Facebookページのマーケティング活用は、大手企業から中堅中小にまで、すそ野が広がりつつある。情報発信のための“お作法”については概ね理解したという一方で、いかにして実利に結びつけるか、という点で頭を悩ませている企業が多いのではなかろうか。
化粧品会社コーセーの子会社で、通販専門の化粧品ブランド「米肌(まいはだ)」を展開するコーセープロビジョン(東京都中央区)もそうした課題を抱えている一社だった。プレゼントキャンペーンなどでファンを集めたものの、売り上げへの貢献度合いを示せず、社内からは「続ける必要があるのか」という声も聞こえ始めたという。
そこで、4月からファンの獲得手法を大幅に変更した。この転換は見事に成功。米肌のFacebookページに登録している顧客は、非登録の顧客に比べて、初回購入後にリピート購入する人数の割合が1.5倍になるなど、成果が表れ始めている。
ファンの顧客化が進まなかった
米肌は誕生してから、まだ約1年の新しいブランドだ。1年前といえば、既に国内でもFacebookの利用が広がっていたのはご存じの通り。米肌のマーケティングをする上で、必然的にFacebookを活用することになった。メールだけでなく、Facebookも組み合わせて、顧客接点を増やす。この基本的な戦略は、今も変わっていない。

大きく変わったのは、ファンの集め方だ。コーセープロビジョンは当初、ソーシャルメディアマーケティング支援のアライドアーキテクツ(東京都渋谷区)が提供するFacebook向けキャンペーンアプリ「モニプラ」を活用したプレゼントキャンペーンなどでファンを集めた。
その結果、ファンは増えたものの、ファンに占める顧客の比率は思うように高まらなかった。Facebookページの開設から約1カ月が経ったころ、プレゼントキャンペーンに応募してくれた人の名前を顧客情報と付きあわせるなどして分析した。すると「Facebookページのファンにおける顧客の比率は、極めて低い」(コーセープロビジョンマーケティンググループの針金一平氏)ことが分かった。
もちろん、プレゼントキャンペーンが悪いというわけではない。キャンペーンをきっかけにFacebookページに登録してもらい、投稿を通じて徐々に商品やサービスに対する興味関心を高めて顧客化するという考え方もある。むしろ、それこそがソーシャルメディア活用の王道とも言えよう。
ただ、一般にEC(電子商取引)事業者は、かけたコストに対するROI(投下資本利益率)を厳しく求められることが多く、コーセープロビジョンも例外ではない。ソーシャルメディアといえど、かけているコストに対して、売り上げにつながっていることを示せなければ、社内からの理解を得ることは難しいだろう。Facebookで展開したキャンペーンにかけたコストに対する、売り上げへの貢献度が低かったことが、冒頭のFacebook不要論につながった。
企画グループの大島真子氏は、これを強く否定する。「メールだと、どうしても販促色が強く出るため、中には嫌う人もいる。それを補う上で、写真付きでブランドの世界観を伝えられるFacebookページは必須だ」。その価値を理解してもらうためにも、売り上げへの貢献を、目に見える形で示す必要があった。
顧客のファン登録の有無を識別

そこで、ファンの獲得方法を練り直した。新たな獲得方法では、まずECサイトに集客して商品を購入してもらう。その上でFacebookのファンになってもらい、投稿を通じて優良顧客に育てていく。顧客化とFacebookのファン登録の流れが従来の手法とは、全く逆になっている。
この新手法を実現するために、アライドアーキテクツの協力を得て、ECサイトを改修した。具体的には、購入完了画面で、Facebookページに登録した上でアンケートに答えると、ECサイトで使えるポイントが抽選で当たることを告知して、登録を促した。本業であるECサイトの顧客を増やせば、Facebookのファンの増加も期待できるというわけだ。さらに、アンケートの回答履歴を基に、顧客データベース上でFacebookページのファン登録の有無を把握できるようにした。
サイトの改修が終わるまではFacebook上でのファン獲得策は講じなかったため、ファン数は緩やかに減少しつつあった。プレゼントキャンペーンで登録した、いわゆる懸賞マニアのような人たちの登録解除などが一因と考えられる。改修後は、顧客獲得を目的とした広告出稿を強化。その結果、顧客の増加とともに、狙い通りFacebookページのファンも増えていった。

改修を終えた後、4月に広告で獲得した顧客のうち、Facebookのファンになった人と、そうでない人とで、2回目の購入に至った人数の割合がどれほど違うのか、という分析を始めた。6月時点では、Facebookのファンの方が1割多い程度で、大きな違いはなかった。ところが、8月には、比率の差が1.5倍に開いたという。
その理由を針金氏は、こう説明する。「メールによる、リピート購入を促す施策が終わった後にも、Facebookで継続してアプローチできることで徐々に差が開いているのではないか」。
成果が出たことで「Facebook不要論」は収束
具体的に説明すると、同社は、初回購入した後の1週間後、1カ月後といったスケジュールを組んで、複数回に渡るメールで2回目の購入を促している。しかし、2~3カ月の間に再購入に至らなかった場合は、リピート購入のためのメール配信は打ち切って、週1回の一斉配信のメールマガジンだけを送る。Facebookのファンでなければ、すべてのメルマガを見たとしても、接触回数は月に4回の計算だ。
一方、Facebookページは月に14~15回投稿する。このうち、ファンは平均4~5投稿を目にしているとの分析結果が出ているという。これをメルマガと合算すれば、接触回数は9回ほどになる。もちろん中には、より多い回数、接触している人もいるだろう。
このように、リピート購入を促す施策の終了後もメルマガとFacebookページで継続的に接触できることで、初回購入から期間が開いた後にもリピート購入につなげられるため、徐々に差が開いている可能性は高い。こうして、具体的な成果につながり始めたことで、社内における「Facebook不要論」は収束したという。
今後は、ECサイト全体のリピート率やLTV(顧客生涯価値)向上などへの貢献度の分析にも取り組んでいく方針だ。