東急ハンズは店舗と自社EC(電子商取引)サイト「ハンズネット」をシームレスに統合して、どの販売チャネルでも顧客に同一の購買体験を提供するオムニチャネル戦略を一気に推し進める計画だ。9月25日、ハンズネットに店舗受け取り機能を付加。12月には、スマートフォン向けのアプリを提供し、店舗とECとの連携をさらに一段、高度化する。
「消費者はスマートフォンを使い、既にリアルとネットを自由に行き来して買い物を楽しんでいる。そうした購買行動に事業者側も対応すべきと判断した」。東急ハンズITコマース部EC課の緒方恵氏はオムニチャネル戦略を進める理由をこう説明する。

東急ハンズが店舗とECの統合について、社内で真剣に議論を始めたきっかけは、スマートフォンの普及と、オンラインの情報を契機にオフラインの店舗の来店につなげるO2O(オンラインtoオフライン)という考え方の登場だった。O2Oに取り組む場合、普通なら、自社で運営するECサイトやソーシャルメディアでの情報発信をきっかけに、店舗へ集客するという施策が思い浮かぶ。
しかし、「ハンズの場合、店舗の方が圧倒的に客数が多く、O2Oという一方通行では効果が小さい」(緒方氏)。そこで、店舗と連動する形で、ECやネットの仕組みを使い、より便利に買い物を楽しんでもらう環境を提供。オンラインとオフラインを自由に行き来してもらうことこそが、“ハンズ流O2O”という結論にたどりついた。
東急ハンズはこの戦略に基づき、店舗とECの在庫情報の統合やポイントの統合といった、下地作りに励んできた。この作業にメドが付いたことで、ECサイトへの機能追加やスマホアプリを矢継ぎ早にリリースする。
店舗で見て自宅で買えるスマホアプリ
12月に提供予定のスマホアプリはその集大成だ。バーコード読み取り機能を持ち、店舗で気になった商品のバーコードを読み込んで、アプリ上のお気に入りリストに登録できる。ECサイトで気になった商品をお気に入りリストに入れておけば、それをアプリで確認しながら店頭で探すこともできる。気になった商品はアプリから、ネット通販で購入することもできるし、最寄りの店舗で取り置きしたり、受け取ったりできる。
東急ハンズは全店で60万点の商品を取り扱っているが、ハンズネットで販売している商品は10万点にとどまっていた。店頭でしか販売していなかった商品も、アプリの提供開始後は、店舗から配送することで、ネットから買えるようになる。
既に触れたように、9月25日には、ハンズネットで注文した商品を「店舗で受け取り」ができるようにした。一部を除いたハンズネットで販売する商品が店舗受け取りの対象となる。
各商品ページに「店舗で受け取る」ボタンを新たに設置。このボタンを押すと、当該商品の受け取り先となる店舗一覧が表示される。フランチャイズ店など5店を除き、どこの店舗でも受け取れる。基本的には最寄りの店舗を選択する。在庫がある商品は、すぐに受け取り可能となり、在庫がない場合には取り寄せとなる。
この機能の成果は、早くも表れている。「復刻版 プロピーラー」という皮むき器は、9月23日にテレビで紹介されたことで、商品ページへのアクセスが急増したものの、実際に購入する人は多くなかったという。テレビ番組を見て興味を持ち、商品を検索したが、いざとなると「皮むき器1つ買うために送料を支払いたくない」と考えた人が少なくなかったのだろう。
ところが、その2日後に「店舗受け取り」が可能になったため、「ハンズネットで、しかも店舗受け取りを指定した購入が急速に増えた」と緒方氏は驚きを隠さない。仕事帰りなどに、最寄りの店舗で商品を受け取るなどすれば、送料はかからない。店舗受け取り機能は、これまで取りこぼしていた見込み客や潜在需要を掘り起こし、実売につなげる可能性を拡げるものだと言って良いだろう。
今後は、店舗に設置したデジタルサイネージにハンズネットの人気商品を表示して、店舗の来店者に告知するといった施策も視野に入れる。様々な手を打ち、店舗とECの融合を一層推し進めていく方針だ。
記事掲載当初、「自動的にアプリ上のお気に入りリストに登録される」としておりましたが、アプリ利用者自身で登録する必要があります。本文は修正済みです。[2013/9/30 16:10]