A体かAB体か、ウエスト、股下サイズは…? 自分のスーツのサイズを正確に把握しているビジネスマンは果たしてどれだけいるだろうか。「ファッションEC(電子商取引)は試着できないから難しい」という定説がもはや過去形になったとはいえ、ビジネススーツはまだEC購入のハードルが高い商品群である。その理由は試着の可・不可以前に、自分のサイズを覚えている人が少ないためだ。
この障壁を、紳士服チェーン最大手の青山商事が乗り越えようとしている。ECサイト「洋服の青山オンラインストア」に2012年11月、「マイサイズ機能」を導入。同店でスーツやYシャツを購入した顧客が、メンバーズカードに記載されている会員番号でECサイトにログインし、マイサイズ設定のページにアクセスすると、直近で購入した服のサイズを呼び出すことができる。顧客データベースに購入商品情報をひも付けることで実現させた。登録されているのは男性の場合、体型・号数・ウエスト・首周り・裄丈・S/M/L・股下の7種類のデータ。「以前買った時よりお腹周りが…」という場合は、手動でウエストサイズを上げ下げすることももちろん可能だ。

顧客にとってマイサイズ機能を利用するメリットは、サイズを記憶してくれることだけではない。マイサイズを設定した顧客には、当該サイズの在庫がある商品のみを表示する。色も柄も素材も気に入っていざ購入ページにいったら自分に合うサイズが在庫切れ――、そんなガッカリ感からの離脱や他社への乗り換えを防ぐことができる。サイズ面での迷いがなくなったことで、サイズ登録者の購入完了までの時間は平均して3分の2に短縮したという。ECでスーツを購入する際にかかるストレスが軽減されたとみていいだろう。
では売り上げは伸びたのか。同社EC事業部の石矢浩部長代理は、「EC購入客のうちマイサイズを登録している人は現在ざっと4人に1人。EC売り上げに占める登録客の売り上げ構成比は25%よりずっと多い。すなわち客単価が高い」と言う。
そのため同社ではECの認知と利用向上に力を入れている。実店舗での購入客にECでの買い物が5%オフになるお試しクーポン券を渡すなど、実店舗からECサイトへ誘導する「逆O2O」を展開中だ。実店舗の顧客をECに送り込むことに当初は抵抗感もあったが、EC客は実店舗も併用してリピートする傾向が強く、ECで試着予約を申し込んだ客がシャツやベルト、アクセサリー類をついで買いしていくなど、実店舗への送客機能を果たしている面があることも理解されてきた。店舗でもECでも購入しやすいオムニチャネル環境を整え、オール青山での売り上げを伸ばしていくことで、リアル・ネット双方のベクトルが合致したところと言っていいだろう。
スーツ上着内側にQRコード


顧客がスーツのマイサイズを把握できるということは、そのサイズを参照して他チェーン店で買い物をしやすくなる面もあることは否定できない。他店ではなく青山で買ってもらうにはどうしたらよいか。同社が手がける若手ビジネスマン向けスーツブランド「PERSON'S FOR MEN」では、ブランド専用のスマートフォンサイト「PERSON'S CLUB」を開設。スーツの上着内側にQRコードを印字した布地を縫いつけ、アクセスを促している。
店員の薦めや在庫の有無でなんとなく買ったスーツブランドについて、購入後にわざわざ調べようとする人はめったにいない。QRコードからスマホサイトに誘導することで、同ブランドのコンセプトや物作りへのこだわりについて知ってもらい、まずは「いい買い物だった」と満足してもらう狙いがある。コンテンツには、スーツの知識を基礎から学べるビジネスコミックや、女子学生やモデルが「理想のスーツ男子」について語るコーナーなど、若者向けらしい内容を盛り込んだ。
更新は月2回ペース。ブランドとのつながりを作ることでリピート購入の促進をもくろんでいる。スマホサイトを企画した同社販売部の三浦敦課長は、「商品力には自信があるので、購入後の満足感、納得感を高めることでリピートを促せると考えた」と語る。青山でのみ取り扱うブランドゆえ、ブランドのファンになればリピートが見込める。
マイサイズ機能で買いやすい環境を、スマホサイトで買いたくなるマインドを作ろうとする青山の工夫は、アパレル業界のみならず学ぶところが多そうだ。