「メールからのサイト来訪動向を調べてみると、パソコンではなくスマートフォンでメールを見ている人が増えてきているのは明らか。メルマガの効果については以前から議論があるが、ツールがスマホにシフトすることでメルマガを開封・閲覧してもらうことがパソコンよりさらに難しくなるように思う」。通販を中心とした化粧品製造・販売のドクターシーラボでeコマースグループを統括する西井敏恭氏は、このように厳しい見方を示す。
本誌が実施したスマホ利用者調査からもその一端がうかがえる。「スマートフォンを利用するようになってから、友人や家族とメールを送受信する回数は変化しましたか?」と20~40代のスマホ利用者500人に尋ねたところ、最も多い回答は「変わらない」(62.1%)だったが、4人に1人が減少していた。この傾向は特に若い女性に顕著で、「大幅に減った」(33.7%)と「やや減った」(16.9%)を合わせた“減少派”が過半数を占めている。

要因として考えられるのが、LINEやFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアの浸透だ。これまでメールを送り合っていた友人・家族とのやりとりの舞台が、スマホに切り替えてからはLINEに移行したケースが多いことは周囲を見渡せば一目瞭然。友人から届くメールが総じて減少し、受信ボックスには以前商品を購入したショッピングサイトからのメルマガばかり、ともなれば、メールチェックに以前ほど注力しなくなり、開封・閲覧率が下がるのも自然な流れと言える。
ではもはやメールでの集客・リピート促進は難しいのか? ドクターシーラボの西井氏は、「2014年中にも一斉配信型のメルマガはなくしていきたい。顧客の状況に合わせたきめ細かいメールマーケティングを強化していく」と方針を示す。

メルマガが読まれにくい理由について西井氏は、友人から届くメールのような“自分宛”の感覚がないことが原因と指摘する。「例えば誕生日に配信するメールや、キャンペーンに参加した顧客にその結果をお知らせするメールは開封率が高い。顧客ごとにマッチした内容のメールをタイミングよく届けることで、リピート購入を促せる。当社にとってメールは今なお最も費用対効果の高いチャネル」(西井氏)。メール配信にはエクスペリアンジャパン(東京都港区)の「MailPublisher」を利用している。
既に、購入商品・カテゴリー、最終購入時期など顧客の購入履歴に見合った情報をタイミングよく配信するメールマーケティングに取り組んでいる。注文御礼や、商品サンプル送付後の使い心地お伺いメールなど基本的なものから、効果を高める利用法など購入商品・カテゴリー特有のお役立ち情報、リピート注文が途切れた顧客へのフォローメールなど、そのシナリオ数は250種類を超えるという。
あるカテゴリーで新商品を発売したことを宣伝したいからといって、正反対の肌質で悩む人にも一律で同じ内容のメールを送りつけるのは配慮に欠ける。この場合、「同じカテゴリーの商品を使用中の人」「過去に購入履歴のある人」「他のカテゴリー商品の購入履歴があってしばらく注文がない人」などは購入してくれる可能性が幾分高い。現在同ジャンルの商品を愛用中の顧客には、乗り換えを勧めるのか、併用することでより効果が期待できるのかといった説明も必要だろう。該当する顧客リストを抽出し、ターゲットに見合ったクリエイティブを制作・送信することで、メールマーケティングの精度は上がっていく。
カート放置客にリマインドメール
女性誌連動ECから「自分のためのセレクトショップ」に大きく舵を切ったマガシークも、顧客個々へのメールマーケティングに力を入れている。

会員数は現在約180万人。早期の200万人達成を目指しているが、課題は既存会員のリピート率低下にあった。ECサイトは購入履歴や閲覧履歴に応じてお薦め商品を表示するため、利用するほど自分好みのセレクトショップになる工夫が施されている。だが、ECサイトに誘導する会員向けメルマガは一斉配信で、効率が悪かった。
そこで同社はこの9月、米レスポンシスのキャンペーンマネジメントシステムを導入。利用中のアクセス解析ツール「SiteCatalyst(現Adobe Analytics)」と連携が容易だったことで選定した。例えば「商品をカートに入れたまま放置している顧客に、翌日『お忘れではないですか?』とリマインドメールを送る」といったシナリオを設定すれば、アクセスログを基に自動的にメールが配信される。
同社マーケティング部の炭竃茂徳氏は、「始めて間もないが、カート放棄客のコンバージョン率は、リマインドメール配信で、通常のメルマガ比50~100倍の成果が出ている」と言う。
日本オラクルも、キャンペーンマネジメントシステム「Oracle Eloqua」を11月中に発売する予定。ワン・トゥ・ワンの顧客コミュニケーションを自動化するツールは、2014年、さらに多くの企業で導入が進みそうだ。