企業のマーケティングで急速にニーズが高まっているDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)。だが、スマートフォンの普及で大きな弱点が生まれていた。データの分散化である。
DMP、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)、SSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)は導入企業のサイトを訪れた人のブラウザーにCookie(クッキー)を付与し、サイト利用動向などを分析する。ところが、端末が異なれば別のクッキーが付与される。そのため、一人の利用者がパソコンとスマートフォンを使い分けている場合、データ上は異なる利用者と判断せざるを得なかった。スマートフォンの普及が進み、ネット利用が活発になるほどこの問題は大きくなる。そこで広告事業者はこの弱点克服に向けて、既に手を打ち始めている。

「KDDIの携帯電話契約者の中の一部ではあるが、我々はパソコンとスマホの利用データを統合したデータ、すなわち“答え”を持っている。このデータを核に、推定技術でパソコンとスマホのデータを統合していく」。こう意気込むのはKDDI子会社でネット広告事業を展開するmediba(東京都渋谷区)の菅原健一CMO(最高マーケティング責任者)だ。菅原氏の言う“答え”とは、KDDIの携帯電話契約者の共通ID「au ID」で、パソコンサイトとスマホサイトにログインしている利用者のデータを指す。会員IDを通じて異なるクッキーなどを同期する。medibaは12月2日、こうしたデータを生かして、スマホ向けSSP「Ad Generation」の正式提供を始める。既にテレビ朝日などの導入が決まっているという。
Ad GenerationはDMPとセットで媒体社のサイトに導入する。DSPやアドネットワークを通じて広告枠を販売する際に、DMPに格納した媒体社サイトのデータとmedibaの持つデータを基にしたオーディエンスデータをDSP側に提供して、媒体社にとってより収益に結びつくDSPと売買をする。広告を買う側は、より精度の高いターゲティング広告の配信が期待できる。
D2Cが迫られる事業モデル変革
NTTドコモ子会社のD2C(東京都港区)も、4月から試験的にドコモのデータを活用した広告を配信している。従来、同社の収益源は、ドコモの携帯電話向けネットサービス「iモード」の広告枠の販売だった。だが、スマホの普及で消費者はLINEやFacebookなど、様々なプラットフォームを利用するようになり、D2Cも事業モデルの変革を迫られている。
「従来型の携帯電話の時代は、人が集まる“場所”が限られていた。利用者も広告枠も限られ、売り手市場だった。ところが、スマホの普及で利用するサイトは広がり、アプリという新たな市場も生まれ、広告在庫が膨大になり、広告価値は大きく下落。買い手市場へと変わっている」。D2Cの宝珠山卓志社長はモバイル広告ビジネスに起きている変化をこう説明する。
そこで重要になるのが、データの活用だ。「ターゲティング広告の精度を高めなければ、広告枠の価値は高まらない。当社もデータ活用に突き進む必要に迫られている」(宝珠山社長)。
現時点ではドコモの広告枠に限定しているものの、データを活用すると広告効果が高まることも分かってきたという。ただ、データの取り扱いに対して消費者が敏感になっており、第三者の広告枠での活用は慎重に進める。medibaとは対照的だが、宝珠山社長に焦りはない。「(データの)ボリュームとターゲティング精度次第で、一気に立場が逆転する可能性がある」と余裕を見せる。ドコモの6000万人という顧客基盤を武器に、腰を据えてデータ活用事業に取り組んでいく方針だ。
データの統合が進む一方で、その活用先は必ずしも、モバイル向けの広告ではないようだ。DSP事業のフリークアウトの佐藤裕介COO(最高執行責任者)は、「モバイルDSPは、ターゲティング効果が極めて低い」と明かす。その理由について佐藤氏は、「誤タップを誘うスマホ広告が多いなど、広告枠自体の質が低いため」と分析する。
では、統合したデータはどのように活用すべきなのか。まず、スマホサイトの利用者ごとの最適化が考えられる。スマホは画面が小さく、サイトを訪れた際に最初に表示できるコンテンツが限られる。興味を引くコンテンツを表示できれば、効果を大きく高められるという。
モバイル検索とデータを組み合わせたターゲティング広告も大きな可能性がある。フリークアウトのDMPで作ったセグメント情報をグーグルの解析ツール「Google Analytics」と連携させれば、ハワイ旅行に強い関心のある人がハワイについて検索した時だけ高単価で入札する、といった戦術をとれる。スマホのデータ統合によって様々な消費者接点での活用が重要になりそうだ。