日経デジタルマーケティング読者無料セミナー「デジタルで実現する顧客との関係深化戦略」の最後は、「実践!モバイルコマース──売り上げ向上への3ステップ」をテーマにしたパネルディスカッションを実施した。集客、トラフィックの収益化、CRMの3つのステップに分けて、モバイルEC(電子商取引)サイト運営企業や専門家らが成功の秘訣を探った。
パネリストとして登壇したのは、日本写真印刷の情報コミュニケーション事業部新規ソリューショングループ長の岡部謙介氏、ニューバランス ジャパンの商品企画本部マーケティング部長の鈴木健氏、ロックウェーブの代表取締役の岩波裕之氏の3人。モデレータは通販評論家の村山らむね氏が務めた。
乱立する自社サイトの統一が課題

モバイルコマース売上向上の第1ステップは「集客」。ニューバランスの鈴木氏は「昨今デジタルコマースの重要性が高まる中、自然発生的に増えて乱立している自社サイトの統一が課題」とコメント。現状は検索やソーシャルメディア、ペイドメディアからの流入があるものの、今後はそれぞれのサイトを統合して最適化することが課題であり悩みとした。
ロックウェーブの岩波氏は、モバイル市場におけるマルチデバイス対応の負荷が上がっているとの指摘を踏まえ、自社のレスポンシブECサイト運営サービス「aiship」を紹介。端末の画面サイズに応じてデザインを動的に変更するレスポンシブであれば、1つのソースと1つのURLであらゆるデバイスに対応でき、運用コストが60%近く低減できるほか、「1ソース1URLを推奨するグーグルの検索エンジンとの相性も良い」とした。
第1ステップの集客というテーマについて岩波氏は「モバイルコマースでは、スマートフォンでのオンラインショッピングサイトにアクセスしたユーザーの71%がスマートフォン以外のデバイスへ引き継がれる(購入段階は異なるデバイスを使う)というグーグルの調査結果がある」と紹介。「モバイルが起点となりつつ他のデバイスが引き継がれてしまうのはモバイルが充実していないから。まずはモバイルだけでコンバージョンすることを考える必要がある」とモバイルサイト充実の重要性を説いた。
シリコンバレーを中心に米国の最新IT動向を調査している岡部氏は岩波氏の話を受け、「現状はスマートフォンだけで完結させるということと、他のデバイスへ引き継ぎが行なわれる時、いかに取りこぼさないかという2つの論点が重要」とコメント。さらに別の視点として「集客に使えるメディアがグーグル以外にも増えてきた」と指摘、個人のソーシャルメディアやニュースアグリゲーションサイトなどが大きな存在感を示しているとした。
レジに5人、10人と並んでは買う気が失せる
第2ステップの「トラフィックを収益に結びつける」点では、岩波氏が「2015年には日本でもモバイルがPCを抜くインターネット接続端末になるという調査がある。今後はモバイル中心に考えざるを得ない状況であって、モバイルに対応とか最適化という概念自身がまずい」と強く指摘。さらに「デバイス中心で物事を考えるのも終わっている。デバイスを決めているのはこちら側の話であって、ユーザーはどのデバイスでも同じ体験をできるのが一番」とレスポンシブの重要さを改めて強調した。
岡部氏はコンバージョンの論点として「基本はリアルでも同じことで、レジで並んでいる人が5人、10人といたら買う気も失せてしまう。待たせない、不安にさせないことが重要」と指摘。また、サイトとは別の視点として「米国ではアプリコマースも伸びており、スマホユーザーの55%がアプリ内で商品を購入している」というデータを紹介し、アプリコマースへの期待を寄せた。
最後のステップである「顧客との関係」について鈴木氏は「CRMは昔からある議論だが、いまだにメールベースの関係構築も多い。伸びつつあるるデジタルの他の接点も含めてCRMとして考えるべき」と言う。「ただひたすらメールや広告を出して顧客をしつこく追いかけるのがいいとは限らない。購買に限らない顧客との接点はいろいろ考えなければいけない問題だ」。
また、岩波氏はレスポンシブ化でサイト運営の人的コストを削減することで、顧客との関係強化のような他の業務をカバーする余裕が生まれるという、間接的な効果が見込めるとコメント。一方で、「ECサイトはお客さまとのコミュニケーションであり、ツールに振り回されるのではなく、お客さまに対して何をしたいかを考えるという基本が重要」との考えも示した。
岡部氏はCRMの観点において「メールは依然として有効だが、(店舗からのメールを自動的に)フォルダに振り分けたまま開かない人もいる」との現実を踏まえた上で、「現在は位置情報やMACアドレスなどユーザーのデータを取りやすくなっており、そうしたユーザーの行動を読んでこちらから通知するということもできる」と説明。「日本においては金融口座管理アプリが、お金に基づく一番のデータを持っているという点でECとの親和性は高い」と分析した。

モバイルが主流になるのは必然
今後の展望として鈴木氏は冒頭にも挙げたサイトの乱立を課題とし、「我々メーカーとしてはブランド体験をばらばらにせず1つにしたい」との考えを示した上で、「オンラインとオフラインも区別せず考えておきたい。モバイルはそのためのキードライバーである」とコメント。岩波氏は「今はモバイルが騒がれているが、それは今後モバイルが主流になるのが必然だから。過去のPC経験を持っている人がモバイルの中でどう意識を切り替え、市場にあったコミュニケーションをしていけるかが重要」とした。
岡部氏は「岩波氏のさらに先の視点」とした上で「5年前を振り返ると我々のほとんどはスマートフォンを持っていなかっただろう。それと同じことで今後来るのはウェアラブルではないか」との自説を披露。スマートフォンと連携する腕時計や眼鏡型のウェアラブルデバイス、ジェスチャーで操作できる「Leap Motion」といった事例を示し、「こうしたものが3年、5年先には普及するかもしれない。モバイルのその先にある新しい動向を見ていかなければAmazonやZOZOTOWNの後追いをするだけでマーケットをひっくり返すことはできない」と指摘した。村山氏も「いまやモバイルファーストでなく、一般の家庭にはモバイルオンリーの世代も登場していることを強く意識すべき」と語り、議論を締めくくった。