今、個人の興味関心、属性情報が最も集約されているサイトといえばFacebookだろう。この貴重な情報を取り込んで、サイト来訪者に最適な情報をレコメンドできれば興味を引くのではないか。こうした仮説の下、いち早く取り組みを始めたのが人材派遣のパソナだ。実験的に表示させたところ、従来のレコメンド情報と比較して、Facebook上の情報も加味したレコメンドのクリック率が69%も上回るという成果を得た。
同社は6月に仕事検索サイトの「JOBネット」に新たにレコメンドの仕組みを導入して運用を始めた。自社サイトの閲覧履歴に加えて、サイト来訪者のFacebook上のデータを合わせて解析して、掲載するレコメンド情報に生かしている。

レコメンドを導入したJOBネットは、検索エンジン経由の集客強化を目的に開設したサイトだ。「本体のサイトは、『パソナ』というブランド名を知っている人が訪問者の多くを占める。一方、JOBネットはロングテールのキーワードで人を連れてくるために、地域や職種などの情報を散りばめるなどしてSEO(検索エンジン最適化)を施している」(営業総本部の坂田隆二WEBコンサルタント)。掲載する仕事情報や会員登録の仕組みは本体サイトと同様になっている。
同時に、新しいマーケティングツールやサービスの導入を検討する際に、試験的に導入してその効果を測るテストマーケティングの場としても活用している。今回のレコメンドシステムの改善も、本体サイトへの導入に先駆けたテストマーケティングが目的だ。
転職サイトはレコメンドが苦手?
「物販と違い転職サイトはレコメンドがしにくかった」と坂田氏は言う。その理由の1つは、求人情報という商品の“賞味期限”の問題。求人情報は採用が決まった時点で、掲載されなくなる。掲載期間は「短ければ3日」(坂田氏)のため、レコメンド先を決めるだけの情報が集まるころには、その求人情報がなくなってしまう場合もある。理由はもう1つある。レコメンドするためのデータ量の問題だ。転職サイトでは、よほどニーズが顕在化していなければ、会員登録はしてもらいにくい。情報が少ないと、レコメンドの最適化は難しい。
そこで目をつけたのがFacebook上の情報だった。Facebookでは自身の仕事を登録している人が多い。そこから勤め先、職種や役職などが分かる。また、性別や年齢、居住地などの情報も登録している人も多い。派遣の仕事の場合は、職種や居住地などの情報をレコメンドに生かせば、初めてサイトを訪問した人にも最適な求人情報をレコメンドできるだろう。
この施策を実現するために2つのサービスを導入して連携させている。まず、デジタルマーケティング向けシステム提供のフィードフォース(東京都文京区)の「ソーシャルPLUS」だ。同サービスは、企業のWebサイトにFacebookなどのアカウントで簡易的に会員登録できる機能を加えられる。
サイト訪問者は、ボタンを押してサイトとFacebookアカウントの連携を許諾するだけで会員登録できる。会員登録のために様々な情報を入力することを手間だと思う人にも登録してもらえる可能性が広がる。連携する際に、性別や年齢、居住地などのデータを取得することについて利用者から許諾を得る。

こうしてソーシャルPLUSで取得したデータを、レコメンドシステムと連携させる。そこで導入したのが、データを活用したマーケティングを支援するブレインパッドの「Rtoaster」だ。Rtoasterはサイトの閲覧履歴などに基づいて、Webサイトにレコメンド情報を掲載したり、パーソナライズされたメールを配信したりできる。ソーシャルPLUSで取得した情報をレコメンドに利用できるようにデータ処理した上で、Rtoasterにインポートして活用する。
プライベートDMPの構築検討
これら2つのサービスを導入後に、その効果を測定した。具体的にはサイト訪問者の閲覧履歴とソーシャルメディア上の登録情報を組み合わせたレコメンド情報と、閲覧履歴のみに基づくレコメンド情報をそれぞれ1週間、JOBネットのトップページや仕事情報の詳細ページなどに掲載した。
その結果、1週間の平均クリック率はFacebookの情報を加味した場合は5.88%、加味しない場合は3.48%となり、加味した場合の方が69%高まる成果につながった。坂田氏は「レコメンド情報を掲載した時期が異なるため、求人情報の質と数に多少の差があった可能性はある」と前置きしつつも、「ソーシャルメディア上の情報を加えることで、レコメンドの精度の向上につながる手応えを感じた」と語る。
パソナはさらに、会員情報やネット上の様々な情報を集約、分析して、マーケティングを実施するためのプライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の導入検討を始めている。データを活用したマーケティングをさらに推し進めていく考えだ。