ではBtoB企業がデジタルを上手く活用して顧客を開拓するにはどうしたらよいか。ここは「餅は餅屋」ということわざに則って、BtoB企業向けのデジタルマーケティング支援会社がどのように新規顧客を獲得しているのか、その手法に目を向けてみたい。
ソーシャルメディア運営・監視やWebサイト構築・制作などを請け負うガイアックスが、見込み顧客(リード)獲得の武器にしているのがブログだ。年商10億~100億円規模の中堅BtoB企業を対象に「INBOUND marketing blog」を開設したのが2011年10月。2012年6月から本格運用を始め、月2~3本ペースで集客に効くWebサイト改善ノウハウを掲載している。

今年6月6日に公開した「【完全版】企業ブログを立ち上げる時に押さえておきたい31個のポイント」は、Facebookの「いいね!」とはてなブックマークがそれぞれ200件前後つくなどソーシャルメディア上での反響が大きく、リード獲得に一役買った。
6月のブログ訪問数は、本格運用を始めた前年6月の3倍に当たる1万5000セッション。リード獲得数は同30倍超の130件に達している。
「言いたいこと」より「知りたがっていること」を書く
好調の秘訣は、ズバリ出し惜しみしない情報発信力にある。同社ソリューション事業本部プロモーションマーケティング部で同ブログ編集長を務める栗原康太氏は、「(会社として)『言いたいこと』より『みんなが知りたがっていること』を書く。潜在顧客が抱えている疑問や課題を想定して、その解決に役立つ記事にする」と基本方針を説明する。
この8月2日に公開したばかりの「Web担当者のためのペルソナ作成マニュアル」も評価が高く、人気記事トップ5にランクインしている。
マーケティング支援系の企業がペルソナについて解説する記事を自社Webに載せるケースは珍しくないが、その内容はたいてい「ペルソナとは何か」といった定義付けで終わりがちだ。
ガイアックスのブログでは、ペルソナ作成のメリットを3点、作成の流れをSTEP1~5として挙げ、「BtoBの場合は購買プロセスに複数人が関わるため、様々な階層・役職の人を想定する必要がある」ことまで触れている。こうした読み手の立場に沿った情報を提供することで、「BtoBのリード獲得ならこのブログ」という信頼感の向上へとつながっていく。
栗原氏は、「ブログを読んでくれた企業担当者からコンペなしで受注できるケースが多い。営業担当がアポを取った時に既に関係が構築できている状態であり、商談がスムーズに進む」とブログのリード獲得効果を語る。
同社のブログおよびWebサイトは、読み手の検討度合いに応じた入り口を用意している。「実施するかは未定だがサイト刷新の関連記事には目を通しておきたい」などコンタクトを取りたくない段階の人にはFacebookやTwitterをフォローしてもらうことで緩くつながり、新着記事の見落としを防いでもらう。
情報収集段階の人は、TIPS集やノウハウをまとめたホワイトペーパーのダウンロード、メルマガ登録。業者の選定に入っている場合は資料請求。個別具体的な問い合わせや相談といった成約一歩手前の段階の人には、お問い合わせフォーム、提案・コンペの依頼フォームといった具合だ。この段階で営業部隊が出動すれば、成約の確度はかなり高い。同社も2006年ごろまではテレアポ中心の営業をしていた。今ではすっかり「待ち」の営業スタイルに切り替わり、成果を上げている。
月1本事例を増やし顧客の関心を維持
BtoB企業向けデジタルマーケティング支援という、やや特殊な業態を紹介したことで、「参考にしづらい」と思う方もいるかもしれない。しかしガイアックスの取り組みを「コンテンツマーケティング」、すなわち「見込み客にとって有益な情報を提供し続けることで興味を持ってもらい、最終的に成約につなげる戦略」と捉えれば、大多数の企業に応用が効く。多くの企業でコンテンツ候補となるのが導入事例だ。
在庫・販売管理など基幹業務システムのパッケージ「アラジンオフィス」を開発・販売するアイルは、導入事例の紹介に力を入れる一社である。顧客は年商数十億円未満の中堅・中小企業が中心で、アパレル・ファッション、食品から医療機器、鉄鋼・非鉄、ねじ(金属・部品)まで多岐にわたる。

主力のアパレルはECサイトを立ち上げる事業者が多く、実店舗との在庫連携を図るニーズが顕在化して市場環境は同社にとっては追い風だ。だが大塚商会やオービックといった知名度のある企業と競合するため、ラクな戦いではない。受注を勝ち取るには、やはりひと工夫が必要になる。
同社は6~7年前、標準パッケージを業界別の商習慣やニーズに合わせてチューニングした業種特化型パッケージをいち早くリリースし、業種別のシステム説明ページを立ち上げたことで受注を優位に進めた。そして2009年暮れにサイトをリニューアルする際、BtoB企業であってもBtoC商品と同様に利用者の生の声が製品選定に大きな影響を持つとの判断から、導入事例を積極的に載せていくことにした。
一口にアパレル・ファッション業界の事例と言っても、服・靴・かばん・宝飾品など主取り扱い品によって、また小売店・卸・メーカーなど業態によって違いがある。サイトに情報収集に訪れた潜在顧客に「これだ!」と思ってもらうには、事例の量とバラエティが必要になる。
そこでシステム導入成果が出ていそうな企業に取材を打診して、それまで抱えていた課題がシステム導入によってどう解決されたか、潜在顧客層が読んで「自分ごと」としてイメージしやすいように記事化している。月1本ペースで事例を公開しており、現在その数は40社を超えている。事例の掲載を始めた2010年7月期以降、Webからの資料請求数、受注金額ともに快調な伸びを見せている。
注目してほしいのは、2013年7月期の資料請求数が前年から約13%減少していること。これについて同社マーケティング企画室の松坂英俊マネージャーは、「昨年までは自社サイトからの資料請求のほか、ホワイトペーパーのダウンロードサービスも活用していた。請求件数は伸びたものの、外部のサービスからの請求は成約につながりにくかったため、利用をやめた分、件数が減った。それでも受注金額は前年からさらに伸びたため、引き合いの精度が高まったと言える」と説明する。
資料請求件数をKPI(重要業績評価指標)に据える企業は多いが、これを目的化してかき集めることに注力してしまうと、見込み客リストの質低下は避けられない。リストを渡された営業が成約に持ち込めない案件が多発し、疲弊する結果を招いてしまう。アイルでは、成果を受注で判断しているため、資料請求をかさ上げするような事態は起こりにくい。
現場の顧客ニーズを知る営業の意見をWebサイトにスムーズに反映させるためにも、営業部隊とマーケティング部門は密に連絡を取り合える関係が望ましい。