何でもネットで購入できる時代とはいえ、EC(電子商取引)に向いた業界と、そうでない業界という違いは当然ある。例えば自動車。今のところは「クリック1つ」で購入、自宅に宅配というわけにはいかない。

 ではカーナビゲーションやタイヤ、ホイールなどを扱う自動車関連用品はどうか。確かにそうした商品を販売しているサイトはある。それでも多くの人は、自動車ディーラーや自動車用品販売店の店頭で購入するのではないか。カーナビなどはもちろん、タイヤやホイールなどでも、クルマに装着するにはそれなりの知識や技術、工具などが必要になるからだ。一般的には、ECに向いた業界とは見なされないだろう。

オートバックスセブンはEC事業の売上高の倍増を目指す

 そんな難しい業界にありながら、今、EC事業の拡大に向けてひた走っている企業がある。業界大手のオートバックスセブンだ。

 「前期に8億6000万円だったインターネット販売の売上高を、今期は18億円へと倍増させる」。2013年3月期の決算発表の席上、同社の湧田節夫社長はそう宣言した。同社はこのハードルを超え、成長を継続させるカギは業界特性に合ったCRM(顧客関係管理)の推進にあると考えており、現在、その整備を進めている。

車両情報で顧客の趣味嗜好を捉える

 その主幹部署となるのが今年4月に新設されたマーケティング企画部である。顧客のクルマに関する趣味嗜好やニーズなどを把握。顧客一人ひとりの趣味やライフスタイルに合った商品を、メールや、約550店舗に配置したタブレット端末などを活用して提案し、効率よく購買につなげられるようにすることを目標としている。

 では肝心の趣味嗜好やライフスタイルはどのようにして把握するのか。CRMを実現しようとするなら、業界を問わず課題になるポイントだろう。

 実はこの業界の場合、それらを把握するのに最適な情報がある。それは、顧客がどんなクルマに乗っているか。具体的には、車検証に載っている車両情報を把握することである。

 「同じメーカーの同じ車種に乗っている人でも、たとえばセダンタイプとワゴンタイプとでは、ライフスタイルやクルマに対する考え方はまるで違うことが多い。車検証には、メーカー名やいつ購入したかという初度登録年月などに加えて、車種を示す車台番号や型式、原動機の型式、さらに走行距離といった情報が載っている。そこから読み取れることは、実に多い」(マーケティング企画部の遠藤哲夫部長)。

 車両情報を加味すると、同じメーカーの同じ車種のセダンに乗っている人にタイヤを勧めるにしても、次のようなカスタマイズが可能になる。

 内装が革張りで高級感を演出したグレードに載っている人には、乗り心地を最優先して作られたタイヤを提案。一方、内装にカーボン素材などを使っているスポーティーな仕様に乗っている人には、接地力の高いタイヤを勧める、といった具合である。

 同社には会員カード「オートバックスポイントアップカード」のアクティブ会員が約650万人いる。そのうち過去に同社で車検を受けたり、パーツの取り付け作業で来店したりしたことがあるなどして、車両の情報を一部でも把握できている人の割合は70%ほどに達しているという。

 今後は例えば「車両情報入力キャンペーン」などと銘打ち、同社のWebサイトで車両情報を入力(追加もしくは更新を含む)した顧客に抽選でエンジンオイル交換の権利1年分をプレゼントするキャンペーンなどを実施。車両情報の取得をさらに進める考えだ。

 ネット売り上げを倍増する舞台であり、車両情報を補完する購買履歴情報を取得する場でもあるECサイトの拡充も進めている。1つは、自社サイト「autobacs.com」、昨年開設した楽天市場内「オートバックス楽天市場店」に加えて、今年6月、アマゾン内に「オートバックスストア」をオープンさせて、顧客接点を3つにしたこと。もう1つは、自社サイトで大半の商品について「店頭受取り」ができるようにしたことだ。「カーナビのような(取り付け作業が必要な)商品でも、ネットで購入することのハードルは、これでかなり下がったはず」(遠藤氏)。3つのECサイトにおける取扱商品の拡大とあわせて、これらは即効性ある対策として期待できる。

 自動車用品業界は、本当にECに向いていないのか。その答えは早晩明らかになるだろう。