三越伊勢丹ホールディングスは10月30日から、KDDI、そしてスマートフォン向けEC(電子商取引)アプリ「Origami」を提供するOrigami(オリガミ、東京都港区)との3社共同で「伊勢丹大創業祭 THE IVY STYLE EXHIBITION BY F.I.T.」というO2O(オンラインtoオフライン)キャンペーンを始める。

三越伊勢丹ホールディングスが出店しているスマートフォン向けEC(電子商取引)アプリ「Origami」

 また10月27日には、富裕層の利用が多いことで知られる米国発の高級ECサイト「FANCY(ファンシー)」で家具や雑貨など約70点の販売を始めた。FANCYへの日本企業の出店は同社(「ISETAN」)が初めてである。

 世紀の合併と言われた伊勢丹と三越の経営統合から5年。それぞれが強いブランド力を保持しているが、ことデジタルマーケティングに関しては、先頭を走っているイメージはあまりないのではないか。

 それが一転。今年4月には、同社のインターネット関連事業を統括するグループWEB事業部という組織を新設し、同部のトップに外部人材を登用するなど前例のない改革を実施した。ネット関連事業の拡大を、同社の成長戦略の柱の1つとして明確に位置づけて、積極果敢に取り組む姿勢を見せていた。冒頭で触れたようなデジタルマーケティング施策の相次ぐ実施はネット重視路線が早くも形になり始めたことの表れと見ることができよう。

「どの商品が好きか」も分かる

 Origamiなどと連携して三越伊勢丹が10月30日から始めるキャンペーンは、同日より伊勢丹新宿店7階で開催するイベント「THE IVY STYLE EXHIBITION BY F.I.T」に合わせて実施するものだ。KDDIのスマホ向けコンテンツ配信サービス「auスマートパス」会員が、Origamiアプリを使って伊勢丹新宿店でチェックイン(来店登録)し、アンケートに回答すると、抽選で「ベアブリック」といクマのキャラクター人形の限定品がもらえる。さらにOrigamiで伊勢丹のアカウントをフォローすると、auのポイントがもらえたり、ニューヨーク旅行などが当たったりする企画である。

 Origamiは4月にスマホアプリの提供を始めたばかりだが、三越伊勢丹を始め、アパレル製造販売のビームス(東京都新宿区)、「吉田カバン」ブランドを展開する吉田(東京都千代田区)など、既に200店以上が出店しているという。

 分野としてはモバイルECアプリだが、Twitterのように利用者が好きなブランドやショップ、他の利用者などをフォローできることが特徴だ。アプリ利用者にはフォローしたブランドやショップから商品情報などが配信される。フォローした他の利用者が「シェア」や「ライク(=いいね)」をした商品の情報も流れてくる。こうして配信された商品はすべて、アプリ上から購入できる。

 三越伊勢丹が今回利用するチェックイン機能や、スマホが持つ位置情報機能を使って、現在地から近くのショップを探せる機能など、O2Oを意識した機能も備える。

 Origamiに出店すると、商品を購入しているのはどのような年齢、地域の人で、どのブランドを好んでいるのかといったデータが把握できる。こうしたデータを自社のマーケティングに生かすことが出店社の狙いの1つだ。三越伊勢丹がいち早くOrigamiに出店したのも、同様の理由があったからだと見られる。

 FANCYも、好きなブランドや商品にFANCY(=いいね)をすると、そのブランドから情報が流れてくる。この点はOrigamiと似ているが、FANCYの品揃えには高額商品も少なくない。実際、海外の富裕層などから人気が高い。

 三越伊勢丹はネット関連事業とともに、海外事業の拡大を成長策の柱の1つとして位置づけている。FANCYへの出店は海外の富裕層などに対する「ISETAN」ブランドの認知向上と、その利用動向の把握によって海外事業の拡大に弾みをつけたい思いがあるのだろう。

三越伊勢丹が日本企業として初めて出店した「FANCY」

 こうしてOrigamiやFANCYといった、外部のネットベンチャーとの連携を進める一方で、三越伊勢丹はネット重視路線の中核となるオウンドメディアの強化も急いでいる。「三越」と「伊勢丹」に分かれているECサイトを一部統合するなどして、現在80億円程度にとどまる百貨店ECの売上高を、2015年度には200億円へと倍増させる計画である。

店舗のイメージをECサイトで再現

 具体的には次の3つのポイントに沿って進めていく。

 1つはECサイトで購入できる品揃えを3倍増させることである。現状で伊勢丹、三越のECサイトで扱っているのは2サイト合計で5万SKU(アイテム)。これを1~2年後までをメドに15万SKUまで増やす。

 現在は伊勢丹や三越の店頭で、消費者が「これは、いいな」と思った商品があり、それをECサイトで検索しても、該当する商品が見つからず、購入できないケースが少なくないという。当然、大きな機会損失が生まれている。

 「店頭での品揃えには自信を持っているが、売り場を見てお客様が抱いた店舗イメージが、ECサイトでは残念ながら“再現”できていない」。そう営業本部グループWEB事業部WEBメディア担当長の田沼和俊部長は話す。

 取り扱うアイテム数を15万SKUに増やしたとしても、伊勢丹と三越が実店舗で取り扱っているアイテム全体の数%に過ぎないという。それでも商品をバランスよく掲載することで、「店頭のイメージが十分に再現できる品揃えに変えていく」と田沼氏。

 実は現状では、商品ジャンルによってはECサイトには1品も掲載されていないケースもある。そうした事態をなくし、すべてのジャンルで低価格の商品から高額商品までバランスよく品揃えをすることで、田沼氏の言う「店舗イメージが再現できるECサイト」に変えていく考えだ。

 2つ目は、ECサイトのスマホ対応である。9月25日、伊勢丹のECサイト「I ONLINE」からスマホ対応を始めた。消費者が同サイトにスマホでアクセスしてきた場合は、スマホの小さい画面でも見やすく表示できるようになった。コンバーターを使ってパソコンサイトを変換している。

 なお、三越のECサイトについては、「伊勢丹よりも、利用者の年齢層が高め」(田沼氏)で、伊勢丹のECサイトよりもスマホ利用者が相対的に少ないと考えられることから、来春以降対応させる方針である。

 3つ目は伊勢丹、三越のECサイトの統合だ。グループWEB事業部では、同じ1つの買い物カゴに、伊勢丹が扱う商品と三越が扱う商品を入れられるようにして、1回の決済手続きで購入できるようにするプランなどを中心に検討を進めている。

 2ブランドのECサイトを文字通り1つにすることは「少なくとも現段階では考えていない」(田沼氏)ようだ。

 伊勢丹は「伊勢丹メンズ館」が代表するようにファッション性の高さやセンスの良い品揃えが人気の源泉になっている。対して三越は老舗百貨店として、シニア層などから支持される傾向が強い。同じグループとはいえ両者の品揃えはかなり異なっており、それを一本化することはそれぞれのブランドイメージを損ないかねない懸念があるという。

 百貨店の売上高は昨年まで15年連続で減少し続けてきた。三越伊勢丹は2013年3月期に営業利益で過去最高を更新したものの、売上高は微減にとどまった。今期予想は増収増益だが、売上高は前期比3.5%の成長とやや物足りない。一連のネット重視路線によって、きちんと目に見える増収増益基調へと流れを変えられるか。三越伊勢丹はもちろんのこと、百貨店業界のこれからを占う意味でも重要な試金石となるだろう。

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