スマートフォンが主役になる時代の到来で、大きな変化が見込まれるもの。その4つ目は、サイト構築手法である。
今年5月、本誌がD2Cと実施した「インターネット&モバイル広告調査」によれば、スマホ対応サイトを開設済みの企業は全体の2割強(22.9%)にとどまった。しかし、「今後、対応サイトを開設したい」という企業も2割強(22.7%)あった。「2014年、企業によるスマホ対応は間違いなく進むだろう」。多くのサイト構築を支援してきたアイ・エム・ジェイ(IMJ)の高橋剛執行役員はそう話す。
一方、ネットイヤーグループ取締役グループ戦略統括の佐々木裕彦氏は、「企業によってはオウンドメディア全体のコンセプトをゼロから見直す必要が出てくるのではないか」と指摘する。
台数が増え続けるスマホは早晩、顧客接点の“主役”になる可能性を秘める。それを踏まえたサイト構築が必要。そんな認識が、ここに来て急速に広まっている。では、これから迎えるスマホ時代に適した企業サイトとはどのようなものか。先進企業やコンサルタントなどに意見を求めた結果、3つのキーワードが浮かび上がってきた。
1つ目は「モバイルファースト」である。既にあるパソコンサイトを前提にするのではなく、スマホを中心に据えて、企業サイトのあり方を考えることを意味する。

飲食店クチコミサイト「食べログ」を運営するカカクコムは、2011年8月にスマホサイトを開設。今後はモバイルファーストの視点を加味しつつ、サービス全体の強化を加速しようとしている1社だ。
食べログの10月末時点での利用者は、パソコン経由が2577万人。対して、スマホ経由が2297万人となり、パソコンと拮抗するまでに増えてきた。「2014年に逆転する可能性は高い」。食べログ本部長兼営業部長兼メディア開発部長の中村哲郎氏はそう話す。
食べログの場合、ビジネスパーソンが会社のパソコンから宴会を予約するといった利用も多く、パソコンサイトにも力を入れていく。パソコン、スマホのサイト、そしてスマホアプリの3つは、「可能な限り機能を共通化する」(中村氏)のが同社の基本的な考えだ。
予算をスマホに集中する企業も
とはいえ、スマホなら出先で店を検索し、画面のボタンを1つ押すだけで店に電話をかけられる。位置情報機能を使って、現在地近くの店を絞り込むことも簡単だ。パソコンサイトにはない利便性を提供できる上に、「ヘビーユーザーはアプリを使って店を検索したり、予約したりする傾向が強い」(中村氏)。こうした事情もあり、2014年春にはスマホアプリをリニューアル。さらなる機能強化を目指していく。
既に一部の先進的な企業では、「Web関連予算の大半を(パソコン向けから)スマホサイトに振り向けることを決定しているところもある」(IMJの大塚健史執行役員)という。2014年、モバイルファーストは、サイト構築における常識となるだろう。
モバイルファーストに続く2つ目のキーワードは「タップ&スワイプ」。ボタンを押して選択したり、指を滑らせて画面を切り替えたりする操作を指す言葉だが、何もスマホに限らない。タブレットや「Windows 8」を搭載したパソコンも、タップ&スワイプで操作することが前提である。
「今後、タップとスワイプでサイトを閲覧する人は着実に増える。企業サイトは頻繁にリニューアルできないのだから、数年先を見越して設計をする必要がある」。コンサルティング会社フォース(千葉市花見川区)の増井達巳代表社員はそう断言する。同氏はキヤノングループのサイト刷新で旗振り役を務めた前職の経験などからも、タッチ&スワイプ操作に最適化した新しいユーザーインターフェース(UI)の導入が、2014年の焦点の1つになると見ている。
では、具体的にはどんな見た目になるのか。好例として多くの人が挙げるのが、10月に全面リニューアルしたサンリオの企業サイトである。このサイトは画面要素の大半がタイル状のボタンで構成され、文字要素は極めて少ない。まさにスマホのUIにも通じるデザインだ。ナビゲーションメニューの位置が違ったりするが、パソコンサイトのUIもスマホサイトとほぼ共通だ。

サンリオのサイトをパソコンで見るとボタンはかなり大きい印象だが、「これくらいの大きさでないとスマホから見たばあいに、画面を操作しにくい」(増井氏)。逆に言えば、既にあるパソコンサイトをベースにスマホ対応サイトを考えていては、タップ&スワイプに適したUIにすることは難しいということだ。タップ&スワイプの増加は必然的に、サイト全体の見直しへとつながっていくことになる。
3つ目のキーワードは「シンプル」。見た目はもちろん、掲載するコンテンツについても、できるだけシンプルな作りにすることが2014年のトレンドになりそうだ。
例えば、家電製品などのメーカーが製品を紹介するページを作るにしても、現状のように製品の機能や特徴を文章で長々と説明するスタイルが、“モバイル向き”でないのは明らかだろう。ではどう変えるか。増井氏は「基本的には、スマホの画面に表示した際、多くても2スクロール分くらいに収めるべきだろう」と提案する。
グローバルナビは“時代遅れ”になる可能性も
パソコンサイトでよく見かけるグローバルナビゲーションやローカルナビゲーションなどの仕組みも、見直しを余儀なくされそうだ。マウスで操作するパソコンサイトでは便利で、採用している企業も多いが、これもモバイル向きとは言い難い。“時代遅れのデザイン”になる可能性がある。
どう対応するか。答えになりそうなのが、先のサンリオとキヤノンのサイトである。両方とも、グローバルナビに相当する機能を「メニュー」ボタンとしてサイトに設置している。そのメニューを押して誘導する先は、キヤノンでは、わずかに3つ。トップページに戻る「ホーム」、製品マニュアルや修理情報をなど載せた「総合サポート」、そして「サイトマップ」だけだ。
シンプルかつ大胆なUIを採用した理由について増井氏は、こう説明する。「そもそもサイト構造が複雑だから、ナビゲーションが必要になる。シンプルな構造に徹すれば、グローバルナビを設ける必要は、そもそもない」。
スマホが主役となる2014年まであと1カ月ほど。多くの分野で激しい変化が見込まれるが、忘れてならないのは「スマホの小さな画面の先には、常に顧客がいること」。やがて来るスマホ時代とは、顧客と密に向き合う「カスタマーファーストの時代」でもあるのだから。