「わっ、縮んだ!」「だいぶ背が低くなったな」──。

 昨年暮れから今春にかけて東京・赤坂見附界隈に出向いた人の多くが、徐々に低くなっていく赤坂プリンスホテルの姿にスマートフォンのカメラを向け、ソーシャルメディア上には解体途上の赤プリ写真が感嘆の声とともに多数投稿された。

 中には同じ場所から定点観測して、解体の一部始終を追いかけたブロガーもいた。

大成建設の赤プリ解体技術がクチコミで拡散

 高さ日本一を誇る東京スカイツリーの建設過程がニュース性を持つのは当然としても、それ以外のビル建設や解体、ゼネコンの工法などに一般市民が興味を持つことはないはずだった。それが半年間にわたる解体ショーとして注目が集まったのは、工事を請け負った大成建設にとっても予想を超えるものだった。

 一般的に言ってBtoB企業のブランディングは難しく、成功例は多くない。技術を通じた社会貢献や環境配慮といったイメージ広告的な内容に落ち着きがちで、印象に残らないパターンが目立つ。赤プリを解体した「テコレップシステム」も、特徴は粉塵や騒音が発生しにくいことにあり、事業主である西武プロパティーズが選定した理由もその点だった。

 だが世間の注目は、ビルが静かに縮んでいく面白さに集まった。ビルを防音シートで囲ったり、タワークレーンを横付けしたりする必要のない工法であったこと。そして何より人それぞれに様々な思い入れを持つ赤プリが舞台だったことが大きい。

 「テクノロジーブランディング」の重要性を提唱するクイントセンス(東京都千代田区)の佐藤好彦社長は、「解体技術を『見える化』したことが、人々の会話で話題に上る『話せる化』をもたらし、同時にソーシャルメディアを通じて拡散したことで一気に『広がる化』まで進んだ」と解説する。

 今後、超高層ビルの老朽化に伴う解体案件が増えていくことが予想されるが、今回の赤プリ解体で一躍名を挙げた大成建設は、「『超高層の解体なら大成』というブランド認知を得られたのではないだろうか」(佐藤氏)。大成建設の広報室は、「一連の報道で海外でも反響が大きく、問い合わせが来ているのは収穫」と言う。

 BtoB企業は、もっと自社技術を分かりやすく“魅せる化”して伝えることで、ブランドを確立できるはずだ。そう思わせてくれるのがフジテレビ系のバラエティ番組「ほこ×たて」である。矛盾の語源通り、最強金属と最強ドリルを戦わせるなど、技術力に定評のある企業同士の社運をかけた真剣勝負が人気になっている。

人気番組「ほこ×たて」に技術PRのヒントが…

2トン車を楽々吊り上げる粘着力

 昨年5月、住友スリーエムは絶対に剥がれないテープと銘打って超強力両面テープ「スコッチ」を引っ提げ番組に出演した。相手は何でも剥がすと称するスーパー工業(大阪府摂津市)の高圧洗浄機。

 放映に先立ち3Mはスコッチの実力を示すべく、張り合わせた2枚の鉄板をクレーンと重さ2トンのRV車にジョイントして車を吊り上げるデモンストレーション動画を撮影した。これを番組予告編で放映し、現在、同社サイト上でも公開している。

 ちなみにスコッチは対決に勝利し、同社のTwitterアカウントは、番組を見ながら3Mについてツイートした人の投稿をつぶやきまとめサービス「Togetter」にまとめた。

 極限の環境でも性能を発揮する様子は技術の見える化・魅せる化にうってつけで、動画コンテンツ向きだ。自社技術にいくら自信があっても、ほこ×たて出演のお声がかかるかどうかは運と縁が左右するが、自社で耐久試験をしてその動画をYouTubeで公開するならハードルは低い。

 本誌読者なら、米国のブレンダーメーカー、ブレンドテックのYouTube動画をご存じだろう。iPhoneなどをブレンダーにかけて粉砕した動画は再生回数1000万回を超えている。その“魅せる化”した技術が、誰かに話したくなる、広めたくなる要素を持っていれば、バイラル動画として拡散することも夢ではない。BtoB企業ならではの、技術を軸にした「攻め」の広報・PRが盛り上がることに期待したい。

YouTube活用し技術を“魅せる化”

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