■【特集】スマートCRM最前線――「顧客に伝える」より「顧客を知る」ことこそスマホの価値
前編 会員カードをスマホアプリ化、購買履歴に応じたクーポンを配信する良品計画
中編 スターバックスが個別“クーポン”配信へ、「STARBUCKS e-Ticket」を開始
後編 ユニクロのスマホアプリが大きく進化、店頭でバーコード読み取りネットで商品情報を確認


※この記事は、「【特集】スマートCRM最前線――「顧客に伝える」より「顧客を知る」ことこそスマホの価値(中編) スターバックスが個別“クーポン”配信へ、「STARBUCKS e-Ticket」を開始」の続きです。

ユニクロは店舗別の情報発信を開始

 大量集客モデルから顧客個々人に向けたサービスへと移行していく流れは、ユニクロも例外ではない。

 昨年4月から開始した「ユニクロモバイル」会員の登録者数が1000万人に達した6月4日、同社はスマートフォン向けアプリ「UNIQLO APP」に「バーコード読み取り機能」を追加することを発表した。店舗で気になった商品の値札に印字されているバーコードをスキャンすると、「ユニクロオンラインストア」の当該商品ページにその場でアクセスできるというもの。この6月中にも開始する予定だ。

 例えばこれからの季節定番のドライカノコ半袖ポロシャツのコードを読み込むと、「汗をかいてもすぐ乾き、サラリと快適な肌触りを保つ…」といった商品説明や、ユーザーからの評価コメントのほか、モデルが着用した写真やコーディネート提案を高精細なスマートフォン画面上で見ることができる。

店舗で選んでネットで購入

 来店客は、店頭では紹介しきれない多彩な情報にアクセスできるため、大いに購入を後押しすることになるだろう。また、店頭で気に入った色がなかった場合は、オンラインストアの在庫を確認して希望の色を購入するという、「店舗で検討してECで購入する」流れも加速するはずだ。

 スキャン件数が多い商品は、じっくり吟味するユーザーが多いことを表すため、そうした「売り上げの一歩手前」の情報は、店頭での配置やECの説明を充実させるなど、オン・オフ両面で“売り場”改善のヒントになる。

 同社は「スマートフォンを使って買い物が便利になる機能がほかにもまだないか。それを探して提供していきたい」として、「みんなでつくろう。ユニクロサービスアイディア大募集!」企画を6月4日に開始した。「デジタルやモバイルデバイスの特性を活かしていること」が募集するアイデアの条件となる。スマートCRMの第三段階となる、スマートフォンを活用した店頭接客の進化は今後も続きそうだ。

 一方、まだ実験段階だが、よく行く店舗を登録できる「マイストア」機能が既に搭載されていて、現在、東京・群馬の計17店舗が対応している。店舗登録すると、「MY NEWS」の「My Store News」タブで、登録した店舗スタッフからのお知らせが表示される。こちらはパーソナルな情報提供への第一歩となりそうだ。

 もっとも大量集客モデルをやめるわけではない。6月18日にはLINE公式アカウントを開設した。多数にリーチする外部プラットフォームを併用しながら、ECも含めた顧客接点の強化を目指す考えだ。

無償アプリを活用、来店頻度に応じた個別配信するフィアットカフェ

 スマートCRMに向かう進化の流れ。中小企業へも、そろり波及し始めている。無償のスマートフォン向けCRMアプリの存在が、それを可能にしつつある。

 「スタンプを押してもらえませんか?」

 若い女性3人組はそう店員に声をかけると、スマートフォンのアプリを起動してテーブルに置いた。画面にはフィアットカフェのスタンプカードとQRコードが表示されている。店員は手にした店舗用アプリが入ったスマートフォンで、画面に表示されたQRコードを読み取っていく。すると、画面上のスタンプカードに、次々と来店スタンプが押された─。

