ビー・エム・ダブリュー(BMW)は11月13日、新たなブランド「BMW i」初の量産モデル、「BMW i3」を4月5日、「BMW i8」を来夏以降、日本で発売すると発表した。同ブランドは2011年2月に構想が発表されたもので、電気自動車(EV)をベースに、既存のEVが持つ弱点を解決すべく様々な技術が投入されている。新たなコンセプトの商品の理解を促進し購買に結びつけるため、同社はデジタルマーケティングの活用を重視。その成否のカギを握るのがソーシャルメディア、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、リッチ広告の活用である。新市場の創出へ向けて、着々と成果を上げつつある。

2014年4月に発売になるBMW i3、価格は499万円から

 i3は大都市圏に向けたEVであり、i8は1.5Lという小型エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド(PHV)のスポーツカーだ。i3はバッテリー切れの際に充電用として使用できるガソリンエンジンを搭載したモデルも用意しているのがユニークなところだ。日常的な走行条件下で130km~160kmの航続距離を、約300kmまで延長することが可能という。価格は8%の消費税込みで、i3が499万円から、i8は1917万円。

2014年夏以降に発売になるBMW i8、価格は 1917万円

 この新シリーズの成功に向けて、課題の1つとなるのが新たな顧客層の開拓である。

 従来、BMWはプレミアムで走りの性能が高いことを前面に打ち出してきたブランドだ。ところが、BMW iはEVが前提となる。また、日本市場においては、三菱自動車の「i-MiEV」や日産自動車の「リーフ」などが既に量産EVとして市販されているが、販売台数はともに苦戦しているのが実情だ。従って、従来のBMWファンだけ、EVユーザーだけでなく、新たなターゲット層へのアプローチが必要になる。

ソーシャルグラフを通じて拡散

 そこでBMWはまず、Facebookとイベントを連携させた取り組みを展開した。同社はFacebookページを2010年と、自動車業界の中では比較的早期に開設し、現在は12万人以上のファンを抱える。

 発表に先立つ2カ月前の9月から、東京、大阪の都心部のホテルや商業施設、イベント会場などにBMW iのコンセプトモデルを展示して、同社のFace
bookページで告知してきた。

コンセプトモデルの展示イベントをFacebookページへ投稿

 マーケティング・ディビジョン マーケティング・コミュニケーション&イベント オンライン・マーケティング・マネジャーの新井一慶氏は、「BMW iは既に注目度も高く、ファン同士での意見交換なども起きている。そこでいただいた意見を参考に、次の展示イベントへと生かすようにしてきた」と語る。新たなコンセプトを持つBMW iへは賛否両論の意見が出るが、その特長に関心を持つユーザーのソーシャルグラフ(ソーシャルメディア上の人間関係)を通じて、似たような趣味嗜好を持つようなターゲット層への話題拡散を期待している。

 また、BMW iはバッテリーによる重量増加を相殺するべく、車体骨格部分に炭素繊維強化プラスチック、いわゆるカーボンを採用している。iシリーズ専用のラインを用意し、量産車への採用は困難とされてきたカーボンモノコックの製造から、車体の組み立て、そしてリサイクルに至るところまで、今秋から既に稼働を開始した。リサイクル可能な素材を多く採用し、新しい時代の「サステイナビリティ(持続可能性)」のある自動車として強く訴求をしている。

 そうした社会的な問題に関心を持つ層へは、「40代男性、年収1000万円以上」のようなデモグラフィック(人口統計学的属性)な従来型のターゲティングで到達することは難しい。「環境問題に関心を持ちつつ、自動車も好きな人」というようなサイコグラフィック(心理学的属性)なターゲティングによりアプローチする必要があるだろう。

 そこで同社は今、DMPの活用を模索中だ。これまでリターゲティング広告は活用したことがあるが、さらに高度なターゲティングに取り組む。

 今後、ディスプレイ広告を活用したキャンペーンを2013年内、2014年初に実施する予定にしている。1回目のキャンペーンの広告効果を見て、BMW iに関心を持つオーディエンスを探る方針だ。

 ディスプレイ広告においては、「表現力豊かなリッチアドなどは、もちろん重要で、これから段階的に準備していく」(マーケティング・ディビジョン カスタマー・リレーションシップ・マネジメントCRMシニアスペシャリストの石澤信氏)。

 例えば、新たなコンセプトをネット広告内だけでもある程度理解してもらえるように、マイクロソフトの「Windows 8」内で表示するリッチ広告のような新手法も積極的に採用していく予定だ。

 11月13日の正式発表を機に、これまでの“見てみたい”から、“乗ってみたい”にユーザーの意識が切り替わる固定を想定し、コミュニケーション内容も変えていく。

 ちなみに、英BMWでは、スマートフォンやタブレット向けにショートムービーのアプリ「BECOME ELECTRIC」を提供している。この物語は見知らぬ男が助けを求め、自分がドライブするi3に乗り込んでくるところから始まる。映像は特殊なカメラを使って撮影されており、端末を上下左右に移動させると周囲を360度見渡せる非常に凝った作りで、バーチャル試乗が可能となっている。英語版のみの提供だが、こうした乗りたくさせる仕掛けは、今後日本でも展開されていくだろう。

一気通貫で広告効果を把握

 BMWがこうした新手法を積極的に採用できるのには理由がある。同社のキャンペーンではKPI(重要業績評価指標)をしっかり把握し、購買までの効果を測定しているためだ。石澤氏はこう語る。

 「プロモーションの成果は数値化されている。サイトのページビュー、滞在時間、バナーのクリック、メルマガの開封レートや、資料請求、ディーラーへの来店、テストドライブ(試乗)、成約に至るオンラインからオフラインのところまで、すべて押さえてあり、それがBMW全体の共通指標になっている」

 オフラインの営業に入った段階ではセールスフォースを活用して、BMWとディーラーの間で成果を一気通貫で見られるようにしている。こうした緻密な効果測定があってこそ、先進的な取り組みに迷わずチャレンジできるわけだ。当然の対応ではあるが、見習うべき企業はいまだに多いのではないだろうか。

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