折からのランニングブーム、そして2020年の東京オリンピック開催決定で、スポーツ用品メーカーや販売店には追い風が吹いている。スポーツシューズが売り上げの7割を超えるアシックスもその1社だ。世界トップクラスの長距離ランナーの多くが愛用し、今や売上高2600億円(2013年3月期)に占める海外比率は70%(2013年7~9月期)に達する。
それでもスポーツシューズ・ウエアの競合グローバルブランドに目を転じると、米ナイキが2兆5300億円(2013年5月期、1ドル100円換算)、独アディダスが約1兆9000億円(2012年12月期、1ユーロ130円換算)とその差は大きい。アシックスは中期経営計画「アシックス・グロース・プラン2015」で2016年3月期の売上高4000億円以上、営業利益率10%以上とする目標を掲げており、独プーマの約4200億円(2012年12月期、1ユーロ130円換算)を射程に入れて世界3位を目指している。

こうした背景からアシックスは、グローバル強化の一環としてこの9月、Webサイトをリニューアルした。国内マーケティングを担うアシックスジャパン(東京都中央区)でWeb領域を担当するマーケティング統括部マーケティング部デジタルマーケティングチームの大畑雅哉マネジャーによると、「これまではWebサイトの運営・管理が世界の各拠点ごとにバラバラで、ブランドイメージの統一が不十分だったり、広告クリエイティブの制作で非効率な面があったりした」という。
そこで統一のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を導入。日本、米州(北米、南米)、欧州(ロシア、中東、アフリカ含む)、東アジア、オセアニア&東南アジアの世界5極体制下でマーケティング担当者の相互の連携を強化し、対応スピードを速め、効率化を進める。現在、日本のほかアシックスアメリカのWebサイトがリニューアルを済ませた。他地域も順次刷新していく。
サイト刷新にはもう一つ、「流通における自主管理売り場の売上高(直販比率)を10%以上にする」という狙いも含まれている。同社の商品は、スポーツ用品店や百貨店など商業施設のシューズ売り場から、街の靴販売店まで、全国多数の店舗で取り扱っている。東京・銀座や原宿にある「アシックスストア」などの直営店が占める売り上げは現状わずかで、売り上げ構成の大半がBtoB(企業間取引)だ。
そこで同社としては、顧客である市民アスリートと直接接する機会を増やすことで、商品開発やプロモーションの強化をもくろんでいる。直営の実店舗を今後も増やす方針だが限界があるため、期待がかかるのがEC(電子商取引)だ。これまで自社EC「アシックスファミリークラブ」を運営していたが、自社サイトの商品紹介ページとECの購入ページとがリンクされていないなどの問題があった。

リニューアル後は商品紹介ページに購入ボタンが付き、また性別・サイズ・靴幅・カラーといった条件による商品検索機能を拡充したことで、使い勝手を向上させた。なお自社サイトおよびECサイトのCMSには、これらを一括管理できる独ハイブリスの「hybris コマース・スイート」を採用している。
「ビジュアルを強化したことで、サイトの定点観測評価は刷新前と比べて好評を得ている」(大畑氏)という。リニューアルの2週間後、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手とのアドバイザリー契約締結を発表し、現在同社サイトはダルビッシュ投手をフィーチャーした構成になっている。ダルビッシュ投手との契約は、単に野球用品を供給・着用するだけでなく、同社商品全般の着用やマーケティングのアドバイスも含まれる。新プラットフォーム上で彼の魅力と人気、知名度を幅広い商品群で生かすことが成長につながりそうだ。