3つのパターンがあるWeb動画広告の合計再生回数が300万回以上――。今や多くの企業が取り組み始めているWeb動画広告の中で、今年最も印象深い企画と言えば、キリンの「のどごし<生>CM カンフースター篇」を思い浮かべる人も多いのではないか。同社の第三のビール「のどごし<生>」のキャンペーン第4弾として制作されたものである。
キリンはこの成功でYouTubeなどを活用したWeb動画広告マーケティングへの自信を深める一方、それに満足せず、「次の一手」の模索を始めようとしている。
テレビに頻繁に出演するタレントなどを起用しなくても、キャンペーン企画自体の面白さ、ユニークさなどで動画再生回数を稼ぐ。そんな「よりYouTubeらしい動画広告」を模索し、のどごし<生>のような潤沢な広告宣伝費を投じられないような商品のキャンペーンなどで活用していくというものである。
「YouTubeありき」の企画
のどごし<生>はキリンにとって、その販売量では絶対に他社に負けられない主力商品だ。広告宣伝予算もそれにふさわしい金額が割り当てられている。その予算を活用して今年実施してきたのが、一般人から叶えたい夢を募集。応募者から選んだ一般人が自らの夢を実現させる様子などを映像に収めてテレビCMとして放映するという“夢実現”企画である。
今年1月に公開された「のどごし<生>CM プロレス篇」から、現在公開中の「同 野茂選手と対戦篇」まで。のどごし<生>のブランド認知を高めるプロモーションの一環として、これまでに5つのシリーズを実施してきた。カンフースター篇は、一連のキャンペーンで制作した動画広告の中で、最も多くの再生回数を記録したというわけである。
YouTubeで見られる同篇の動画広告は、180秒CM編、CM発表会限定上映編(6分47秒)、メイキング編(11分54秒)の3本。いずれもかなりの長尺だ。180秒CMはテレビで流したことはあるが残り2つは文字通りYouTube専用のコンテンツである。テレビCMをきっかけに、YouTubeに設けたキリンビールのブランドチャンネルなどを訪れてもらい、じっくりと映像を見てもらう。そんな「YouTubeありき」の企画とも言える。
だがこの企画。YouTubeありきであると同時に「テレビCMありき」でもある。
のどごし<生>は差異化が難しい大量購買、大量消費される商品である。アサヒビールやサントリー酒類といったライバル企業がテレビCMを大量出稿している以上、キリンも対抗していく必要がある。デジタルマーケティングの可能性は感じていても、実際の宣伝広告活動を「では、インターネットだけで」とはなかなかいかない。
よりYouTubeらしい企画を検討
カンフースター篇の成功も冷静に見れば“豪華なテレビCM”があったからとも言える。CMにはジャッキー・チェンさん、中川翔子さんといった有名タレントが登場。一般人・石田さんにカンフー活劇の主役として活躍してもらうために、カンフーの指導者やワイヤーアクションの専門家など、多くの外国人スタッフも雇っている。
「カンフースター篇は、一連の夢実現企画の中でも、それなりのお金がかかっている」(キリンのCSV本部コーポレートコミュニケーション部Web推進担当SNSチームの小川直樹氏)。潤沢な予算があればこそ、「ぜひ、続きがWebで見たい」と思わせるコンテンツができたとも言える。現在、この夢実現企画の第5弾が放送されていることからも分かるように、のどごし<生>のようなメジャーな商品では、テレビCMを軸に、YouTubeなどのデジタルマーケティング施策を併用していく。
一方で、多額の広告宣伝費をかけられないようなブランド、商品については、「よりYouTubeらしさを生かした施策を検討していきたい」と小川氏は語る。
米国ではYouTube内だけで活動するオンラインクリエーターなどと呼ばれる“セミプロ”的な人たちが大手企業の商品やサービスの動画広告の制作を請け負うケースが増えており、話題を集めているという。数は少ないながら日本でも同様の動画広告は既に制作されている。キリンはそうした動きもにらみつつ、新たな動画広告についての検討をさらに進めていく考えだ。