誤解その2 LINE単体でROIは取れるのか?

 6月末~7月頭にかけて、夏のバーゲンセールが本格的にスタートした。百貨店各社にとって、年に2回の書き入れ時だ。各社は趣向を凝らして集客に取り組んでいる。

 そうした競争の中で、テレビCMの出稿量を減らして、その分の費用をLINEに回すという大胆な戦略を取っているのが、パルコだ。7月4日のセール開始に合わせて、LINEを活用した来店促進策を展開。セール開始後の最初の週末を終えた時点での売上高を、わずかながら前年より増加させた。

 同社は3月に、WEBコミュニケーション部という新組織を設置。従来は宣伝部が担っていたデジタルマーケティングの専門部署を作ることで、ソーシャルメディアなどを活用した集客施策を本格化させた。マス広告だけに頼ることに、限界を感じていたことが背景にある。

 「テレビCMをただ放送するだけでは不十分ではないか。消費者を直接来店に結びつける施策も展開すべきだ」。パルコ社内ではそんな機運が高まっていたという。そこで、WEBコミュニケーション部が旗振り役となり、集客策として、LINEの本格活用に乗り出した。

パルコは公式アカウントを各店舗のLINE@への集客に活用

 パルコがLINEの活用を始めたのは昨年12月のこと。月額5250円から利用できる中小企業向けマーケティングサービス「LINE@」を活用していた。LINE@は安価だが、公式アカウントと異なり、LINE側がユーザーに対して積極的にアカウントを告知してくれない。店頭で登録を呼びかけるなど、友だちを集めるための自助努力が必要となる。

 ただ、パルコは商業施設内のスペースを、アパレル企業などに貸し出すテナントビジネスが中心。入居店舗に、パルコのLINEアカウントを告知してもらうことは難しい。3月時点での友だち数は数百人にとどまっていた。だが、母数は少ないながらも来店促進策として効果につながるケースもあったという。

 3月に良品計画の協力を得て、「無印良品」ブランドの商品が全品10%割引となるクーポンをLINE@、Facebook、自社のメールマガジンでそれぞれ配信した。すると来店者数が、「10万人以上いる自社のメルマガをLINE@が上回る店舗があった」(WEBコミュニケーション部の會田夏美氏)のだ。

 手応えを感じたパルコは、ある挑戦をした。関東圏でのテレビCMの放送をあえてやめて、LINEの集客効果を分析するという試みだ。多種多様な施策を同時に展開すると、どの施策が効果的だったのか、分析しづらい。あえて、一部の地域でテレビCMの放送をやめることで、LINEの集客効果を精緻に分析しようとした。

LINE使って友だち獲得と、LINE@への登録を促す

 その下準備として5月に、LINE@を公式アカウントに昇格させた。翌6月には自社のキャラクター「パルコアラ」のスタンプを提供するなどして、友だち数を420万人超にまで増やしている。さらに、全国19店舗すべてで、LINE@を開設した。

 公式アカウントとスタンプで多数の友だちを獲得し、各店舗のLINE@への登録を促すメッセージを配信する。これは公式アカウントとLINE@が役割分担をして、それぞれが持つ“弱点”を補う優れた利用法と言える。

 まず、友だちが400万人を超える公式アカウントでLINE@を告知することで、短期間で友だち数が増えにくいLINE@の弱点を克服している。仙台店や福岡店は、開始からわずか1カ月でLINE@の友だち数の上限である1万人に達している。現状、LINE@の友だちの合計は18万人を超える。

 一方、公式アカウントの弱点は、地域や性別でターゲットを絞ってメッセージを配信できないこと。活用企業へのアンケート結果でも、「ターゲティング配信できない」ことを課題とする企業は28社中16社に上り、「利用金額が高い」の20社に次いで多かった。「メッセージから直接、自社サイトの会員登録画面に誘導できない」ことに課題を感じている企業も14社あった。

LINE公式アカウントをマーケティングに活用する上での課題

 LINE@は、これらの課題を補うために使える。LINE内での集客なら制限はないため、公式アカウントからLINE@への誘導は当然可能。また、各店舗のLINE@に登録する友だちは、その商圏内に住んでいる可能性が高い。地域ごとの情報については、各店舗のLINE@から配信することで、擬似的な地域限定のメッセージ配信を実現できる。

 「店頭でもらえるクーポンの引き換え率はLINE@の方が高い」(會田氏)など、成果を高めることにつながる知見も得られ始めた。

 パルコは5月、500円の割引券に引き換えられるクーポンを公式アカウントで配信した。もらえるのは先着6000人。28万人に配信したものの、店頭でクーポンを引き換えた人数は4400人にとどまった。

 一方、LINE@で全く同一のクーポンを7月4日に配信したところ、7日までには割引券を配り終えてしまったという。バーゲン時期と重なっていたため、単純比較はできないが、それでも「自分のよく行く店舗から配布される方が、来店動機になりやすいのでは」(WEBコミュニケーション部の島袋孝一氏)と判断している。

LINEからソーシャルメディアへ、誘導の“規制緩和”に注目

 このほかにも、今夏のバーゲンでは来店者限定のLINEスタンプを配布して、対象14店舗で2万3000人の来店につなげるなど、同社のLINE活用は大きな成果を上げている。だが、今後も公式アカウントとLINE@を併用するかについては「検討中」だという。

 ではどうするか。LINE@については、現在、WEBコミュニケーション部で一括運用しているが、9月からは各店舗に任せる予定だ。公式アカウントは、各店舗のLINE@の友だち獲得という役割を果たした後、効率性を考えて閉鎖することも選択肢としてはあり得るだろう。

 パルコから学べるのは、LINEの公式アカウントから、費用が安価なLINE@へ誘導して成果を上げていることだ。これまでLINE自身が外部への誘導を制限してきたため、活用企業も「LINE単体でROIを追求する」ことにこだわってきたが、今は必ずしも正しくない。これが2つ目の誤解である。

 現在、LINEは他のソーシャルメディアへの誘導規制を緩和している。誘導先はLINE@だけでなく、Facebook、Twitterなども候補となる。また、会員サイトの登録画面への直接誘導は禁止されているが、「4月からはトライアルで、月4回メッセージを配信した場合、うち1回は自社のEC(電子商取引)サイトへ誘導することを許可している」とLINEの出澤剛取締役は明かす。

 こうした規制緩和に着目して、LINEの公式アカウントとスタンプが持つ動員力を、他のソーシャルメディアや会員サイトの登録獲得に活用する。それでこそ、LINEの持つ潜在能力を十分に生かせるはずだ。

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