近畿日本ツーリスト個人旅行(東京都墨田区)は8月1日をメドに公式Facebookページ「近畿日本ツーリスト(海外旅行)」の運営方針を全面的に見直す計画を進めている。これまで同Facebookページでは海外の観光地情報や旅行商品など、海外旅行に関係する情報だけを発信してきた。国内旅行については公式Facebookページは設けておらず、支店や地域販売会社などが個々に作成し情報を発信している。これを改めて、現在のFacebookページで国内、海外を問わず旅行情報を幅広く発信する形にする。
海外情報の発信や拡散を狙いとするメディアから、国内も含めた旅行商品のネット販売や支店への集客に結びつけるメディアへと位置づけを変えて、全社的な売り上げに貢献できるツールへ。同社Facebookページの役割は大きく変わる。同時に、Facebookページの運用担当者も増員する予定であり、運営費用を増やしてでも成果を拡大させようという意気込みがうかがえる。
目的はあいまいながらファン数は増加

近畿日本ツーリストがFacebookページを開設したのは2012年1月のこと。それから3カ月でファン数が10万人を突破した。その後も、診断系アプリなどを相次いで投入したことなどにより、開設から1年の今年1月15日にファン数が50万人を超えた。現在は約56万人となっている。これはファン数が約22万人のエイチ・アイ・エス(HIS)、約10万3000人のJTBなどを大きく上回る規模である。
国内の旅行代理店としてファン数で最多になったものの、ここまでの道のりが順調だったわけではない。投稿の内容などに関しては試行錯誤を続けてきた。
昨年までのFacebookページへの投稿は、海外の人気観光地の写真とその案内文を載せるといったシンプルなものが多く、「いいね!」やコメント、シェアはそれほど集まっていなかった。
どんな投稿をすれば消費者からの反応が良くなるのか。なかなか確信は得られなかったという。「Facebookページ開設の目的があまり明確でなかったことが、(エンゲージメントが高まらなかったことに)少なからず影響したのではないか」。Facebookページの運用を統括している、旅行事業本部eビジネス事業部の大野拓也課長は、そう振り返る。
「当社のFacebookページは、『近畿日本ツーリスト』という企業ブランドを消費者に認知してもらうことが目的なのか、あるいは、旅行商品ページなどへ誘導して、売り上げにつなげるためのものなのか。その点があいまいだった。Facebookページを開設し、それなりのファン数を得たが、そもそも何のために設けているのかについて、社内で意思統一できていたとは言えなかった」(大野氏)。
そんな状態から脱する道が見えてきたのは、今年に入ってからだ。1月から各地の営業所勤務の社員に、自らが写った写真とともに、海外の観光地などについてのミニレポートを投稿してもらうようにしたことがきっかけだ。
営業所の社員が自身の写真などを含めて公開するスタイルの投稿には、「◯×営業所の◯×です」などと、店舗名と名前を記載しているものが多い。写真も、海外でくつろいでいるように見えるものが多いこともあり、個人アカウントの記事のようにも映る。そうした要素があるために、単なる観光地案内よりも消費者が興味関心を持ちやすくなった面があるのだろう。

週に1回ほどと頻度は多くないものの、このスタイルの投稿を始めて以降、1つの投稿に対して数千件のいいね!が付くことが珍しくなくなった。中には、いいね!が2万件近く付いた投稿もある。消費者とのエンゲージメントを測る上で重要な、シェアやコメント数も大きく伸びている。
旅行販売がリアル店舗からネット経由にシフトする中、店舗運営は重荷になり収益における「弱み」となりかねない。一方で、社員が持つ観光地の知識や接客経験は顧客とのコミュニケーションでネット専業にはない「強み」となる。そうした強みがFacebookページ運営に生かされ始めた。
近畿日本ツーリストが公式Facebookページで発信する情報に国内旅行も加えて、人員を追加する方針を固めたのは、店舗スタッフが発信する情報によって同ページが安定的にエンゲージメントが期待できる状況になったからだ。
同社はこの強みをネット販売にも生かそうとしている。Webサイトで旅行商品の検索や予約をして、代金の支払いや航空券の受け取りは近くの店舗でするという「ネット予約・店舗支払い」策の拡大である。
ネット専業にはまねできない売り方
ネット予約・店舗支払いは、全てをネットで済ませる買い方に比べて面倒に見える。選ぶ人など、わずかだと思われるかもしれないが、そうではない。この買い方に対する消費者のニーズは高い。ネット専業のライバルにはまねできず、業界各社の関心も高まっているという。
「普段は旅行の予約をネットで済ませているような人でも、買い物や食事をするならどの場所や店が良いのかといったことを、人に聞けるものなら聞きたいと考えている人は結構多い。訪問先が初めて行く国なら、なおさらだ。店舗支払い型なら、代金を支払う際などに、(店舗のスタッフという)プロから思う存分、納得するまで話を聞くことができる」(マーケティング部の月岡悟課長)。
実は、この方法、店側にとっても少なからぬメリットがある。消費者が店を訪れた際に、予約した旅行商品に関連したオプショナルツアーや海外旅行保険などを、時間をかけて説明したり、宿泊するホテルの部屋のグレードを上げることを勧めたり、といったことが可能になるからだ。
「ネット販売では、旅行商品を料金が安い順にソートするといったことが簡単にできてしまう。そのため、どうしても総額が安い商品から売れる傾向にある。その結果、ネット販売と店舗販売とでは、平均の客単価が3万~4万円も違っている。ネット予約・店舗支払いなら、ネットで予約したお客様の単価を、店舗販売に近づけられる可能性が出てくる」(月岡氏)。
今年1月から営業所などの社員がFacebookページに、顔写真や名前、営業所名などを記載した上で投稿するようになったのは、このネット予約・店舗支払いによる商品販売額を、より増やすための布石という意味もあった。
その事情について月岡氏は、次のように説明する。
「このところ当社が進めてきた店舗網の見直しによって、駅前や繁華街に立地していた大型店を減らし、その代わりに郊外のショッピングセンター内に小型の店舗を設ける、といったケースが増えている。このため消費者が当社の店を“見かける機会”が少なくなっている。残念ながら『近畿日本ツーリスト』という企業ブランドの認知度も、同業大手より良いとは言えない傾向にある。そこでFacebookページを通じて当社に興味関心を持っていただいている消費者に、営業所の社員などの投稿を通じて、『自宅や勤務先の近くにも(近畿日本ツーリストの)店があったんだな』などと気がついていただきたいと考えた」
ネット予約・店舗支払いは、海外旅行商品について6月に開始したばかり。それでも「開始初日に全体の10%が店舗支払いを選択するなど、想像以上の割合。今後、さらに増える可能性もあるだろう」(大野氏)。国内旅行商品についても、8月に予定するFacebookページの海外、国内の統合を終えた後、早い時期に開始したいという。