「ネットであっても店舗と同じ感覚で購入できる環境をつくる」──。

 全国860店舗超を展開するウエルシアホールディングスのECサイト「ウエルシアドットコム」は、リアル店舗のメリットをECに持ち込もうと、サイトの改善に努めている。

 この10月4日に公開したのが「症状別ページ」。自分の風邪の症状に合う薬が分からないといった顧客に向けて、適切な医薬品を薦めるページを作成した。

 「かぜのひき始め」「熱・のどからのかぜ」「鼻からくるかぜ」といった項目を立て、かぜのひき始めをクリックすると葛根湯エキス配合の製品を紹介するといった具合にナビゲートする。ECサイトは、中小規模の店舗では売り場スペース的に陳列できないような売れ筋から外れた製品でも扱える豊富な品揃えが魅力の一つだが、それは同時に探しづらさと表裏一体でもある。

 他社ECサイトでも「風邪薬」「胃腸薬」といった分類はあるが、そこから先の探し方で迷いが生じやすい。鼻風邪を引いて「鼻炎薬」を選ぶと、そこには花粉症やハウスダストなどアレルギー性鼻炎用の薬が多く並ぶため、ズレを感じる人も多そうだ。

 同ECサイトを運営するウエルシアプラス(埼玉県北足立郡伊奈町)で統括部長を務める浅野淳平氏は、「『鼻風邪に効く薬ありますか?』といったよくある質問に対するお薦めをあらかじめ用意することでユーザーの探すストレスを軽減できれば、離脱を防げるのではないか。利幅が取れる医薬品に誘導することも可能」とその狙いを説明する。

 本誌8月号でも紹介したが、同社は医薬品のパッケージに書かれた説明書きを撮影して、その拡大画像をECサイト上で見られるようにしている。これも店舗と同じ感覚で購入できる環境づくりの一環だ。

 そもそもネット利用者は医薬品をどこのサイトで買いたいと考えているのか? 前述のマクロミルのモニター500人に尋ねたところ、「ドラッグストアや薬局が運営するサイト」は、楽天やアマゾンなどのショッピングモールに次いで2位だった。これはなじみのドラッグストアの本店ECサイトだけでなく、出店先のモールでもドラッグストアは選ばれやすいことを意味する。

市販薬をネットで買う場合、どのサイトから買いますか(買いたいですか)? (複数回答可)
Q. 市販薬のネット販売に求めることは何ですか? (複数回答可)

 ウエルシアプラスの和田大作社長は、「アマゾンに出店しているが、価格順にソートすれば高い方であるにもかかわらずウエルシアで買ってくださるお客様が少なくない。実店舗ブランドが安心感として働くのではないか」と語る。医薬品販売においては「餅は餅屋」の傾向が強そうだ。

 マクロミルモニター調査では、医薬品のネット販売に求めることとして「安さ」「スピーディーな配送」「豊富な品揃え」の3点が上位を占めたが、家電量販店などがそうであるように、競争の過程で大手チェーン間ではさほど差がつかなくなってくると予想される。そのとき差が出てくるであろう、4・5番目の「詳細な説明」や「ナビゲート機能」に今から注力するウエルシアの作戦が吉と出るか、注目される。

3人に1人が「ネット購入増える」

「ロキソニン」を含む検索からの流出先(2013年7~9月)

 最後に調査データから気になる数字をピックアップしておこう。まず当然といえば当然だが、第1・2類の医薬品名検索からの遷移先として、ECサイトがジャンプアップしている。ネット行動ログ分析を手掛けるヴァリューズ(東京都港区)の調査によると、「ロキソニン」を含む検索結果からの遷移先で昨年7~9月には上位30ドメインの圏外だったケンコーコムが今年の7~9月は14位、楽天が同15位にランクインした。ECサイトは主要医薬品目でのSEO(検索エンジン最適化)強化が求められそうだ。

 マクロミルモニター500人調査で医薬品のネット購入がすでに定着したのかを調べたかったが、20~30代は医薬品を実店舗・ネット問わずあまり買っていなかった。「年に数回」と「年1回以下」で計8割で、ネット購入未経験者が9割を占めた。国を挙げての成長戦略とはいえ、“その気”にさせて買わせたり衝動買いを誘ったりといった施策が最もそぐわない製品であるため、ネット購入経験が一巡するまで時間がかかりそうだ。

 それでも3人に1人は今後ネットでの購入機会が「増える」と考えていて、近くに実店舗がなかったり立ち寄る時間がなかったりする場合も気軽に買えること、欲しい薬が店舗になくて無駄足を踏む恐れがないことなどをメリットに挙げている。

Q. 医薬品をネットで購入できるメリットとして自分に該当するものを選んでください(複数回答可)

 興味深いのは、実店舗とネットのどちらで買いたいかを医薬品ジャンル別に尋ねた購入意向調査。「この薬は買わない」を除いてネット派が多い順に並べたところ、上位に育毛・発毛剤、精力剤、痔の薬、水虫薬が並んだ。反対に実店舗派が最も多かったのは小児用の薬だった。カウンターに持っていったり、問い合わせたり説明を受けたりするのが気恥ずかしい薬はネット優勢で、症状の微妙なニュアンスを直接伝えて最適な薬を専門家に選んでほしいものは実店舗が優勢と言えそうだ。

 店頭での気恥ずかしさの低減や、ネット上で最適な薬に自力でたどりつけるナビゲート機能の充実など、それぞれで工夫が求められる。実店舗とネットの双方で他店よりも配慮の行き届いた店舗運営ができれば、必ずしも最安値水準で販売していなくとも、顧客をつかむことは可能だろう。

Q. 以下の市販薬それぞれについて、「実店舗」と「ネット」のどちらで買いたいかをお選びください

■調査概要

調査方法:マクロミルが保有する調査モニターに調査回答依頼メールを配信しWeb上で実施した
調査期間:10月7日~10月8日
有効回答数:500人
回答者の年齢・構成:20代と30代の男女がそれぞれ125人になるようにサンプルを設定した
調査機関:マクロミル
調査主体:日経BP社

■読者限定データのご案内

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