潜在顧客を成約手前まで引き寄せるコンテンツは、導入事例だけではない。製造業なら、技術解説は顧客とその予備軍にも重宝される“鉄板”コンテンツだ。

 粘度の高い液体でも詰まらせずに一定速度で移送できる──。そんな産業用特殊ポンプ「モーノポンプ」の専業メーカー兵神装備(神戸市兵庫区)のWebサイトで人気を集めているのが技術コラム「移送の学び舎」のコーナーだ。同社の技術者が持ち回りで担当する専門的な内容ながら月4万~5万PVに上るという。ポンプの基本的な原理から、液の粘度に適したポンプ形状や素材などを図解を交えて分かりやすく解説している。

 12年前に既存顧客ら3000通からスタートしたメールニュースは、展示会来場客などで毎年約5000人ずつ増えており、実配信数は現在約6万通に達している。同社営業部セールスフォースグループの渡邉誠リーダーは、「ポンプの購入・更新は10年に1回で、資料請求や展示会来場がすぐそのまま成約にはつながりにくい。一方、営業は今日明日の納入とサポートで忙しい。メルマガや技術コラムはそうした見込み客とのつながり維持が目的だが、好評で役目を果たしている」と説明する。

技術者向けコラムやデータ集でつなぎとめる兵神装備

 一方、展示会来場者向けに同社が“お土産”として作成・配布している技術データ集「エンジニアズブック」にも根強い人気がある。技術者必携の単位や公式、建築、機械からバイオ、宇宙まで先端技術分野の膨大なデータを網羅しており、ボリュームは500ページ超。そのWeb版は数字を入力すれば計算が可能とあって、月10万近いPVを集めているという。

 自社のポンプを売ることを超えて、日本のエンジニアを応援する同社の姿勢は、技術者からの支持、信頼獲得につながっている。

BtoB商材の選定、情報源は「企業のWebサイト」

業務上の製品・サービスの情報源(複数回答)

 システム開発会社からポンプ製造会社に至るまでなぜデジタルマーケティング強化に走るのか。それは顧客側が業界を問わずネットで情報を探す行動が定着しているためだ。日本ブランド戦略研究所(東京都港区)が7月に公表した「BtoBサイト調査2013」によると、BtoB商材の選定・購入に関与するビジネスパーソンを対象にしたアンケートで、業務上の製品・サービスの情報源として「企業のWebサイト」を挙げた人は54.4%と過半数に達する。

 さらに企業サイトを訪れるタイミングを調べると、購入検討段階の後期に当たる「導入の参考」が最も高い。候補が絞り込まれた段階で自社が残っている必要があるが、競合に見劣りするWebであれば、製品や備わっている機能を見落とされたり、過小評価されたりする恐れがある。それはもったいない。

 潜在顧客のニーズに最適な製品を「見つけてもらいやすくする」ことは、取り扱い点数が多数に上る業態で特に重要性が増している。

まるで住宅情報サイトのような使い勝手

 TDKは今年1月に積層セラミックチップコンデンサ、7月にインダクタ(コイル)のWebサイトを大幅にリニューアルした。どちらもスマートフォンや車載用電子部品に不可欠なデバイスで同社の主力製品である。

検索機能を拡充し、購入も可能にしたTDK

 強化ポイントは検索機能の強化だ。それまではカタログを単純に電子化していたため、例えば使用電圧を条件に検索する際、指定数値と一致した製品しか表示されず、指定数値以上または以下の製品を一覧する際に不便さがあった。リニューアルによってこれが解消され、様々なパラメータを設定することで、約9000点あるコンデンサがリアルタイムに絞り込まれて該当点数が表示される。

 使い勝手としては、住宅情報サイトで家賃や駅からの徒歩分数などを指定すると該当物件が絞り込まれていく感覚と同様だ。検索された製品は、「Digi-Key」などオンライン対応している電子部品の販売代理店の在庫情報を表示し、そのまま製品サンプルをオンライン購入できるようにもなった。

 同社グループの製造会社TDK-EPCのマグネティクスビジネスグループ製品戦略推進部技術サービスセンターの梅村哲也氏は、「探し漏れを防ぎ、即入手できる体制が整ったことで、サンプル購入客は刷新前より15%増加。うち3~4割が今まで取引のなかった新規客」だと話す。

サイト刷新で海外からの問い合わせが25%増

 ノーベル物理学賞の小柴昌俊氏の研究に貢献した光技術の先端企業として知られる浜松ホトニクスも、今年2月にサイトをリニューアルし、海外からの問い合わせ件数が25%伸びる成果を上げている。

見つけてもらいやすく刷新した浜松ホトニクス

 それまで国内と海外現地法人が別々に運営していたが、日本オラクルのCMS「WebCenter Sites」を導入してサイトを統合し、製品情報の二重管理を解消した。同時に検索機能を強化し、検出波長域や受光面サイズ、パッケージ素材や特徴などを指定して絞り込めるようにした。

 気になった製品をお気に入り保存できたり、次回訪問時に前回最後にアクセスした直近5件の閲覧履歴が残る機能などは、TDKと同様、物件検索サイトと似た操作感だ。

 BtoB企業サイトで成果を挙げるには、見つけてもらいやすい検索性の強化と、信頼感を勝ち取るコンテンツの継続的な提供でBtoB商材の選定・購入者のニーズを充足させる必要がある。

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