「きちんとデジタルマーケティングを実践することで、定価販売のメーカー直販でも売れる実感を持てた」
こんな手応えを口にするのは、食器メーカーの鳴海製陶(名古屋市緑区)のマーケティング部門e-NARUMI.comお客様コミュニケーションセンターの小松孝治グループ長だ。同社は、5月の母の日のキャンペーンに合わせてデジタルマーケティングを実施。直販したキャンペーン対象商品のマグカップの販売数が、昨年の2.5倍になった。

メーカーがネット直販を手がける場合、既存流通への配慮から、定価販売するケースが多い。ただ、既存流通で販売している商品を、わざわざメーカーから定価で購入する人は、そう多くはないだろう。
鳴海製陶は自社EC(電子商取引)サイト、「楽天市場」「Amazon.co.jp」への出店で直販事業を展開している。同社もご多分にもれず、消費者に対してメーカーから直販するメリットを明確に打ち出せず、売り上げが伸び悩んでいた。
一方で、鳴海製陶にとって直販事業は重要性を増すばかり。これまでは百貨店が主な販路だった。しかし、ネット通販の台頭、専門店をそろえた商業施設の増加などの原因により、百貨店から客足が遠のいている。鳴海製陶にとって、百貨店は今も重要な販路であることに変わりはないが、そこだけに頼らない、販売チャネルの多角化は喫緊の経営課題となっている。
企画開始前から広告で商品露出
直販の売り上げを伸ばすにはどうすればいいか。小松氏が頭をひねり、実施した企画の中から、1つの成功事例が生まれた。それが母の日の企画だ。
企画そのものは昨年と大きく変わらない。「母の日に鳴海製陶のマグカップを送りましょう」という内容だ。変えたのは告知方法である。従来は、母の日のキャンペーンページの開設後に、広告などにおける商品の露出を高めていた。この時期を大幅に早めた。
今年はキャンペーンページの開設に先駆けて、「2月からバナー広告の広告クリエーティブにマグカップの商品画像を使って、商品の露出を始めた」(小松氏)。キャンペーン開始前から、バナー広告を目にした人に少しずつマグカップの存在を刷り込んでいった。
Facebookページを活用したのも昨年と異なる点だ。4月にFacebookページ上で、マグカップが5人に当たるプレゼントキャンペーンを実施した。また、キャンペーンの終了時期を、母の日のプレゼントへの関心が高まり始める4月末に合わせた。キャンペーンを通じてFacebookページのファンにおける商品認知を高め、落選した場合でも、検索サイトで検索したり、出店しているモールで検索して、購入してくれることを狙った。
これらの結果、キャンペーン対象のマグカップの販売数は、直販事業全体で昨年の2.5倍になった。「小さな成功かもしれないが社内的にもインパクトがあった」(小松氏)。定価販売のメーカー直販でも、しっかりとマーケティングをすれば売り上げにつながることが立証できたという。
一方で課題も残る。小松氏は直販事業の目標についてこう語る。「今のまま大量生産、大量消費の時代と同じビジネスを続けていては、やがて限界が訪れる。直販事業で顧客と直接つながることで、顧客の嗜好性をしっかり分析して、ニーズに合った商品開発をしなければならない」。
実は母の日の企画で、最も売り上げを伸ばしたのは、Amazon.co.jp経由の販売だった。現状の自社ECサイトでは、直前に大量の注文が殺到してもさばくことが難しいといった事情があり、Amazon.co.jpでの販売を優先したからだ。
その結果、全体の販売数は増えた。それでも、自社サイトで多くの顧客とつながり、顧客のデータを入手できる機会はみすみす逃したとも言える。顧客のことを知る。その目的を果すには、自社サイトでの購入比率の向上が求められるだろう。