「(ネスレのコーヒーブランドである)『ネスカフェ』の認知度はほぼ100%に近い。チョコレート菓子の『キットカット』も同様だ。では、ここから売り上げを伸ばすにはどうすればよいか。消費者コミュニケーションをマス広告中心からPRへシフトさせたところ、その効果が出始めている」
日経BP社が主催するマーケティング関連イベント「モバイル&ソーシャル WEEK 2013」の最終日。基調講演に登場したネスレ日本の石橋昌文チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)はこのように語り、「成熟市場でも、さらに売り上げと利益を伸ばせる」と訴えた。

取り組みの成果は、既に業績に表れている。2012年1~12月期のネスレグループのグローバルの売上高は約7兆8800億円で、為替や買収の影響を除いたオーガニックグロース(実質成長率)はプラス5.9%。営業利益率は15.2%になっている。地域別にみると、好調だったのはアジア・オセアニア地域。中でも日本(ネスレ日本)は営業利益が前年比25.1%増と好調で、ネスレグループの好業績の牽引役となった。アベノミクス効果が当然、現れていない2012年でこの実績、というのは見事な結果だ。
この好業績をリードしたブランドとして、石橋氏はチョコレート菓子「キットカット」とコーヒーメーカーの「ネスカフェバリスタ」を挙げた。
日本躍進の原点「キットカット」、オトナ味も好調
キットカットが「きっと勝つと」の語呂合わせで、受験シーズンに九州地方で「お守り」として売り上げが伸びていたことをヒントにした、受験生応援キャンペーンが十年来の定番企画となっていることはご存じだろう。
「宿泊するビジネスホテルでキットカットを受け取った受験生の体験やそのストーリーへの共感がニュース性を持ち、PRになる。消費者との新しいコミュニケーションの形ができた」と同施策の“仕掛け人”だった石橋氏は振り返る。
2010年に発売した、大人向けの甘みを抑えた「キットカット オトナの甘さ」も目下好調なようだ。同シリーズの抹茶味は、京都府から「PRパートナー」に任命された。京都や大阪で舞妓さんが試供品を配るなどして、クチコミを誘発するPR路線が定着している。
「若い世代に人気のオリジナルキットカットとのイメージ上の差別化に成功し、オトナ客をつかんだ新シリーズは既に第2の柱に育った。キットカットはチョコレート菓子の2012年の国内シェアでトップブランドになった」(石橋氏)。
躍進のもう一方の主役である「バリスタ」は、これまで同社が苦手としてきたオフィス需要の開拓が順調に進んでいる。家庭用インスタントコーヒーマシンとして累計販売台数が140万台に達している同商品を、国内600万オフィス・5400万人のオフィスワーカーに向けて拡販するという施策が当たった。
オフィス市場への浸透の役目を果たすのは、同社がネットで募集する「ネスカフェアンバサダー」。申込者にバリスタを無償提供し、詰め替え品を直販サイトから買ってもらうことで安定的な収益を得るモデルだ。自宅で愛飲していて職場にも置きたい、といったファンを中心に、「既に全国8万人を超える応募がある」(石橋氏)。営業部員の代わりにアンバサダーに働いてもらうことで、低コストかつ高効率を実現するイノベーティブな取り組みだ。同社は自社のWebサイトなどを通じて、詰め替え品の定期購入を利用するサービスなどを増やすことで、売り上げに占める直販比率を2割に高めたい考え。
石橋氏はネスレ日本のミッションについて、「持続可能かつ利益ある成長をもたらすビジネスイノベーションを、“ネスレモデル”として成熟先進国で実現すること」を挙げて講演を締めくくった。