ファーストリテイリング子会社でアパレルブランド「GU」を展開するジーユー(東京都港区)は、スマートフォンを活用したマーケティングに積極的に投資をしてきた1社だ。いち早くスマートフォン向けアプリ「ジーユー」を提供して、店舗集客に大きな成果を上げてきた。集客の役割は「プロモーション」機能として今後も強化を続ける。これに「インフォメーション」と「コミュニケーション」という2つを新たに加えて、3つの軸でアプリを進化させていく。

 まず、インフォメーションの強化。具体的な施策としては、店舗内でアプリを通じて情報を届け、店舗接客をサポートする手法に12月7日から試験的に取り組む。これは、デバイス同士をワイヤレスでつなぎ、データをやりとりできる近距離無線通信規格の1つ「Bluetooth」を活用したもの。Bluetoothで来店者のスマートフォンと接続する端末を、ジーユーの店舗内に設置する。この端末を通じて、来店したアプリ利用者に情報を届けて、店舗での体験の向上を目指す。

ジーユーはスマートフォンアプリを活用した“店舗接客”を始める

 例えば、商品を見ているときに、その商品を使ったコーディネート画像を手元に配信する。あるいは、ファミリー層が多い店舗では、子供向け商品を薦めながら店内マップを表示して子供向け商品のコーナーへ案内するといった施策に取り組む。

 店舗内で情報発信をする理由について、ダイレクト事業部の萩原将人氏はこう説明する。「店舗での買い物の体験こそが、次回の来店につながる最も重要なポイントと考えている。消費者がほしいと思った情報をタイムリーに届けられれば、店舗内での購買体験を大きく向上させられる可能性がある」。

 同社が今まで取り組んできた店舗外での情報発信がチラシの配布に相当する施策とすれば、この店舗内での情報発信は接客に相当する施策と言えよう。

 大型店では店舗内の複数フロアに端末を設置して、それぞれの売り場で異なる情報を発信できるようにする。例えば、女性向けフロアと、男性向けフロアで配信する情報を出し分ける。さらに各売り場にはアプリの利用者が訪れたことを検知するセンサーを設置して、店舗への誘導効果も測定する。

 対象店舗は、東京・新宿のビックカメラとの共同運営店ビックロ新宿東口店や、東京・池袋店など計4店舗。スマートフォンの持つBluetoothの機能を利用している人が多いであろうと推測される店舗だという。ただ、それでも対象者はジーユーアプリの利用者で、かつBluetooth機能を利用している人と、かなり絞られる。今後、約3カ月の間に、店舗内で情報をプッシュ配信することに対する顧客の反応なども見ながら、全店導入の判断をしていく。

顧客を通じてアプリ利用者を獲得

 次にアプリ進化のもう1つの軸「コミュニケーション」の強化について。これはアプリを通じた消費者同士のコミュニケーションを促進して、来店促進や新たなアプリ利用者獲得を狙うものである。

 具体例としては、11月4~22日にかけて、下着商品のシリーズ「あったかインナー」を対象に実施したキャンペーンが挙げられる。対象商品が半額になるクーポンをアプリ利用者がアプリ経由で友人に送ると、送信した人も同じクーポンがもらえる企画だ。

 クーポンを受け取った人は、メールに書かれたコードをジーユーのアプリ上で入力するとクーポンをもらえる仕組みだ。メールでクーポンを受け取った人がアプリ利用者でない場合には、アプリをダウンロードする必要があるため、消費者を介してアプリ利用者を獲得にもつながることが期待できた。実際、「キャンペーン期間のアプリダウンロード数は、過去最高となった」(萩原氏)という。

 「アプリ利用者の規模が十分大きくなり、顧客を媒介者として情報を広げられるようになったタイミングで実施したことが成果につながった」と萩原氏は見る。そもそもアプリの利用者が少なければ、顧客を介した情報の広がりも見込みにくい。消費者間のコミュニケーションは、数百万規模になってからこそ、その威力を発揮する。

 今後、さらなる消費者同士のコミュニケーションの活発化を目指す施策を検討中だ。例えば、アプリ利用者同士で遊べるゲームや、友人間で似合いそうな商品をレコメンドできる機能などだという。

ダウンロード件数は月平均約26万件

 ジーユーがスマートフォンの活用に積極的に取り組んできた理由は明快で、10~20代の若年層が、同社の主な顧客層だからだ。若年層にとって情報収集のツールは雑誌や新聞ではなく、スマートフォンが中心になっていると言われる。かつてジーユーの主な集客ツールは、新聞の折り込みチラシだった。ただ、若年層の情報取得の経路の変化もあり、紙のチラシの効果を疑問視する声がジーユーの社内で高まっていった。もっと、直接顧客層にアプローチする手段はないだろうか。そうした考えからスマートフォンに目をつけて、アプリの提供を始めた。狙いは的中した。若年層の間でスマートフォンが普及するにつれて、ジーユーのアプリ利用者も増えた。

各アプリ配信サービスのカテゴリー「ライフスタイル」における、ジーユーアプリのランキング順位の推移。出典:DISTIMO AppIQ、データ提供:アンドロイダー/インターアローズ

 右図はオランダのアプリ調査会社ディスティモのデータ「DISTIMO AppIQ」からアプリ配信サービスのカテゴリー「ライフスタイル」における、ジーユーアプリのランキングの推移をグラフ化したものだ。9月にアップルの「App Store」で順位を落としてはいるものの、それを除けば毎月10位以上を維持している。ディスティモのデータによれば、各配信サービスの合算で月平均約26万件がダウンロードされていることになる。

 ディスティモのデータ販売代理店の1社でAndroidアプリ情報サイトを運営するアンドロイダー(東京都渋谷区)のエバンジェリストの佐藤進氏は、「実店舗を持っている企業は顧客がスマホデバイスを積極的に利用する層であれば、店舗で告知するだけでもアプリ利用者を獲得できるのが強みだ」と指摘する。ジーユーはアプリを通じて、店舗内でアプリを使うとその場で使えるクーポンがもらえるといったキャンペーンも多数展開している。そうした店舗連動型キャンペーンがこれだけ多くのダウンロードに結びついていると考えられる。

 こうしてアプリの利用者を増やしたことなどにより、紙のチラシを大幅に減らす成果につながっている(関連記事)。経営への大きな貢献といった成果が目に見え始めたことが、アプリ活用の新たな活用の可能性を模索するきっかけとなった。

 ジーユーがアプリ強化の先に見据えるのは、オムニチャネルの実現だ。元々同社は、消費者とコミュニケーションするメディアや、店舗やEC(電子商取引)サイトといった購買の“場”などを、すべて顧客側で自由に選んでもらえるようにフラットにしていくという思想の下、スマートフォンを活用したマーケティングを進めてきた。「スマートフォン向けのアプリに、ブランド体験を集約していく」(萩原氏)。その戦略に基づきながら、店舗とECの融合を一層進めていく方針だ。

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