
消費者は移り気だ。コンビニエンスストアの棚では、目新しい新商品から売れていく。商業施設なら、“旬”なところには人が押し寄せるが、時が経てば波が引くように客足は遠のく。
開業から14年目を迎えた東京都町田市の「グランベリーモール」は、相対的な集客力の低下という厳しい現実に頭を悩ませてきた。
打開策として同モールが選んだのはスマートフォンを利用したO2O(オンラインtoオフライン)施策だ。
KDDI、大日本印刷、三井物産らが主導する実証実験に参加して、5月から6月末にかけて実施した。同モールでは「一定の手応えがあった」(東急モールズデベロップメントグランベリーモールマネージメントオフィスの佐藤和弘総支配人)として、今後は実験ではなく独自施策として取り組みたい意向だ。
ユニクロや良品計画、マクドナルドといった単一業態チェーンが先行しているイメージが強いO2Oだが、今後は様々な店が寄り集まるモール業態にも広がっていくのかもしれない。
顧客が今いる場所に合わせてクーポンを配信
アプリにクーポンを配信し、消費者を店舗に呼び込む─。同モールの取り組みは、この点では現在主流のO2Oと変わらない。特徴的なのは8万6000平米という広大な敷地を4つのゾーンに分け、消費者がどこにいるかを無線LANを使って特定すること。その上で、各ゾーンにある店舗のクーポンを配信する。消費者が移動してゾーンが変われば、また新たなクーポンが配信される。
こうした仕組みにすることで、顧客がモールをどのように移動しているのか、複数店を訪れる「買いまわり」を喚起し、購買単価を引き上げられるかといった点を確かめようとした。
結果はどうだったか。「まだデータを整理しているところ」と前置きしつつ、三井物産次世代・機能推進本部ITイノベーション第二部事業開発第三室の合田祐三ビジネスデベロップメントマネージャーは、実験の成果について次のように語る。「実験期間中のアプリ利用者の来店頻度は全体平均の2.9倍だった。アプリのアクティブユーザー率は想定の6倍になっている」。
この施策が本当に効果的だったのか。現状分かっているデータだけでは判断するのは、なかなか難しい。まず、来店頻度については、わざわざアプリをダウンロードするくらいだから、利用者は元々モールへのロイヤルティが高かった可能性がある。
アクティブユーザー率も想定した値の妥当性が問題になる。同モールが「(アプリ利用を促進するため)店舗には、できるだけお得なクーポンにしてほしいとお願いした」(佐藤氏)ことも結果に少なからず影響していよう。
課題は残るが、グランベリーモールは、この仕組みを継続利用する意向を固めているようだ。狙いの1つは、千葉県の「酒々井プレミアム・アウトレット」など集客力に優るライバルモールに対する差別化の切り札とすること。もう1つは、東急グループの戦略変更で廃止になったハウスカードに代わるCRM(顧客関係管理)の基盤とすること。
元々、集客力のある企業だけでなく、集客に課題を抱える企業にも普及してこそO2Oは、地に足の着いたものとなる――。施策の進化とは、そういうものではないだろうか。