北海道日本ハムファイターズの稲葉篤紀選手(新婚)と中田翔選手(新米パパ)が保険の見積もりに挑戦するテレビCMを8月から放映して話題になっているライフネット生命保険。インターネットを販売チャネルとし営業人件費を削ることで大手生保より割安の保険料を提示する同社は、今年5月に開業5周年を迎え、契約件数は18万件を突破した。
じっくり比較検討して選ぶ生保という商品の性質上、同社サイトへのアクセスはパソコンからが8割近くを占める。ところがテレビCM放映の反響がすぐさま表れるのはスマートフォンサイトだ。CMを見てふと気になった人が手元のスマホからすぐにアクセスするため、放映直後のアクセスはパソコン向けサイトを上回る。この潜在顧客から申し込みに至る確率を高めようと、同社は今年4月末、スマホサイトをリニューアルした。

「手本にしたのはファッション通販の『ZOZOTOWN』」。そう語るのは同社マーケティング部スマートフォン戦略室の堀江泰夫室長だ。同社は2011年3月にスマホサイトを開設し、当初は保険商品情報と資料請求の機能を提供していたが、翌2012年6月に全ての保険商品を申し込みまでできるサービスを開始した。これは国内生保業界初の取り組みである。
2011年春から夏の当時、モバイルからの資料請求件数をスマホ経由と従来型の携帯電話経由で比べるとスマホ経由は2割にも満たなかったが、スマホで申し込みまで可能にした2012年6月にはスマホが逆転。リニューアルした今春はスマホが8割に達している。

ところが資料請求は堅調なものの、申し込み件数はその比では伸びていかなかった。その原因を調査する過程で「申し込みまでできると気づかなかった」という利用者が少なくないことが見えてきた。
スマホサイトのトップページでは、企業ロゴに続いて上から「資料請求はこちら(無料)」「見積りトライ(保険料見積り)」「保険お申込みへ」と3本のメニューアイコンを配置し、3番目の“お申し込み”はオレンジ色にして目立たせていたが、十分ではなかった。
カートボタンで直感的に理解
ではスマホサイトをどのように変えれば、単に資料請求サイトではなく「申し込みまで可能なサイト」として認識してもらえるか。資料請求にとどまっている同業他社のサイトからはそのヒントは得られない。
「『ここで保険が買える、申し込めるんだ』と直感的に理解してもらうには、EC(電子商取引)サイトの体裁、外観になっている必要があるだろう」。そう考えた堀江氏は、中でもデザインが洗練されているZOZOTOWNをモデルにナビゲーションバーを設置。買い物かごのイラスト付きの「カートを見る」メニューを右端に配置した。「保険料シミュレーション」で見積もったプランをここで保存しておけるため、サイト再訪時に検討しやすくなった。
このほか、「独身」「ご夫婦」「ファミリー」「住宅ローン返済中」などライフステージ別にプランを提案するページを新設。保険料見積りページでは、1ページ内でスピーディーに保険料が算出されるように構成を変え、ページ遷移による離脱を防ぐ工夫をした。
リニューアル効果はてきめんに表れた。4月末にリニューアルした結果、「4月までと5月以降を比較すると。保険の申し込み件数は2倍近く増えた」(堀江室長)。
過去5年以内に手術や入院、特定の病気をしたといった告知事項に該当する場合はパソコンから申し込む必要があるため、スマホで申し込もうとして最終的にはパソコンからの申込者にカウントされているケースも一定数あるとみられる。その分が割り引かれてもなおスマホ経由の申し込みが倍増という驚異的な伸びは、今までそれだけ取りこぼしていた可能性があることを示してもいる。
独自調査のリリースで存在感をアピール

業務で四六時中パソコンに向かっているデジタルマーケティング業界人は、スマホユーザー目線での使い勝手に対する理解が十分でないことが往々にしてある。また、かつて「服はネットでは売れない」と思い込んでいたように、「スマホから保険を申し込むのはハードルが高い」と自ら限界ラインを引き、それを「常識」にしてしまいがちだ。そうした固定観念を捨てて改善に取り組んだ堀江室長の姿勢が、成功をもたらしたと言えるだろう。
スマホサイトにアクセスしてもらうきっかけ作りにも同社は力を入れる。冒頭のテレビCMや交通広告などのマス広告を定期的に打つことで、社名認知度は2009年12月の8.3%から2012年12月は約40%へと、この3年間で劇的に向上した(マイボイスコム調べ)。

さらに、気になる会社として存在感をアピールすべく昨今取り組んでいるのが、独自の調査リリースだ。将来の備えや育児休業についてなどマネー・ライフ系のほか、「初恋に関する調査」「ドラゴンボールに関する調査」など一風変わったアンケート調査も仕掛ける。これらはWebニュースなどで取り上げられてネット上でバズを生みやすく、社名認知度だけでなく、アクセス増にも寄与する。
飽くなきサイト改善と攻めのPRの両輪で、「スマホで生保」というハードルはさらに下がっていきそうだ。