、3回と実施していきたい」と中村氏は意気込む。今後も、消費者とともにブランドを盛り上げるための施策に積極的に取り組んでいく考えだ。
動画活用に、これまでにない新しい手法で挑む企業も登場してきた。テレビCMのテストマーケティングに、ネット動画広告を活用しようとしているコンタクトレンズの販売チェーン「エースコンタクト」を展開するダブリュ・アイ・システム(東京都豊島区)だ。9月から5種類の動画広告を配信。その効果を検証し、最終的にはテレビCMとして配信することを目指す。
「これまでのテレビCMは、ブランド名を覚えてもらうためのもの。それだけでは来店動機を作りづらかった」と、上席執行役員マーケティング部の鈴木貴久部長は振り返る。では来店につなげるには、どんなメッセージを訴求すべきか。それを考える中で生まれたアイデアは2つ。1つはエースコンタクトの接客姿勢を伝えるブランディング広告だ。
5種類の広告を配信、複数のKPIで評価
エースコンタクトには「瞳からココロへ。」というブランドスローガンがあり、社員に配るハンドブックにはこんな一文がある。「新しい趣味を始めたら聞かせてください」。コンタクトレンズは、専門知識を持った販売員が顧客の眼に合った商品を勧めて販売する。接客の際、趣味の話なども含めて、深く相手の心に入り込んで満足度を高める。ブランドスローガンには、そんな思いが込められている。こうした、接客姿勢を伝える広告案が1つ。もう1つの案は、割引率などを訴求する、販促的な広告だ。

この2つの案に基づき、接客姿勢や顧客のインタビューといったブランド訴求型の広告を3種類、学生が5%割引になる学割の訴求など、販促型の広告を2種類、合計5種類の広告を制作した。ネット広告配信会社オムニバス(東京都渋谷区)を通じて配信している。広告配信には「YouTube」や「Ustream」などを配信先として持つ動画広告専門DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)の「TubeMogul」と、ネット広告関連ソフト開発のフリークアウト(東京都渋谷区)のYouTube対応DSPを活用して、エースコンタクトの店舗がある関東と東北に地域を絞って配信している。
広告を評価するためのKPI(重要業績評価指標)には、動画の再生回数や自社サイトへの流入数、自社サイトを訪れた後のPV(ページビュー)数といった複数の項目を設定している。また、広告の配信開始から半年が経過したころに顧客へのアンケート調査を実施するなどして、来店効果を測定する計画だという。
半年後という時期を設定しているのは、コンタクトレンズは購入頻度が高くなく、広告を閲覧したからといってすぐに購買行動を起こしにくい商材だからだ。最終的には成果の高い動画広告のテレビCMでの放送を視野に入れながら、まずはネット動画広告のPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回していく方針だ。