会員制コミュニティと呼べば今どきの手法に思えるが、平たく言えば「友の会」。昭和の時代から、取り組んできた企業は数多い。

江崎グリコの会員制コミュニティサイト「グリコクラブ」

 江崎グリコが開設している会員制Webサイト「グリコクラブ」は、まさに「友の会」から発展してきた。1980年代に実施していた「グリコ アイスクリーム友の会」というのがそれだ。ハガキで応募するキャンペーンで集めた消費者約5万人に対して年2回、会報誌を郵送していたという。

 Web化したのも2002年と、業界の先駆け的な存在。だが、見るべきはその歴史の長さばかりではない。会員数は従来型の携帯電話向けの兄弟サイトと合わせても約62万人と決して多くはないが、ロイヤルティが高い人が自然に集まる仕組みがある。CRM(顧客関係管理)が再注目される今こそ、その原点とも言える小粒な会員制コミュニティサイトから学べることは多い。

 運営担当はマーケティング本部CR部の古澤幸彦マネージャー。長年にわたって企業と顧客との関係構築を担当してきたエキスパートだ。古澤氏は3つの「こだわり」を持ってコミュニティを育てている。

載せているのは独自キャンペーンばかり

 こだわりの1つは、キャンペーン情報はグリコクラブ独自のものしか載せないことだ。

 グリコは食品や菓子など、多くの商品・ブランドを持ち、活発に販促キャンペーンを実施している。だが、そうしたキャンペーン情報が、このサイトには一切見当たらない。

 例えば、主力商品の1つ「プリッツ」。現在は「楽しさ倍増! コミック&プリッツキャンペーン コミック選べる10作品」というキャンペーンを実施している。プリッツを購入すると、「金田一少年の事件簿」など人気マンガ10作品が、楽天の電子書籍リーダー「kobo」の端末や無料アプリで読めるという企画である。

 だが、グリコクラブにこのキャンペーンに関する情報はない。代わりに「選んで当てよう! ご当地プリッツ No.1決定戦! キャンペーン」という独自キャンペーンが大きなバナーで告知されている。

 グリコクラブのようなサイトで自社ブランドが企画したキャンペーンを一切紹介しないというのは極めて珍しいだろう。大半の企業の会員制サイトは、消費者があらかじめ登録した会員情報で、様々なキャンペーンに簡単に応募できるのがメリットとなる。ブランド側にとっては、多数のキャンペーン応募者を簡単に獲得できることがメリットとなる。

 グリコクラブは、そうした一般的な会員制サイトの逆を行く。古澤氏はその理由を次のように説明する。

 「わざわざ(グリコクラブの)会員になっていただいている消費者に、会員になっていることの価値を、より実感してもらうためだ」

 ブランドが実施するキャンペーンに応募する人は千差万別。実施企業や対象になっている商品に愛着があるか、ロイヤルティがあるかと言えば、必ずしもそうではない。賞品欲しさに応募するという人が大半だろう。

グリコクラブで掲載するのは独自のキャンペーンだけ

 そして、グリコクラブは会員を募集するために広告を打つことはしない。これが2つ目のこだわりである。その結果、グリコの商品に関心を持ち、一定以上のロイヤルティを持った人たちが多く集まるのだ。そうした人たちに、「誰でも応募できるキャンペーンを告知するのは不適切だし、すべきでない」と古澤氏は考え、独自のキャンペーンのみを掲載している。

 会員の数ではなく質をあくまで追求する。広告を打たず、独自キャンペーンしか載せていない裏には、そんな考えがある。

 古澤氏は、グリコクラブの前身である「グリコ アイスクリーム友の会」、そしてほぼ同時期に実施していた「ポッキー新聞」という2施策について、こう振り返る。

 「当時は(顧客に送る)会報と言ってもチラシのようなものだった。それでも(アイスクリーム友の会とポッキー新聞の)2つ合わせて年間1億円ほど費用が掛かった。会社からは『これほどの費用を掛けて、見合う効果が出ているのか』などと叱られていたが、顧客と企業の関係はどうあるべきか、それを長い間、考えられるポジションにいたことは大きな財産」

 その長い経験から古澤氏は、企業と顧客との関係づくりについて、独自の見解を持つに至った。それが色濃く反映されているのが現在のグリコクラブである。

究極のグリコ好きに不満を聞く

 グリコクラブには、サイト上では告知しない様々な“隠し企画”がある。それは商品のサンプリングだったり一部会員を対象にしたアンケートだったりする。ここに、古澤氏がこだわる3つ目のポイントがある。

 消費者に商品サンプルを渡して、周囲の友人知人などに配布してもらうサンプリング施策の肝は、実は、「誰に配布を依頼するかにあるのだ」と古澤氏は言う。それを決めるために注目したのが「食のお悩み相談室」というコンテンツでの会員の振る舞いだ。

 「オリジナルの自慢の炊き込みごはんを教えてください!」といった会員の悩み(=質問)に対し、別の会員が回答するというQ&A企画である。

 「このやり取りを見ていると、積極的に書き込みをして、会員同士の議論をリードするような人が何人かいることが分かった」(古澤氏)。その中でも周囲を納得させるような論理的な考え方ができるなど、“人柄”も見極めた上で、グリコから連絡。サンプリングの配布役になってもらった結果、「周囲の人へのブランド認知、ファン化でかなりの成果があった」(古澤氏)。

 同様の考えからロイヤルティが高い人に絞ったグループインタビューも計画している。「一般的なグループインタビューは総花的な結論に終わり、役に立たない。だからグリコクラブの会員の中でも極めつけにグリコ好きの人を選び、当社や商品への不満を聞きたい。そこに消費者の本音があるはず」と古澤氏。

 古澤氏の3つのこだわりに共通するのは数より質、頻度よりも濃度。顧客との関係性で求めるべきは、そうしたことではないだろうか。

■修正履歴
古澤氏と「グリコ アイスクリーム友の会」などとの関わり方の表現に誤りがありましたので、該当する文章を修正しました。[2013/8/21 21:00]
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