映画の公開と同時に「iTunes Store」「TSUTAYA TV」といった映画・ドラマ配信サイトで配信を始めたり、ブルーレイ版を販売したりする映画が増えている。スマートフォンやタブレットを使い、好きな場所で映画などを見る。消費者の新しい視聴法に対応することで、映画配給会社は、市場拡大を狙っている。だが、この施策は同時に、映画館から客足が遠のく状況を招きかねない可能性も持つ。そんな現状に強い危機感を抱くのが、東映系シネマコンプレックス(複合映画館)事業のティ・ジョイ(東京都中央区)だ。「新宿バルト9」など、全国21カ所で劇場を展開している。

 「少子高齢化で映画市場がシュリンクするのは間違いない。お客さんが映画館という“場”そのものを楽しめるように変えていかないと生き残れないだろう」と総務部総務グループの木原未緒経営戦略チーム長は語る。

映画館への来場価値の向上を狙って、今年の7月に提供を始めスマートフォンアプリ「キネパス」

 同社も配信サイトを設けて、公開と同時に映画を配信する取り組みを一部始めているが、本業はあくまで映画館。映画館への来場価値の向上を狙って、今年の7月に提供を始めたのが、スマートフォンアプリ「キネパス」だ。

 その狙いの第1は、利便性の向上である。アプリ上から同社の映画館で公開している映画のチケットを予約できる機能があり、予約時に座席指定も可能。こうしたアプリは国内では珍しい。チケットを購入すると、QRコードがアプリ内に保存される。これを映画館のチケット発券機に読み込ませてチケットを受け取る仕組みだ。

 2つ目は映画連動型コンテンツの配信による付加価値向上である。10月公開のアニメ映画「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」とキネパスを連携した、2つのキャンペーンを実施中だ。1つはキネパスでチケットを購入し、キネパス経由でTwitterに映画のクチコミを投稿すると抽選でオリジナルグッズが当たるもの。

 もう1つは、キネパスで予約したチケットを発券すると、QRコードに発券済みであることを示すバーチャルなスタンプが押される機能を使ったものだ。見る映画は問わない。

 期間中はスタンプが映画のキャラクターのデザインになり、それが毎週変わる。全種類を制覇しようとファンが足繁く通う可能性がある。これを機に、映画全般の楽しさにも気付いてもらうことを狙う。

チラシより高いクーポン利用率

 3つ目は客単価の向上だ。館内の飲食・物販店舗で見せるだけで割引が受けられるクーポンを配信している。「アプリのダウンロードがまだ4万件程度で単純比較はできないが、折り込みチラシよりクーポンの利用率は4~5ポイント高い」(木原氏)。普段、飲食物を購入しない人がクーポンを使えば、客単価の向上も期待できよう。

 今後は、映画館に来場することの価値をさらに高めることを狙う。同社は既に映画館でコンサートなどを生中継する「ライブビューイング」放映時に関連するTwitterの投稿を投影するというユニークな試みを実施している。この考えをさらに発展させて、キネパスと映画を連携させ、映画を鑑賞しながらスマートフォンを操作するといった、今までにない視聴法の提供も視野に入れる。

 映画館の来場価値の向上に向けて、従来の常識に捉われず、スマートフォンアプリを活用した様々な施策に挑戦していく方針だ。

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