「見込み客」ですらない消費者に、どうすれば自社商品への興味関心を喚起できるか――。日本生命保険は、その難題にデジタルマーケティング施策をもって挑戦し、成果を上げつつある。

日本生命保険が3月にリニューアルした会員制Webサイト「ニッセイみらいファクトリー」

 「Webサイトの再訪問率を比較すると、リニューアル後は、昨年と比べて4倍も高くなっている」。日本生命保険広報室の久保木博之課長補佐は、3月末に会員制へと刷新したWebサイト「ニッセイみらいファクトリー」の効果について、そう語る。

 同サイトはキャンペーン告知や連載コラムといった従来のコンテンツに加えて、3月に会員登録制とすることで、自分や家族の誕生日や結婚記念日までの日数をカウントダウンしてくれるサービスなどを加えた。その刷新の結果、再訪問率が大きく向上したのである。

 このサイトの会員数は約20万人。大きく言えば、キャンペーン応募などを契機に登録を促し、顧客を囲い込むサイトの1つだ。日本コカ・コーラの「コカ・コーラ パーク」など、同様のサイトは数多い。

顧客と日生の絶妙な“距離感”

 しかし、このサイトで注目すべきは、顧客と同社との絶妙な“距離感”だろう。ゲームなどのエンターテインメント要素に頼って目的を見失ったり、逆に、売らんかな意識が強すぎたりといったことがない。それでいて「ごく自然な形で生命保険に関心を持っていただく。日本生命というブランドにも親しんでいただく」(サービス企画部サービス企画グループの鈴木渉課長補佐)という目的がしっかりと果たせている。

 鈴木氏が「自然な形で」と言うように、このサイトでは、会員に直接的な形で保険商品を紹介したり、加入を促したりする仕掛けを、あえて設けていない。会員も、大半は「すぐにでも生命保険に入ろう」といった意識の持ち主ではない。多くは「見込み客ですらない人たち」なのである。

 しかしそうした会員に、日本生命に代わって、保険商品への興味関心を「自然な形で」高める役割を果たす人たちがいる。それは、ほかの会員。つまりは消費者自身なのである。

 それが端的にうかがえるのは、刷新時に開始した「みんなのライフイベント」というアンケート企画である。6月はテーマが結婚で、「お金か愛、選ぶとしたらどっち?」と題して会員から意見を募集した。言うまでもなく結婚は生命保険に加入する最大のきっかけの1つ。テーマ自体が生命保険への興味を喚起する伏線になっている。回答欄を見ると「愛だけでは生活できない」「生活にはお金がいる」など、生命保険を連想させそうな意見も表示されている。

 日本生命からではなく、自分と同じ消費者の意見だからこそ、会員も素直に耳を傾けられるというものだろう。とはいえアンケートのテーマは、「仕事・就職」など加入につながりそうなものと、「旅行」「学問」などの中立的なものとをバランス良く選んでいる様子がうかがえる。そんな配慮があればこそ、企業サイトとしての存在意義と、サイトの人気とが両立できている。

 消費者を囲い込む。会員サイトで成功したいなら、まずはそんな古い意識を捨て去る必要があるのではないか。

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