「北海道Likers」「百人ビールラボ」など、Facebookを使ったソーシャルマーケティングを進めてきたサッポロビールは、8月から「痛風ソーシャル」という企画を始める。「モバイル&ソーシャル WEEK 2013」の壇上で、サッポロビール営業本部の大谷光弘企画推進部部長が明かした。
「日本中の痛風の人を集めるつもりでやる」。そう意気込みを語り、講演では、社内でデジタルマーケティング企画を通すためのコツについても披露した。
「北海道Likers」の閲覧数、月に1億突破
サッポロビールは従来、テレビCMを中心としたマスメディア広告を重視してきた。だが、若年層のテレビ離れや、録画視聴によるCM離れが進む中、広告戦略の転換を迫られていた。今年4月、「デジタルマーケティング室」を設置するなどして、急ピッチで新時代に対応しようとしている。

「ものを直接売るのではなく、ビールやその周辺からブームやトレンドを発信し、収益化できないか」――。
ソーシャルメディアを活用した新たなマーケティング手法の確立に向けて試行錯誤する中、取り組んだのが、昨年4月にスタートした北海道Likersだ。北海道在住のカメラマンやライターが、現地の美しい写真や地元ならではの情報を日本語、英語、中国語で投稿。開始から1年2カ月で、全言語合計83万(日本語版22万、英語版34万、中国語版27万)のファンを獲得し、月間の閲覧数が1億を突破したこともあるという。
北海道・札幌にルーツを持つ同社。北海道Likersの運営では、企業色を極力排除し、多くのファンに支持された。オープンして3カ月後ぐらいから同社の商品PRの投稿も始めており、「ネガティブな反応が出るかと思ったが、全く出なかった」と大谷氏は胸をなで下ろす。サイトの集客力を見込めるようになった今、売り上げにどうつなげるかが課題になっている。外部企業とタイアップした告知広告の掲載をするなど、メディアビジネスを推進。EC(電子商取引)サイトと連携し、物販につなげるといった試みも検討している。
延べ10万人が参加した「百人ビールラボ」
「消費者と対話しながら商品を作れないか」。Facebookでビール開発に取り組んだ百人ビールラボも、3万人以上の熱心なファンを獲得するなどの実績を上げた、話題の取り組みだ。昨年9月にスタート。毎週金曜日の夜、Facebookコメントでビール開発について議論する「LIVE会議」を開催し、瓶ビール「百人のキセキ」をみんなで開発。会議に積極的に参加したファンを試飲会や完成披露パーティに招待するなど、ネットとリアルの融合に取り組んだ。
LIVE会議は各回平均1万5000人が閲覧し、800人が参加。延べ参加人数は10万人を突破した。会議を金曜日の夜に設定したせいか「1人で参加する人が多く、寂しい人が多かったみたい」(大谷氏)。ビールのコンセプトは「1人でとことんじっくり味わう」の支持が圧倒的多数で、ダークなイメージのラベルデザインが選ばれた。瓶ビールという高コストなパッケージになったのも、「瓶じゃないとダメだとみんな(Facebookユーザー)が言うから」(大谷氏)だ。
百人のキセキはユーザーの意見をすべて採り入れた。「ビールメーカーの常識では普通作れない、ものすごくコストの高い」ビールになったが、発売から数日で売り切れるなど“ユーザーと共同のものづくり”に手応えを感じている。
「痛風ソーシャル」、8月にオープン
北海道Likers、百人ビールラボで培ってきたノウハウを生かしながら、サッポロビールは新たな企画に挑戦する。8月にオープン予定の「極ZERO 痛風ソーシャル」である。Facebookを活用し、広告では不可能な、ユーザーとの長期的な関係作りに取り組んでいく。
「世界初!!尿酸値が気になる人のネットコミュニティ」というのが、同企画のサブタイトル。文字通り、ターゲットは高尿酸血症患者1600万人(うち痛風患者96万人)である。「日本中の痛風の人を集めるつもりでやる」と大谷氏は語る。
痛風に詳しい専門家が低プリン体習慣について説く解説記事や、低プリン体の料理レシピなどの啓発コンテンツに加え、プリン体川柳・キャラクター募集コンテスト、同社社員の尿酸値改善をユーザーが応援するプロジェクトなど、双方向型のコンテンツも用意する。プリン体ゼロを実現した第3のビール商品「極ZERO」のブランドを冠しながらも企業色は極力控え、ユーザー参加型のファンコミュニティー醸成を目指す。
心配なのは、実名コミュニティーであるFacebookで、高尿酸血症患者が名乗り出てくれるかどうか。「Facebookはクローズドのコミュニティの仕組みが弱い」と大谷氏は本音も漏らした。投稿した情報が流れてしまい、見逃しやすくなるなど、キャンペーンサイトとして使い勝手が悪い面もある。別途特設サイトを用意するなどして、投稿の流れを追いやすく、参加しやすいサイトになるよう工夫もする。
ソーシャルの取り組み、「外よりも中の説得が大変」
