日本ケンタッキー・フライド・チキンは10月8日から、ネットの動画広告を使い、ドリンクメニュー「クラッシャーズ」の商品プロモーションを始める。このプロモーションではテレビCMは使わず、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を活用したネット動画広告を中心に展開。DSPで配信した動画広告と、クーポンや共通ポイント「Ponta」の購買データを連携させ、認知から購買まで、一貫して把握する。

 半年間のプロモーション期間を通して広告効果を測定しながら、その成果に合わせて広告予算を流動的に配分し、効果の向上を狙う。

 クラッシャーズは凍った果物などを砕いて飲料にしたもので、シェイクとも異なる独特の食感が人気を集めている。当初は、3店舗での販売から始まったメニューだが、現在は500店以上で販売するヒットメニューになっている。

 基本的にはドリンクメニューだが、9月25日にパフェタイプの商品を「食べるクラッシャーズ」として発売した。この商品の訴求に動画広告を活用する。

9月25日に発売したパフェタイプの「クラッシャーズ」

 パフェタイプの商品はデザートの一種という位置付けだ。冷たい飲料から遠ざかりがちな秋冬シーズンにも、デザートとして甘いものが好きな人に楽しんでもらう狙いで開発した。ただし、デザートだけに商品の主なターゲット層は絞られる。

 クラッシャーズは元々若い女性をケンタッキーに取り込むために開発されたブランドではあるが、パフェ商品ではその傾向がより顕著になるという。このような特定のターゲットに効率的に訴求するのは、ネット広告の得意とするところだ。

 「消費量が増える春夏シーズンにはテレビCMを放送するなどして広くアピールする。消費量が減る秋冬シーズンには、ターゲット層により効率的に訴求する。そんな戦略の下、秋冬シーズンはネット広告を中心に展開することを決めた」(KFCマーケティンググループの森川悦臣アシスタントマネージャー)。

 静止画像の広告では「食べてみたい」という欲求を高めることは難しいと考えたことも、動画広告を中心に配信することにした理由である。

自社のオーディエンスデータを分析

 では、どんなターゲットに広告を配信するのか。ケンタッキーはターゲット層をより明確にするために、プロモーション開始の2カ月前から自社サイトの来訪者の分析に着手。クラッシャーズの商品サイトやクーポンのページなどに、ネット広告配信会社オムニバス(東京都渋谷区)のオーディエンスデータ分析サービスのタグを張りつけて、データの取得を始めた。

 取得したオーディエンスデータは、オムニバスが持つ約4000万人(ブラウザー)のデータと付き合わせることで、クラッシャーズに関心を持つ人の傾向を分析した。オムニバスは所有するデータを「ダイエット」「旅行」「グルメ」といった興味関心事項などで、カテゴリーごとに振り分けている。ケンタッキーのデータと付き合わせることで、どんなことに関心を持つ人が、サイトを多く訪れているかが分かる。

 その結果、「スイーツ」「美容」「レシピ」に関心を持つ人が多く含まれていることが分かった。広告配信の開始時には、この3つのカテゴリーに関心を持つオーディエンスに対して、「YouTube」や「Ustream」などを配信先として持つ動画広告専門DSP「TubeMogul」を通じて動画広告を配信する。

オーディエンスターゲティングを活用して動画広告を配信する

 ただ、ターゲットを絞ると、広告の配信対象者数も絞られてしまうため、ターゲティング広告だけで広く認知させることは難しい。そこで、ノンターゲティングの広告も織り交ぜることで、広くリーチを図る。当初の予算配分は、オーディエンスターゲティングが2、リターゲティングが2、ノンターゲティングは6の割合で始めるという。

動画と連携してクーポン配布

 広告効果は、店舗での購買数を軸に測定する方針だ。動画広告の閲覧者にクーポンを配布することで、購買への影響度を測る。「動画で食べてみたいという欲求を高める。さらに(クーポンで)今なら少しお得に買えると訴求することで、来店促進につなげる」(森川氏)。

 動画広告の配信当初は、純粋に商品の認知向上を目的とするが、10月中には動画からクーポンを入手できるようにして来店促進の要素も加える。

 動画広告の再生が始まると、広告上に小さなバナー広告のようなものが覆いかぶさるように表示される。このバナー広告にマウスカーソルを合わせると、動画が一時停止する。するとバナー広告の領域が大きく広がり、クラッシャーズの商品情報が表示される。

 この商品情報の表示に合わせてクーポンページへのリンクも表示し、誘導する。クーポンは、そのまま印刷したり、メールでスマートフォンなどに送ったりすることで店舗で利用できる。このクーポンの利用数をPOS(販売時点情報管理)システムで把握することで、広告がどれぐらい購買につながっているかを測定する。

 さらに、Pontaの会員データや購買データも活用することで、性別や年代の比率や、クラッシャーズを過去に買ったことがある既存顧客に訴求できているのか、あるいは初めて購入した新規顧客が多いのかといったデータも分析する。これらのデータも加味しながら、広告効果を測定して、ターゲティングのメニューを随時変更。広告効果の向上を目指す。

 実はケンタッキーがネット広告を配信するのは、これが初めてのことだという。「当社の商売は店舗での販売が基本で、商品はネットでは購入できない。そのため、ネット広告の購買に与える影響を分析しづらいことから展開していなかった」とKFCマーケティンググループDIGITAL CRM推進室の川波朋子氏は振り返る。

 しかし、テクノロジーの進化やO2O(オンラインtoオフライン)という概念の登場によって、状況は大きく変わった。その変化を捉えたケンタッキーは、まずクラッシャーズという小さなブランドで、ネット広告からの店舗誘導という新しい施策に挑戦する。今回の施策で得た知見を、より大型のキャンペーンへと生かしていきたい考えだ。

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