8月25日、日清食品の即席麺「チキンラーメン」は55回目の“誕生日”を迎えた。記念すべき55周年のプロモーションでは、マス広告、PR施策、多数の新商品投入といったリアルの施策に加えて、デジタルマーケティングも駆使。その結果、袋麺タイプの販売数は7~9月の毎月、前年同月比で30%増となり、カップ麺タイプは同50%増となるなど絶好調だ。

 55周年プロモーションを展開する上で掲げた目標は、「再食」の促進である。再食というキーワードには、しばらくチキンラーメンを食べていない消費者にもう一度食べてもらい、チキンラーメンの魅力を再確認してもらおうという意味が込められている。

 ちょうど10年前の2003年に、チキンラーメンの中央にくぼみがついた。具材として生卵を入れる際、卵がずれないようにする「たまごポケット」の誕生である。小さな変化かもしれないが、爆発的に売れた。しかし、この時にチキンラーメンを食べても、徐々に食べる機会が減った人も少なくない。そうした層は30代に多いという。10年前、学生のころにたまごポケットをきっかけに食べたものの、社会人になって離れていってしまった。そんな人たちをもう一度呼び戻す。そうした思いから55周年プロモーションの主なターゲット層を30代に設定した。

 マス広告では、テレビCMに女優の新垣結衣さんを起用。チキンラーメンを別の器に割った卵につけて食べる“つけ麺”を提案して興味を引いた。コロワイドの居酒屋チェーン「甘太郎」でチキンラーメンを販売するなどして、タッチポイントを増やすことにも取り組んだ。30代は無料通話・メールアプリのLINEや、SNSのFacebookなどの利用率が高い。本プロモーションでもLINEやFacebookを活用した。

1年前から周到に準備

 実は日清食品は55周年に向けて、1年がかりで準備を進めてきた。とりわけ強化したのが、デジタルを活用したコミュニケーションサービスである。「以前は弱かった、消費者間のクチコミを促進できる環境の整備を目指した」とマーケティング部第3グループの三宅隆介マネージャーは振り返る。
 昨年7月開設のFacebookページには34万人のファンがいる。これによりチキンラーメンに関する情報のクチコミを誘発しやすくなっている。

昨年からFacebookページを開設するなどしてデジタルマーケティングを強化

 例えば、8月25日の誕生日の投稿は過去最高となる、13万超のいいね!がついた。投稿を友人にシェアした人は2300人を超え、リーチした人数は100万人に達した。ページのファンに必ず1回は投稿を表示するという広告を活用したことも、効果を高めた。若年層を中心にテレビを見る時間が減っていると言われる。代わりに時間を費やしているとみられるSNSで情報が広がりやすい下地を作ったことで、認知経路の増加につながったのだろう。

 また、日清食品は昨年7月にLINEで、チキンラーメンのキャラクター「ひよこちゃん」の大型絵文字「スタンプ」を提供している。このスタンプは人気が高く、3カ月で1億回以上使われた。

 55周年プロモーションでは、この時にLINE利用者から得た好印象を、うまく売り上げにつなげるための施策に取り組んだ。「あの人気スタンプが帰ってくる」。そんな触れ込みで「LINEマストバイスタンプ」企画を実施した。

 LINEマストバイスタンプは、商品のパッケージに記載されているシリアルナンバーをLINE上で入力することで、スタンプをダウンロードできるサービスだ。このサービスを利用して、カップ麺のチキンラーメンと5食入の袋麺で、ひよこちゃんのスタンプがダウンロードできるシリアルナンバー入りの商品を発売した。このLINEマストバイスタンプが、店頭での購買の最後のひと押しになるという。

 テレビCMやPRなどで商品認知を高める。そして、プロモーションの規模の大きさを武器に、流通の棚を取って大々的に展開する。メーカーの王道的なマーケティング手法である。しかし、消費者は移り気だ。テレビCMを契機に店頭でチキンラーメンを目にしたとしても、そのときの気分で別の商品に流れてしまうことも少なくないだろう。

 それを防止する役目を、LINEマストバイスタンプは担う。パッケージに印刷されたLINEの黄緑色のロゴに目が止まれば、LINE利用者ならまずは手に取る可能性は高い。その対象は、LINEの登録者数ベースで4800万人に上る。スタンプがもらえることを知れば、別の商品に心変わりせずに購入につながることも期待できる。

過去の企画を超える大きな成果

 その成果は、「過去に展開した『着うた』プレゼントなどと比較しても、何倍も大きかった」と三宅氏は驚きを隠さない。LINEの利用者は若年層が多いと言われるが、登録者数の増加により年代の幅は広がっている。家族間のコミュニケーションにも使われる。「母親と子供が2人ともスタンプが欲しければ2食買う。そんな購買行動が売り上げ増加を後押しした」(三宅氏)。

 さらに、スタンプをダウンロードした人が、友人とLINEでメッセージのやりとりをする際に、このスタンプを使ってくれれば、それがさらなる認知の獲得につながる。昨年と比べて、企業がプロモーション目的でスタンプを提供するケースが増えており、競争は激化している。それでも新しいひよこちゃんスタンプは「3000万回以上使われている」と三宅氏は明かす。

LINEマストバイスタンプで「ひよこちゃん」スタンプを提供

 また、LINEマストバイスタンプの提供に合わせて開始した、「LINE公式アカウント」も「既に58万人を超える友だちがいる」(三宅氏)。6月にLINE上にある「タイムライン機能」が企業アカウントでも利用可能になった。このタイムラインへの投稿には「Facebookの比じゃないぐらいのコメントがつく」(三宅氏)。このため、当初は9月で閉鎖予定だったアカウントの継続も決めた。

 プロモーションは8月で一旦幕を閉じた。9月は「テレビCMの出稿量を8月と比較して5分の1程度まで減らしている」(三宅氏)が、売り上げは今も好調だという。理由ははっきりとは分からないが、目標とする“再食”が起こった結果、チキンラーメンの魅力を再認識した消費者の間で継続購入につながっている可能性もある。この密かなブームは本物か。それを見極めるために、1年間を通して売り上げの推移を見て、判断していく方針だ。

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