紳士服チェーン業界は、全国約800店舗を展開する青山が独自のオムニチャネル戦略で店舗とECの融合をリードしている格好だが、では準大手・中堅チェーンはどのような“デジタル武装”を試みているのか。
メンズファッションチェーン「サカゼン」「ゼンモール」を展開する坂善商事(東京都中央区)は、レコメンド型リターゲティング広告の導入で効率的な集客と販売を実現している。楽天市場やアマゾンなどモールへの出店が先行していた同社は、2011年10月に自社ECサイトを開設し、以降、検索連動型広告、アフィリエイト、バナー広告、メルマガ、リターゲティング広告など、一通りの集客、リピート促進策を打ってきた。
その中で、再訪効果はあるものの費用対効果が見合っていなかったリターゲティング広告の見直しに着手し、2012年春、Webマーケティング支援のTAGGY(東京都港区)が提供する「おもてなしバナー」を導入した。例えばあるユーザーがサカゼンのECサイト上でジャケットを閲覧して離脱した場合、色・柄違いの商品など関心を持ちそうな商品写真を数点載せた広告を自動的に生成して配信する。ヤフーが提携した仏クリテオのリターゲティング広告「Criteo」と同種のサービスだ。


以前からリターゲティング広告を導入はしていたものの、サカゼン再訪を促すメッセージをECサイト離脱者に一律で表示していたため、離脱ユーザーの再訪意欲をかきたてるには至っていなかった。
これは同社の規模や店舗エリアも影響している。店舗数は1都3県と宇都宮市(栃木県)の29店舗。首都圏居住者にとってサカゼンは、タレントの石塚英彦さんがイメージキャラクターを務める「大きいサイズの品ぞろえが充実した店」という認知が一定程度広がっている。だが、「大きいサイズ」などで検索してたまたま同社のECサイトを訪れ離脱した関西のユーザーに、サカゼンの名前を広告表示しても、知名度が低いためアピールしにくい。
レコメンド型のリターゲティング広告は、ECブランドより閲覧履歴の類似商品をメーンに提示する。品ぞろえが充実している店舗は、「こんな商品もあったのか」とユーザーを再訪させやすく、優位性がある。同社ECサイトを担当する篠原輝彦氏は、「おもてなしバナーの導入で、従来のリターゲティング広告と比べるとCVRは1.5倍、1万円弱だったCPAは半分になった。現在はCPA3000円台を目標にレコメンドする商品のチューニングを進めている」という。アドテクノロジーは、ブランド力に乏しくともアイテム豊富な店舗の強力な味方になりそうだ。
LINEの告知パワーを生かすはるやま
出店エリアが関西にやや偏重しているはるやま商事は、LINE活用で認知と売り上げアップを目指す。9月24日にLINEアカウント開設と合わせてスタンプも公開し、一気に300万人の「友だち」を獲得。12月10日時点で467万人に上る。
この時期にLINE活用に踏み切ったのは、学生の就活シーズン、特に就活女子のリクルートスーツ需要をにらんでのこと。クールビズを契機にオフィス着のカジュアル化が進んだことでメンズスーツ市場は縮小傾向にある。その分を女性用スーツで挽回するためだ。事情は各社共通で、青山は女優・モデルの佐々木希さんプロデュースのスーツを発売。はるやまはこの秋からモデル・タレントのローラさんを起用し、「美脚スーツ」を訴求している。そしてテレビCM出稿量で最大手の青山にかなわないとしても、就活世代が多く集うLINE上でアピールすることでリーチを広げる考えだ。
同社のLINEアカウントは、マス広告の補完として役割を果たしている。この11月に人気アニメ「ジョジョの奇妙な冒険」とのコラボアイテムの発売をLINEで告知した際は、予約開始と同時にサーバーが落ちるほどのアクセスが殺到した。同社EC事業課の北村晶課長は、「以前、『ヱヴァンゲリヲン』コラボ商品の発売の経験から十分余裕をみたはずだったが…」とLINEのリーチ力に驚く。特に関東圏で店舗数が少ない同社は、こうした話題性のある企画を定期的に実施することで、店舗に足を運んでもらうきっかけを作ろうとしている。その告知媒体としてLINEは欠かせないツールになった。
さほどデジタル活用が喧伝されてこなかった紳士服チェーン業界だが、オムニチャネル、アドテク、コンテンツ企画・告知と、各社の立ち位置に応じた工夫で成果が上がりつつある。