ライオンが創業120周年を迎えた2年前(2011年)の10月、同社は新経営ビジョン「Vision2020」をまとめ、「国内事業の質的成長」「海外事業の量的成長」に次ぐ3番目の戦略として「新しいビジネス価値の開発」を挙げていた。この中核をなすのが健康食品のダイレクトマーケティング(通販)事業であり、初動の3年に当たる2012~2014年の中期経営計画「V-1計画」では、「(ダイレクトマーケティング事業を)2014年に100億円規模に育成する」としていた。Vision2020を打ち出す前年(2010年)、同事業の売上高は40億円に満たない規模だった。

 ではその後どうなったか。2011年は前年比6割超増の62億円、2012年も同約6割増の97億円に達し、なんと2年前倒しでほぼ100億円の水準に到達する急成長ぶりを見せた。主力商品は、乳由来多機能たんぱく質を配合したサプリメント「ラクトフェリン」。同商品の購入者数数は昨年秋、累計で100万人を突破した。

購入者が100万人超えても浮かぬ表情

 だが同社通販事業部事業企画統括リーダーの浜田勝俊氏の表情に笑顔はなかった。「昨年の前半は、前年比倍増の年商120億円も夢ではないペースで伸びていた。ところが後半から伸びが鈍化し、100億円にギリギリ届かなかった」(浜田氏)。

バナー広告の効果が短命化の傾向

 健康食品事業で新規顧客の強力な開拓ツールになっているのが、ポータルサイトなどに出稿しているバナー広告だ。ラクトフェリンの場合、“お腹ぽっこり”が気になる中高年に向けて、「スッキリ」をアピールする広告クリエイティブで興味を引き、同社のECサイト「LION ウェルネスダイレクト」へと誘導する。

 様々な絵柄とキャッチコピーを組み合わせて反応の良いクリエイティブを使用しているが、「昨年後半から、広告効果が落ちるまで3~4週間だったサイクルが1~2週間に短命化する傾向にある」(浜田氏)。そこでバナー広告の種類を増やして、効果が落ちたらすぐに切り替えることでCPA(顧客獲得単価)が上昇しないように制御しているという。

 原因はいくつか考えられる。1つは競争の激化。ラクトフェリンを配合したサプリメントは森永乳業やDHC(東京都港区)、森下仁丹などが扱っているほか、この5月からは「セサミン」で知られる業界大手のサントリーウエルネス(東京都港区)も、ラクトフェリンを主成分とする「ラクテクト」の販売を開始した。一方でサプリ服用前後のいわゆる「ビフォーvsアフター」の誇大広告表現に対する規制が厳しくなっている。そんな中で効果のあるバナーは他社もまねてくる。

 2つ目として“スマホシフト”。同社商品の主力購入層は40~60代だが、それでもこの1年でスマホ経由のアクセスが急伸し、現在は約25%に達している。半面、パソコンは7割程度にまで減った。ヤフーをはじめとするポータルからバナー広告で新規客を刈り取ってきた同社としては、「ユーザーの大半が見ている媒体がないスマホからの獲得はパソコンに比べると難しい」(浜田氏)。

 3つ目として、検索ポータルからの流入の鈍化。これはネット利用の動向として、ソーシャルメディア上での滞在時間が相対的に増えていることに起因している。一方で競合は増えているため検索連動型広告の効果は伸び悩み気味なのに、単価は高止まりしている。

 これまでと同じバナー広告依存ではいずれ立ち行かなくなると危機意識を持つ浜田氏は、対策を考案中だ。

「LION ウェルネスダイレクト」のWebサイト

 現在注力しているのが、既存顧客のつなぎとめとクロスセルだ。(サプリメント摂取の)「効果が感じられない」ことを理由にやめていく顧客の引き留めは難しいものの、一方で摂取が習慣づかずに定期宅配コースの解約を申し出る顧客もいる。効果が感じられれば継続する可能性があるため、習慣づけをサポートしようと、モバイルで摂取日を記録できるサービス「ライオンちゃん応援カレンダー」を提供。「登録するだけで壁紙がもらえる」といったインセンティブを付けて告知を強化している。

Facebookページに注力し継続購入を増やす

 クロスセルは、サプリ購入時のアンケートで例えば「血圧が気になる」という項目にチェックした購入者に、血圧が高めの人向けの商品「トマト酢生活」をメール、DM、営業電話で案内するといった具合だ。同社の商品ラインアップは全8アイテムと少ないが、生活習慣病を意識した商品構成のため提案しやすく、複数購入者が増えているという。

 今後はFacebookページに力を入れていく方針だ。Facebookページ「LIONウェルネスダイレクト」のファン数は現在約1万4000人。購入時のメールなどでFacebookページを告知し、「おなかポッコリ解消レシピ」や「健康づくりのための運動レシピ」を中心に健康豆知識を配信することで、末永くリピート購入してもらい、また別商品に関心を持つきっかけを作るのが狙いだ。Facebookページは、スマホ経由のアクセス比率が(ECサイトよりも)さらに高く、また主顧客層である中高年女性向けのコンテンツにもなっているため、顧客とつながるプラットフォームとして活用していく。「ゆくゆくは(ECサイトへFacebookのIDを使ってログインできるようにする)ソーシャルログイン機能を実装して、Facebookから簡単に購入できるようにしたい」と浜田氏は先手を打っていく考えだ。

 テレビ通販番組内のCMでもテコ入れを進めている。今年から同社の濱逸夫社長とタレントの渡辺徹・榊原郁恵夫妻が対談するCMを投入し、自らも開発者だった社長の言葉でライオンブランドの安心感と商品にかける思いを語る内容にした。スマホ片手に“ながら見”している視聴者の関心をいかに引き付けてECサイトに誘導できるかが、今後の成長のカギになりそうだ。

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