「異業種最強タッグ」──。ヤフーの宮坂学社長は、昨年実現したアスクルとの業務・資本提携について、メディアなどで話す際、こんな表現をよく使う。この組み合わせが最強かどうかはさておき、この異業種2社が共同で昨年10月15日に立ち上げた個人向けの日用品EC(電子商取引)サイト、それが「LOHACO(ロハコ)」である。

 ヤフーの持つ強力なネット集客力。そして、アスクルのオフィス向け通販事業を支える物流網やメーカーとの濃密な関係性。2社が持つ「強み」を掛け合わせれば、この新しいEC事業を「爆速」で成長させられるはず。同事業に2社が抱いた期待は大きかった。例えばアスクルは、ロハコの立ち上げ時期が未定だった2012年度の期初に早くも、同年度のロハコの売上高見通しを180億円とし、黒字化までも達成するという野心的な目標を掲げていた。

アスクルとヤフーが開設した「LOHACO(ロハコ)」

 ところが、である。期が締まってみれば、異業種タッグの結果は極めて厳しいものに終わった。7月3日、アスクルが発表した2013年5月期決算によれば、ロハコの売上高は21億円にとどまり、13億円の営業赤字となった。

 ロハコを統括するアスクルの吉岡晃取締役BtoCカンパニーCOO(最高執行責任者)は、新事業が不調に終わったことに関し、反省の弁を述べる。

 「まずスマートフォン向けサイトをオープンしたが、パソコン向けサイトの開設が11月20日と1カ月ほどずれ込んだことが痛かった。個人客向け商材の品ぞろえが手薄だったことなども響いたのではないか」

 様々な理由、事情はあるだろうが、実績との差が160億円では上場企業の見通しとして甘すぎだ、とのそしりは免れまい。2社とも12年度決算は好調だったものの、この大型提携話に期待を寄せた株主の多くは、首をかしげているのではないか。

 では、難題克服への道は見えているのか。アスクルはロハコの課題として、(1)集客、(2)品ぞろえ、(3)価格、そして(4)決済の4つを挙げる。それぞれに対策を立てていくとしているが、ここでは1つのユニークな挽回策に注目したい。それは事務用品通販で築いた100万事業所以上という顧客基盤を生かしたデジタルマーケティング施策である。

既に持つ顧客基盤をBtoC事業に応用へ

 アスクルが取引する100万事業所というのは「国内の法人の3分の1に相当する規模」(吉岡氏)だという。これがBtoB(法人向け)事業拡大の原動力の1つであり、その強みを個人向けであるロハコにも生かす。そのために活用するのが「アスクルスイートポイント」という独自ポイントプログラムだ。

 ロハコ開設後にリニューアルし、ロハコでの購入者にもアスクルからポイントを付与できるように工夫をした。その詳細を順を追って説明しよう。

 このプログラムは、事務用品などの月間購入金額に応じて、100円に付き1ポイントを購入元の会社宛に発行するもの。さらに半年ごとの購入金額に応じて、翌半年間に付与するポイントの倍率を変えており、ヘビーユーザーを優遇して法人顧客のLTV(顧客生涯価値)を高める施策でもある。

 たまったポイントはアスクルのサイト経由で、お菓子や雑貨といった120種類以上の商品に交換できる。顧客からもなかなか評判がよいポイントプログラムだという。

 興味深いのは、スイートポイントは会社宛に発行するものとはいえ、実際に利用しているのは、必要な事務用品や飲料などを部署ごとにまとめて発注するアシスタント社員の場合が少なくないこと。そうした立場の社員が、ためたポイントを、自らの裁量でお菓子などと交換。それを部署の仲間で分け合うようなケースが多いようだ。

 アスクルはこのプログラムを、発注担当者の周囲にいる同僚らが、ロハコを使って自分用の日用品などを購入した場合にも、会社(=発注担当者)にポイントが付与されるように変えた。狙いはもちろんロハコへの集客だ。

 ポイントが付与されるための条件として、同僚らがロハコで商品を購入する際に、アスクルが取引先の会社や部署ごとに発行している「アスクル問い合わせ番号」をロハコの決済画面で入力することを求めている。ちなみに、ロハコで商品を購入した本人には、購入金額の1%分のTポイントがたまる。

 このプログラムを、発注担当者の立場で見れば、周囲の同僚らがロハコを使えば使うほど、自分が使えるスイートポイントがたまる。それがインセンティブとなり、発注担当者が自発的に周囲へロハコの利用を勧めてくれることもあるだろう。その流れで、事務用品通販で取引している企業の社員らを、ロハコへと送客する。これがアスクルの描く戦略である。

 吉岡氏は言う。「当社が取引させていただいている100万事業所の発注担当者は、普段からアスクルを使っていただいている。当社商品の品質、価格、配送の便利さをよくご存知だ。そうした人に(個人でも購入できる)ロハコというサイトができたことを、まず認知してもらう。さらにポイントをきっかけに、周囲の人へのPR役にもなっていただきたいと考えた」。

アンバサダーが妬まれない仕組み

 消費者を自社のファンにして、そのファンに自社の商品やサービスを周囲に宣伝してもらったり、購入を勧めてもらったりする仕組み。アスクルが力を注ぐ、このポイントプログラムは、「アンバサダー」と呼ばれるクチコミマーケティングの新手法の一種であり、BtoBの特性に合うように工夫したものだと言える。

アスクル会員という資産の活用で、ロハコの利用者拡大を目指す

 既にアンバサダーは、ネスレ日本やアサヒビール、日本ケンタッキー・フライド・チキンといったマーケティングに定評がある企業が取り組んでいる。トヨタ自動車も秋ごろをメドに開始を予定するなど、注目度が上がっている手法だ。

 ただ導入を検討している企業などからは、アンバサダーをどうやって見つけるか、どのようなインセンティブを設定したらよいか、判断が難しいとの声も聞こえる。例えば、インセンティブが魅力的過ぎると、アンバサダーが周囲に購入を無理強いする、といった懸念も無いとは言えない。

 アスクルのようにEC事業を展開していれば、アンバサダーは見つける必要すらない。ポイントを介して交換する商品をお菓子などにしているのは、同僚と分けやすいように、との配慮も働いている。これならアンバサダー本人も周囲に利用を勧めやすい。同僚がアンバサダーを“妬む”ケースも少ないだろう。これらの特徴は、導入を検討している企業にとっても参考になるのではなかろうか。

 こうしたユニークな施策も進めつつ、アスクルは2014年5月期、ロハコの売上高100億円という新たな目標に挑む。ヤフーとのタッグは本当に最強か。試される1年になる。