学生アルバイトの非常識な行動がソーシャルメディア上に拡散して炎上する事件が相次いでいる昨今。こうした問題行動がなぜ起こってしまうのか。そして、企業はどう対策を取ればよいのだろうか──。原因を考察すると、ソーシャルメディアガイドラインの策定や企業内研修の実施だけでは防ぎきれない可能性が高いことが分かってくる。防止のカギとなるのは、炎上リスクを「自分ごと」することにある。

飲食店従業員の炎上は洋の東西を問わず

 まずこうした問題が起こると「ゆとり教育の弊害」といった見方や「叱らない親が増えた」といった日本の社会および教育の在り方にその原因を見出そうとする言説が幅を利かせやすい。一方、直接の被害者でもない第三者がクレーマーのごとく“電凸”(企業への電話問い合わせ、「凸」は突撃取材の「突」が元になっている)にいそしむ様に不快感を抱く人もまた、「日本の社会はどうしてこうも陰湿なのか」と嘆く。どちらも日本特有の現象ととらえている節がある。

 だがこの手のトラブルは実のところ洋の東西を問わない。

 従業員が大量のバンズ(ハンバーガー用のパン)の上に寝そべる姿を撮影・投稿して炎上したのは大手ハンバーガーチェーン「バーガーキング」だったが、本家の米国でも先行してトラブルが起きている。5年前の2008年8月、オハイオ州の店舗で、男性従業員がシンク(流し台)に水を張って入浴するシーンを撮影し、これを当時普及していたSNS「MySpace」上で公開したことで批判が殺到した。雰囲気を知りたい方は、YouTubeで「Burger King sink」で検索すると映像を見られる。

 翌2009年の4月には、ピザ宅配チェーン大手ドミノ・ピザの社長兼CEO(最高経営責任者)がビデオカメラの前に立ち、ノースカロライナ州の店舗で起きた従業員の悪ふざけ行為を謝罪する映像をYouTubeで配信した。どんな悪ふざけかというと、ピザの上にわざとくしゃみを吹きかけたり、鼻の穴の中に入れたチーズをピザにトッピングしてみたり、といった具合。この模様をYouTubeで流したのだから大炎上も当然だ。ニュース番組にまで取り上げられ、イタズラ動画の閲覧回数は100万回を超えた(関連記事)。

 こうした愚行をよりによって撮影、投稿して自慢げに誇示し、それにネットユーザーが烈火のごとく怒るところまで、日本国内の炎上劇とそっくりだ。したがってこの原因を日本の社会や教育だけに求めるのは適切ではない。悪ふざけや愚行を自慢して起こる炎上劇の多くは、自分を大きく見せて優越感を得たい人の性(さが)とみた方がしっくりくる。この性格は学歴や仕事の出来・不出来はあまり関係がなさそうだ。

 武勇伝の披瀝癖と聞いてピンとこない方も、これをより広範に解釈して「面白い人だと思われたい(つまらない奴だと思われたくない)願望」と考えると理解しやすい。他人とは一味違う言動で周囲を楽しませる旺盛なサービス精神は、時に悪ノリ・悪ふざけと隣り合わせな面があり、踏み外すと炎上を招く。これが人間が持つある種の本能だとすれば、今後も炎上の火種が消滅することはなさそうだ。

有名人を見て立場を忘れる

 ここ1カ月ほどで発覚し話題になった学生アルバイト炎上劇のほとんどは、悪ふざけや愚行を自慢するものだった。ソーシャルメディアでの炎上原因にはもう一つの典型的なパターンがある。

a.2011年1月、東京・恵比寿の「ウェスティンホテル東京」内の飲食店アルバイトスタッフが、Jリーガーと人気モデルの来店・宿泊をTwitterで暴露

b.2011年5月、アディダス銀座店に勤務していた新入社員が、同社契約Jリーガーとその妻が来店したことを悪口交じりに投稿

c.2011年8月、北海道のホテルで男性アイドルグループの人気メンバーがチェックアウト後の部屋に従業員が入り込み、灰皿や空き缶などを撮影・投稿

d.2012年5月、茨城県鹿嶋市の病院で診療情報管理士が、鹿島アントラーズ選手のカルテを発見した旨をツイート

e.2013年1月、広島の医療系専門学校生が、研修先の病院でサンフレッチェ広島の選手のカルテをみた♪とツイート

 これらは、有名人のプライバシー情報を公開してしまうツイートだ。上記には「○○の選手」などと記したがすべて個人の実名入りとなっている。

 街中でたまたま有名人を見かけたことをツイートすること自体は、有名人の心境をさておけば問題にならない。しかし、自身が店員やスタッフで、有名人が来客として訪れた場合は、当人の許可がない限り守秘義務やプライバシー保護の問題が伴う。有名人が目の前にいるという興奮が先に立って自分の立場を忘れてしまうことが原因だろう。

 ちなみに、7月にはファミリーマートで防犯カメラの画像まで公開して、サッカー日本代表選手の来店を投稿したことによる炎上事件もあった。こちらは、来店から4日後の投稿であるため、舞い上がったというよりは人気選手の名前を挙げることでうらやましがられたい、優越感に浸りたいという思いもあったのではないか。

リテラシー教育だけでは解決しない

 今までアルバイトを含む従業員のソーシャルメディア活用リスクについては、従業員向けのソーシャルメディアガイドラインを策定して研修を行うことが対策になると考えられてきた。だが数々の事例を見ていくと、炎上は必ずしも無知が引き起こしているわけではないことに気づく。

 たとえば上記「b.」の女性新入社員は、3カ月前の2011年2月に立教大学4年生が暴言ツイートで大手百貨店の内定が取り消しになった事件があった際に、「あたし的には社内で後ろ指さされながら生きてってほしかった」とのツイートを残している。つまり彼女は、ソーシャルメディア上で不適切・不穏当な発言をすれば炎上を招く可能性があることは十分理解していたのである。

 彼女が研修で理解度テストを受けたならば、合格していた可能性が高い。それでもところ変われば炎上を起こす側になってしまう。リテラシーと炎上リスクは本来反比例するはずだが、そうはコトが進まないのは悩ましい。

 フランテック法律事務所の金井高志弁護士は、会社法第423条の「役員に対する損害賠償責任」をめぐる解釈として、「ソーシャルメディアリスクの存在を認識しながら放置して損害を発生させた場合には、責任を問われる可能性がある」と指摘する。企業としては差し当たって、ガイドラインを策定し研修の体制を用意していれば、対策を取っているとみなされるだろう。

 ただ、せっかく策定・研修をした以上は当然、自社従業員からトラブルを出したくない。そのためには研修の中身が問われることになる。文章にしてしまえば常識的なルールが書かれているガイドライン文面を何度反芻しても効果は薄い。理想を言えば、具体的な失敗例を基に自分ならどのような失敗を起こす可能性があり得るかを考えて、グループで議論するワークショップ型の研修が望ましい。

 炎上パターンは、武勇伝の披瀝だけでなく、写真への意図せぬモノや人の写りこみ、身内からの漏洩、愛社精神に起因するやらせなど様々ある。「自分は関係ない」から「自分も起こし得る」に意識が変わってようやく起こしにくくなる。研修担当者には、「自分ごと」としての自覚を促すことに重点を置いたプログラムを組んでいただきたい。