日本ロレアルが7月10日開設したヘアケア製品「ケラスターゼ」ブランドの直販サイト

 著名人のブログやTwitterに商品が好意的に取り上げられ、ネットでクチコミが拡散する。マーケティングの観点からは歓迎すべきと映るこんな事態が、かえって商品のブランド価値を損ねることがある。

 日本ロレアルが7月10日、ヘアケア製品「ケラスターゼ」ブランドの直販サイトをオープンしたのは、クチコミ拡散によってかえって毀損されたブランド価値を取り戻すためだ。オフラインで育ててきた老舗ブランドを、いかにネット時代に適合させるか。挑戦が続いている。

クチコミが増えても…、トップシェアブランドの悩み

 ケラスターゼは、ヘアサロン専売商品のブランドとして1990年に国内で販売を開始。髪質や頭皮の状態に応じ、「ニュートリティブ」「リフレクション」など12のブランドライン、約60の商品をそろえている。製品1本当たりの価格帯は2000円~5000円程度とヘアケア製品としてはハイエンドに位置する。

 サロン専売商品市場におけるシェアは35%とトップ。芸能人やモデルなどにファンが多く、中川翔子さんやローラさんがブログやTwitterで紹介するなど、人気芸能人やモデルを発端にネットでクチコミが広がっている。

 クチコミ量は数字にも表れている。同社が昨年、Twitterとブログでのヘアケアブランド頻出率を調査会社に依頼して調べたところ、ケラスターゼは、「パンテーン」(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン)、「ロクシタン」(ロクシタンジャポン)に次ぐ3位。4位は「いち髪」(クラシエ)、5位は「メリット」(花王)となっており、トップ5のうち、サロン専売商品はケラスターゼだけだ。

 ネットでクチコミが広がり、商品に興味を持つ人が増えることは歓迎すべきことに映る。だがケラスターゼの場合はそう単純ではない。

バズが盛り上がるほど、ブランド価値が低下する

 サロン専売のケラスターゼは本来、ネット通販では買えない商品だが、ネットで人気が高まるにつれて非公式の通販が増加。海外からの並行輸入品のほか、サロンが通販サイトなどに“横流し”した商品が「楽天市場」などに並んでおり、「激安」などハイブランドにふさわしくない宣伝文句で売られたり、偽物商品が流通したりするケースもある。

 ネットで購入する人が増えるにつれ、レビューサイト「@cosme」での評価が下がるという事態も起きている。ケラスターゼは本来、ヘアサロンでスタイリストが顧客の髪質や頭皮の状態をチェックした上で、個々人に合う製品を薦め、購入してもらう商品だ。しかし、ヘアサロンで髪診断を受けることなくネットで購入した人の中には、自分の髪質に合わない商品に当たって不満を募らせ、悪評を書き込むケースがあるという。

 日本ロレアルが、楽天市場でケラスターゼを購入した人を対象に実施したアンケート調査で、「ケラスターゼは美容院でしか販売していない製品と知らなかった」と答えた人は70%以上。その割合は年々増えており、比例して@cosmeのレビュー点数が下がり続けているという。

 「Webで知ってWebで買う、Web上のみのケラスターゼユーザーが増え、ブランドが“摩耗”しているのを感じる」と、同社セレクティヴ事業部eビジネスプロジェクトマネージャーの笠井佑子氏は悩みを明かす。ネットでのクチコミが盛り上がるほど、ブランドイメージや流通チャネルのコントロールが難しくなり、同社が意図しないルートで購入・使用する人が増加。結果としてブランド価値が低減してしまうという課題に、同社は直面している。

非公式ネット通販利用者は、ロイヤルカスタマー候補

 直販サイトをオープンしたのは、低下してしまったブランド価値を回復、向上させるためだ。サイトでは、購入前に髪質や頭皮についての診断テストを提供。診断した上で個々人に合った商品を購入してもらえるようにし、髪質に合わない商品を購入することによる悪評を防ぐ。また、商品が本来、サロン専用であることも伝え、購入者の近所のケラスターゼ取り扱いサロンを紹介するなどしてサロンへの集客につなげる。

 通販で購入した顧客がサロンを訪問すると、特典がもらえるキャンペーンも実施する。購入者がサロンに行き、ケラスターゼを使ったトリートメントを受けると、プレゼント応募ハガキがもらえ、そのハガキを同社に送り返すと購入特典が得られるという流れだ。ネット直販を契機に店舗へ誘導するO2O(オンライン to オフライン)施策となる。

 ネット直販を始めることは、サロン専売という看板を下ろすことにもつながるが、「ネットで購入したいという流れは止められない」と笠井氏。非公式な通販で購入している人は美容感度が高く、美容にかける金額も大きい人々。ケラスターゼがサロン専売と知り、サロンで自分に合った商品を薦めてもらえれば、定期的にサロンに通ってトリートメントを受けたり商品を購入したりしてくれるロイヤルカスタマーになる可能性が高いとみる。

直販サイト開設まで2年…、時間がかかった理由

 直販サイト開設を企画してから実現までに、2年ほどかかったという。時間がかかった理由は、サロンオーナーからの反発だ。サロン専用ブランドだった商品をメーカーが直販するという事実は、メーカーがサロンから顧客や利益を奪おうとしているようにも映る。

 サロンにとってヘアケア製品の販売は利幅の大きい事業だ。髪を切りパーマをかけるといった業務には熟練した技術が必要だが、トリートメントや商品販売は技術が未熟なアシスタントでも可能。ここ数年、パーマやカラー薬剤の質の向上などで、一般の人がサロンに通う平均回数が減少を続けており、サロン経営における商品販売の重みは増しているという。

 これまでケラスターゼを顧客に薦め、売ってきてくれたのはサロンオーナーとスタッフたち。同社もサロンの利益を圧迫することを望んでいるわけではない。かといってこのままネット直販をしないでいると、ネット購入を望む顧客のニーズに応えられず、ネットで手に入りやすいほかのブランドへのスイッチも起きてしまう。直販サイト開設は、同社にとって苦肉の策でもある。

 ケラスターゼ取り扱いサロンのオーナー世代にはネットに慣れていない人が多く、サロンスタッフの平均ネットリテラシーがそれほど高くないことも、ネット直販やO2O施策への理解を得るための障害になった。直販サイト開設は、消費者ニーズに対応し、ほかの商品へのスイッチを防ぐためで、サロンへの集客にもつなげていく──。粘り強くそう説得し、サイトオープンにこぎつけた。

 直販サイトの開設で、サロン経由を含めたケラスターゼブランド全体の売り上げを10%向上させるのが目標。今後もサロンオーナーやスタッフのリテラシー教育を進めながら、これまで培ったブランドをネット上で維持・向上させていくという難しい課題に取り組んでいく。