デジタルマーケティングの取り組みにとって重要なのは、「社内アピールと社内説得だ」と大谷氏は強調した。「外よりも中が大変。これに尽きる」。「百人ビール」「痛風ソーシャル」など企画の名称を分かりやすく刺激的にし、社内で目立つよう意識。社員・役員向けのメールマガジンを作ってデジタルマーケティングチーム動きをこまめに報告するなどして、地道にアピールを続けているという。メールマガジンは、「Googleアラート」を使ってチェックした業界動向情報とデジタルマーケティング室の取り組みを掲載して毎朝、配信している。
今後は各種の取り組みをECサイトと連携させ、デジタルマーケティングを実際の売り上げにつなげていく。ネットに弱い経営陣でも分かりやすい成果を出していくことで、社内でさらなる理解を得られることが目標だという。
「O2O(オンラインtoオフライン)は、オフラインtoオフラインでもいいのかもしれない」――。「モバイル&ソーシャル WEEK 2013」で、日本コカ・コーラマーケティング&ニュービジネス IMC iマーケティングシニアマネジャーの足立浩俊氏は、店舗を持たないメーカーの立場から、O2Oの考え方と施策について語った。

ご存じの通りO2Oは、オンライン上の活動や情報を起点に、実店舗などオフラインでの購買行動につなげよう、とする考え方だ。大切なのは「オンラインにせよオフラインにせよ、消費者と最初に接する場所をどう探し、設計するか」と足立氏。オフラインメディアで認知を獲得した上でオンラインに誘導し、さらにオフラインに戻す「O2O2O」を提唱し、3月から6月にかけて行った「Share a Coke and a Song」キャンペーンを紹介した。
ボトルと音楽、ソーシャルで「O2O2O」実現
Share a Coke and a Songは、1957年から2013年までの年を記した「コカ・コーラ ゼロ」の限定ボトルを起点にしたキャンペーンだ。ラベルに書かれた9ケタのコードを専用Webサイトで入力すると、その年のヒットソングなど10曲で構成されたプレイリストをフル楽曲で聴くことができる。プレイリストをソーシャルメディアでシェアすると、シェアされた友人も楽曲を試聴できるという流れだ。
コーラボトルというオフラインの「オウンドメディア」で消費者に認知・購入してもらい、オンラインサービスに誘導。オンライン上でシェアしてもらって拡散し、それを見た人にコーラボトルに興味を持ってもらい、さらなる購買につなげる。「オフラインtoオンラインtoオフライン」(O2O2O)が、このキャンペーン内で実現している。
コーラボトルの個性的なデザインがソーシャルメディアでの拡散を誘発した上、生まれ年や結婚した年など思い出深い年代の商品を購入してもらい、当時の流行歌を聞いてもらうことで“思い出語り”も誘った。消費者がキャンペーンを「自分ごと」として捉え、それがゆえに拡散してくれたのだ。「ネット以前はブランドがファンを作ってきたが、ソーシャルメディア時代はファンがファンをつくる仕掛けを展開していかなくては」と足立氏は言う。
消費者のつぶやきやコメントはリアルタイムにチェック・分析した。「ボトルに書かれている年代は賞味期限なのか? 古すぎて不安」といった声を拾い、Webサイトで「そうではない」と回答するなど、地道な取り組みも進めた。
企画を考える際は、まず自社メディアから
同社はマーケティング企画の際、まずオウンドメディアから考えることを徹底しているという。「メディア」というと、紙媒体やWebサイトなどをイメージしがち。だが、先述のイヤーボトルや、製品の製造・販売を行う全国のボトラー各社社員の制服、飲料の自動販売機など、視野を広げれば、様々な“オウンドメディア”があることが見えてくる。
中でも、全国に98万台展開している自動販売機は、リーチの大きいメディアだ。同社は自販機を使ったキャンペーンも当然展開している。例えば、自販機1台1台に名前を付けてキャラクター化し、自販機に張り付けたQRコードにアクセスすると、自販機のキャラが話しかけてきたり、お気に入りの自販機に名前を付けたり、といったことが可能な「ハピネスクエスト」というキャンペーンを展開している。これまでに45万人が参加したという。
デジタルマーケティングでも、まずはオウンドメディアである「Coca-Cola Park」(会員数1250万)などで何ができるかを考え、次にTwitterやmixi、Facebookなど自社で直接コントロールできる外部メディアを活用するという考え方を貫いている。その上で、マクドナルドやセブン-イレブンなどの提携先との協力を検討し、最後にWeb広告など、ペイドメディア活用を検討するという。
テレビや雑誌、新聞に大量の予算を投入していたマスメディア時代とは違い、さまざまなメディアを縦横無尽に組み合わせ、液体が浸透するかのようにキャンペーンをじわじわと拡散していく。同社は「リキッド&リンクド」(液体とリンク)という考え方をベースに、クロスメディアの取り組みを今後もグローバルで続けていくという。