ネット動画の活用は2013年後半、AKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」で転換期を迎えた。様々な企業が振りマネ動画を制作、配信して、再生回数が100万回超の動画が続出したのだ。ヤフーなど業界各社は動画広告に力を注ぐ。2014年こそ“ネット動画元年”となるだろうか。
累計で3500万回超―─。これは動画共有サイト「YouTube」における、アイドルグループAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」の動画再生回数だ。AKB48ならそれぐらいでも不思議はない。そう判断するのは、少々お待ちいただきたい。実はこの数に、AKB48が出演するミュージックビデオは含まれていないからだ。恋するフォーチュンクッキーがヒットした要因の1つに、企業の社員や地方自治体の職員がAKB48をまねて踊った「振りマネ動画」がある。3500万回は、AKB48が公式に認めている振りマネ動画の再生回数である(2013年12月10日時点)。その公式動画が、さらに一般人による非公式の振りマネ動画投稿を誘い、大きなうねりとなった。

12月には意外な企業も参戦した。日本アイ・ビー・エムだ。ベンチャー企業を顧客に多く持つ、エンタープライズ営業統括本部広域営業本部ビジネス開発の正木大輔担当部長が企画した。「BtoB(企業向け)事業の真面目な動画は、なかなか見てもらえない。そんなときに他社の社員が踊っている動画を知った。顧客企業と一緒に踊るなら、視聴者に楽しんでもらいながら顧客企業との関係性をうまく伝えられるのでは」。そんな可能性を感じて、参加を決めた。動画には顧客企業の社員や経営者、IBMが開発した世界最小のアニメーション「A Boy And HisAtom」などが出演。顧客との良好な関係性や自社の技術をアピール。掲載からわずか1週間で17万回以上再生されている。
動画活用の成功例となった同企画だが、実は先駆者がいる。カナダ出身の歌手カーリー・レイ・ジェプセンさんのヒット曲「Call Me Maybe」だ。
同曲を国内で発売したユニバーサルミュージック(東京都港区)は、発売に合わせて、タレントのローラさんらが音楽に合わせて踊る動画を公開した。大きな話題となり、再生回数は1200万回を超えている。また、地方自治体の“ご当地キャラ”による動画投稿コンテストも開催。熊本県の「くまモン」が登場する動画は約40万回再生されている。こうした活動に感化された消費者も動画を投稿した。
その結果、「国内で洋楽は10万枚を超えれば大ヒット。Call Me Maybeは30万枚を超える超大ヒットになった」とユニバーサルインターナショナル宣伝本部メディア・プロモーション・グループの別府淳一次長は言う。そして、こう続ける。「投稿動画がなかったら10万枚止まりだっただろう」。
テレビCMを流すことだけがネット動画活用ではない。視聴者の感情を動かす動画を作り、参加企画で大きく盛り上げ、売り上げ増加やブランディングにつなげる。そんな可能性に気付いた企業が活用を積極化させている。
「これこそ、当社におけるO2O(オンラインtoオフライン)施策の大成功事例だ」。ローソン広告販促企画部の白井明子マネジャーは興奮気味に話す。同社は動画配信サービス「niconico」の生放送を活用して「からあげクン」の販促施策を実施した。その結果、からあげクンの販売数量を、通常より1.7倍に増加させる成果につながった。リアルタイムの放送を活用した視聴者参加型企画を実施したことで、視聴者との一体感を生み出した点に成功の秘訣がある。
ローソンがからあげクンの販促に活用したのは、ゲームメーカーのスクウェア・エニックスとniconicoを運営するドワンゴの子会社が共同運営していたniconico上の番組「ドラゴンクエストXTV」だ。人気ゲーム「ドラゴンクエストX」のプレー動画などを10時間にわたって生放送し、多い時には放送時間内の合計で20万人以上が視聴する人気番組だった。
2013年6月22日の同番組の放送で、からあげクンの販売数を増加させるため、「からあげクンを救え」と題した企画を実施した。これは、ドラゴンクエストXで使えるアイテムをプレゼントするもの。17時から21時の間に全国のローソンで売れたからあげクンの数量に応じて、もらえるアイテムのグレードが上がっていく。
番組を放送した土曜日に、上記の4時間で売れるからあげクンは、平均7万2000個だという。そこで7万個を最低基準として、販売数が5000個増えるごとに、もらえるアイテムのグレードが上がる。10万1個以上売れた場合に最高グレードとなる。
「またローソンが!?」とTwitterでも話題に
生放送には白井氏も出演。からあげクンの販売数を逐次報告して、10万個を目指そうと視聴者に呼びかけた。
視聴者と目的意識を共有し、動画を通じて臨場感を持って盛り上がりを伝えることで、一体感が生まれた。企画を盛り上げようと、購入したからあげクンの写真をTwitter上に投稿する番組視聴者が相次いだ。
また、ローソンのTwitter公式アカウントに投稿した企画を告知するツイートは、1000件以上リツイート(引用投稿)された。これらにより、Twitter上で話題となっているキーワードを表示する「トレンド」欄に「ローソン」が入った。
ローソンは元々、Twitterをはじめとするソーシャルメディアを活用したマーケティングを積極的に展開してきた。そうした背景もあり、「みんながからあげクンを買っている。また、ローソンが何かやっているのか?という空気がTwitter上に広がった」(白井氏)。

それにより、視聴者以外にも企画への興味が広がり、からあげクンの販売数を押し上げたと白井氏はみる。最終的に、からあげクンは12万2400個売れた。リアルタイムの動画で視聴者との一体感を生み出すことに成功すれば、大きな販促効果が生まれる。