1117円、1131円、1197円、1213円、1260円…。これは第一三共ヘルスケアのH2ブロッカー胃腸薬「ガスター10 S錠(12錠)」を価格比較サイト「価格.com」で検索して、「価格の安い順」に表示した結果である(7月8日時点)。ちなみに希望小売価格は1659円(税込)。

 今年1月に最高裁判決で一般用医薬品(大衆薬)第1類・第2類のネット販売を禁じた厚生労働省の省令が違法と認定され、6月14日に閣議決定した成長戦略で政府は、処方薬から大衆薬に移行して間もない医薬品など第1類の25品目を除いた医薬品約1万1400品目のネット販売解禁を打ち出した。これを受けてまず中小規模の小売事業者が先行してネット販売に乗り出し、すでに価格競争が始まっている。

 ドラッグストアの業界団体である日本チェーンドラッグストア協会も閣議決定と同日、ネット販売の自粛要請を解除した。マツモトキヨシは自社EC(電子商取引)サイト「e!マツモトキヨシ」で、サンドラッグは楽天市場に出店している「サンドラッグe-shop」で第2類医薬品の販売を一部始めている。

 業界にとってネット販売の解禁は、販売ルートの拡大である一方、参入障壁の低下によって、収益源だった大衆薬で価格競争の激化を招く恐れがある。利幅の取れる大衆薬で得た利益を日用品や食品、化粧品などの値引き原資に回して出店を加速してきた業界にとって、安穏とはしていられない事態だ。

 ではドラッグストア各社は、安売り攻勢を仕掛けてくるEC専業事業者をどのように迎え撃つのか。

手に取るように買えるEC目指すウエルシア

 埼玉県北足立郡伊奈町にあるウエルシア伊奈栄店の2階事務所では時折、スマートフォン内蔵カメラのシャッター音が鳴り響く。ここは全国840店舗を展開するウエルシアホールディングスのECサイト「ウエルシアドットコム」の配送拠点であり、運営子会社のウエルシアプラスが入居している。

スマホでパッケージ写真を撮影するウエルシアプラスの和田大作社長

 スマホで撮影しているのは医薬品のパッケージ写真だ。独自開発したアプリ「Codein」を起動し、まずパッケージに印字された13桁のJANコードをスキャン。続いてパッケージの表面、裏面、側面など用法・容量や効能、使用上の注意などが書かれている面を撮影していく。するとJANコード名でフォルダが作成されてそこに撮影画像が保管され、ワンタッチでクラウドデータ補完サービス「Googleドライブ」に転送、さらに通販サイト上の商品ページへとアップロードが可能になる。

医薬品の裏面、側面の記載内容が手に取ったように読める

 利用者が各医薬品のページで「商品をリアル画像で見る」をクリックすると、プレビュー画面が開き、マウスオーバーさせると拡大画像が表示される。同社の和田大作社長は、「医薬品を購入する際、多くのお客様はパッケージに記されている成分や説明を見て判断される。商品パッケージを隅々までお見せすることで、購入を促すことができるのではないか」と語る。

 狙いは、商品を手に取ったように見られることによる“安心感”の醸成だ。パッケージには、効果・効能をイラストで図説したものなどメーカー側の工夫が凝らされている。それを丸ごと見せることで、他社との差異化を図る。

 開発したアプリは、業務改善にも貢献している。パッケージ画面をデジタルカメラで撮影する場合、その管理には大変手間がかかり、誤った画像をアップする事故も起きかねない。それがアプリを利用することでJANコードと撮影画像のファイル名が一体化し、公開までの作業がスムーズになった。和田社長は「作業効率は数倍はアップした」という。このアプリは実用新案特許を出願中。同様に商品写真をたくさん撮影・掲載する異業種のECサイトにも外販する考えだ。

ココカラファインは店舗とECの会員情報を統合

 「薬のセイジョー」「ドラッグセガミ」「ジップドラッグ」「ライフォート」「スズラン薬局」…。いずれかの店舗が近所にあるという人は多いことだろう。2008年にまずセイジョーとセガミメディクスが経営統合。以後も合併を重ね、今年4月に各ブランドで展開してきたドラッグストアチェーン6社が新ブランドに統合したのがココカラファインだ。傘下のチェーン店舗数は全国約1300店に上る。同社もネット販売解禁をにらんだ対策を進めてきた。

ココカラファインは、実店舗とECの会員データを統合

 2006年からセイジョーブランドでEC事業を手がけ、同じシステムを使って各ブランドのECを立ち上げてきた同グループは今春、ECブランドを「ココカラファイン.ネット」に統一。そしてこの7月から、新たなシステムが稼動を始めた。実店舗とECサイトの会員データ・ポイント情報の統合である。

 このプロジェクトをリードしたのは、今年2月に設立されたEC事業を担う子会社ココカラファインOEC(横浜市港北区)。OECとは、おもてなし(O)を競争戦略にしたEC事業を意味する。

 これまでは、ココカラファイングループの実店舗で湿布を買ったAさんが、帰宅後にサプリメントの買い忘れに気づいてECサイトで購入した場合、同社はこの2点の買い物がAさんであることを把握できなかった。実店舗とECサイトで連携が取れていなかったためだ。そこでココカラクラブカードを発行し、実店舗とECが各々管理していた会員情報とポイントデータを統合。構築は、ECやO2O(オンライン to オフライン)ソリューションを手がけるエスキュービズム(東京都港区)が担当した。

 会員番号などを会員向けマイページ「ココカラクラブ」で登録すると、同一人物の実店舗とECサイトの購入履歴やポイントが一体化する。実店舗で獲得したポイントをECサイトでも使える(逆も可)ようになった。価格比較をして他社のECサイトの方が幾分安かったとしても、近所の店舗で使えるポイントが得られるとなれば、なじみのある同社ECサイトで購入してくれる可能性は高まる。

 店舗とECサイトのシームレスな体制は整った。では今後どのようなおもてなしが可能になるのか。ココカラファインOECの郡司昇社長は次のように説明する。

 「たとえば腎臓を患っている患者さんにはたんぱく質を摂りすぎないように薬剤師がアドバイスする場面があるが、これまでは注意だけにとどまっているケースが多かった。低たんぱくご飯は商品化されているが、あまり売れず消費期限もあるため、店舗には置きにくかった。そうした商品をECサイトで品揃えし、薬剤師からECで購入できることを伝えてもらえれば、店舗とECサイトの相互補完ができるのではないか」

 自身が薬剤師でもある郡司社長ならではのおもてなしの発想だ。「購入履歴は安全・安心のために役立てたい。成分が重複する酔い止め薬や睡眠補助剤、鼻炎薬を購入する場合、注意を促すようなことができたらと思う」。顧客をつなぎとめ、価格競争の消耗戦から脱却するには、こうした安心・信頼感の醸成が必要になりそうだ。

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