中小店舗でのCRMを実現するスマホアプリ「O:der」

 東京・青山にある自動車販売会社フィアット グループ オートモービルズ ジャパンが運営する「フィアットカフェ」では、6月からこんな光景を目にするようになった。フィアットが利用するこのアプリ、実は開発費が一切かかっていない。

 CRM向けなどの高機能なアプリは、それ相応の開発費が必要なため、投資の決断に二の足を踏む企業も少なくないだろう。そうした企業や中小店舗でも、スマートフォンを活用したCRMを実現できるプラットフォームが登場している。企業のO2O施策を支援するShowcase Gig(東京都港区)が6月から試験提供を始めた、スマートフォン向けCRMプラットフォーム「O:der(オーダー)」はその1つだ。

 フィアットカフェはこのO:derを活用している。O:derの正式な利用料金は未定だが、基本機能は無料で使える見込み。セグメント別のメール配信といった高度な機能を使う場合、月額5000~1万円程度に設定する予定だ。

 Showcase Gigの新田剛史社長は、「O:derのようなサービスの思想はあったかもしれないが、具現化したのは当社が初めてだ」と胸を張る。2013年度内に500店舗の顧客獲得を目指す。

 O:derは、消費者と店舗、それぞれにアプリを提供している。

 消費者向けのアプリは、O:derを利用する様々な店舗のスタンプカードを一括して持ち運べるもの。氏名、性別、生年月日、メールアドレスを登録することで利用できる。

 フィアットカフェの場合は、飲食するたびにスタンプが1個付与され、10個たまるとランチまたはディナーのメニューが1つ無料になる。

 アプリには店舗ごとのページがあり、スタンプカードはその機能の1つだ。メニューの一覧、店舗が配信したメッセージや取得したクーポンなども確認できる。

 一方、店舗向けのアプリには、大きく3つの機能がある。まず、スマートフォンのカメラを使ったQRコードの読み取り機能だ。この機能を使って顧客にスタンプを付与する。

 2つ目はスタンプカードを取得した人を一覧できる顧客リストページ。

 3つ目が、その顧客にアプリを通じてメールやクーポンを送れる機能だ。クーポンはスマートフォンだけで簡単に作成でき、利用者が登録時に入力した会員属性や、来店回数に応じて出し分けられる。来店回数の多い顧客限定で、スタンプ2倍キャンペーンを告知する。過去1カ月間来店していない顧客にクーポンを提供して来店につなげる。そんな活用が考えられる。

 フィアットから委託されてカフェを運営するオンアンドオン(東京都港区)の戸辺将文社長は「これまでメールで来店を促していたがその効果は下がり気味だった。O:derのプッシュ機能を使い、様々な条件で情報を配信して来店につなげたい」と意気込む。

事前決済機能も追加へ

 O:derは今後、決済にも活用できるようになる。6月中に、まずは事前決済機能を搭載する。利用者がクレジットカード情報を登録しておくと、商品一覧から購入したい商品を選んで来店前に事前決済できる。店舗はクレジットカード決済を導入していなくても、O:derを通じた決済手数料だけで、カード決済に対応できるようになる。

 昼食を食べながら、O:derを通じて近くのコーヒー店に持ち帰りのコーヒーを注文し、カードで決済する。帰りに立ち寄ってコーヒーを受け取る。注文する手間や待ち時間はほとんどない。そんな使い方ができる。フィアットカフェは、O:derで事前決済ができるようになるのを機に、テイクアウトメニューを始める計画だ。

■【特集】スマートCRM最前線――「顧客に伝える」より「顧客を知る」ことこそスマホの価値
前編 会員カードをスマホアプリ化、購買履歴に応じたクーポンを配信する良品計画
中編 スターバックスが個別“クーポン”配信へ、「STARBUCKS e-Ticket」を開始
後編 ユニクロのスマホアプリが大きく進化、店頭でバーコード読み取りネットで商品情報を確認

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