この春、パナソニックはCRM(顧客関係管理)サイト「CLUB Panasonic」のソーシャルメディア戦略を大きく変えた。8万人以上のファンを抱えていたFacebookページをあっさりと閉鎖してしまったのだ。その代わりに選んだ策が、LINE活用の強化だ。

 CLUB Panasonicは、数百万人が登録する国内最大級のメーカーCRMサイト。会員に対して、パナソニック製品の型番などを登録してもらう仕掛けを随所に施している。その登録情報を基に、メールなどで最適な商品を勧めるといったマーケティングに活用している。

 パナソニックは、このCRMサイトの認知向上や会員を増やすための手段として、ソーシャルメディアを活用している。まずFacebookページを開設。次いで、昨年10月にLINE公式アカウントの運用を始めた。CLUB Panasonicは、自社サイトとこの2つのソーシャルメディアを併用しながら、ファンとの関係を構築してきた。ところが、パナソニックは2月末に意外な行動に出る。CLUB PanasonicのFacebookページを閉鎖したのだ。当面は、LINEに絞って運営していくという。

 CLUB PanasonicのFacebookページは、決してファン数が少なかったわけではない。1月時点では8万人以上のファンがいた。多数のFacebookページを運営する同社の中でも1、2を争う規模だった。

 ではLINEはというと、人気アニメ「ヱヴァンゲリヲン」や、テレビ番組「ひらけ!ポンキッキ」とコラボした大型絵文字「スタンプ」を、公式アカウントへの登録を条件に提供するなどしたことで、登録者数は爆発的に増えた。現時点の登録者数は480万人にも達する。その差は実に60倍。ファン数という面でLINEと単純比較してしまうと、確かにFacebookは見劣りする。

テレビ番組「ひらけ!ポンキッキ」とコラボして配信した大型絵文字「スタンプ」

 だが、両者には一長一短があり、それぞれ利用目的は異なるはずだ。Facebookは日々、様々なコンテンツを投稿して、ファンと深く、長期的な関係を構築できる可能性を持つサービスと言える。ただし、一気にファンを集めるのは難しいため、やや地味なマーケティング活動となる。

 一方、LINEは短期間に数百万人単位で登録者を集められる可能性を持つものの、原則、一斉配信のメールによる一方的な情報伝達しかできない上に、最低月額250万円からという高額な利用料金がかかる。CLUB Panasonicの場合、メール着信を拒否(ブロック)している人を除いた実際の配信数が400万人強と仮定すると、月1回のメール配信に600万円かかる計算になる。

 LINEは単発的に数百万人に一斉に情報を届けて、瞬間風速的にアクセスを稼ぐのには最適なツールだ。しかし、文字数や写真の表現力などの関係から、現時点では深く長期的な関係を構築するのにはあまり向いていないだろう。両者のバランスを考えながら運営している企業も多い。パナソニックの戦略転換の意図はどこにあるのか。

メーカーO2Oに活路

 CLUB PanasonicがLINEを利用し始めた当初、主な目的はCLUB Panasonicの会員獲得だった。ただ、企業がLINEを利用する場合、配信したメッセージから直接、会員サイトの登録ページに誘導することは、規則で禁じられている。LINEのメールと登録ページの間にキャンペーンページを挟むなどして、そこから会員登録ページに誘導する必要がある。しかし、キャンペーンページを1枚挟む分、直接誘導するより離脱率は高まる。

 そうした背景もあり、会員獲得だけをKPI(重要業績評価指標)としてしまうと、「(投下したコストが)ペイするかというと、それは難しかった」(コンシューマーマーケティング ジャパン本部CRM推進グループコンテンツチームの松岡八蔵チームリーダー)。

 とはいえ、最低1000万円(今年から1500万円からに価格改定)の料金がかかるスタンプを活用するなどして集めた登録者を、むざむざ捨ててしまうことも考えづらい。そこで、3月から新たに挑戦したのが、パナソニックが展開する商品体感イベントへの集客だ。O2O(オンラインtoオフライン)施策へと活用の幅を広げることで、会員獲得以外の成果指標を策定する糸口を見つけ出そうという試みだ。

商品体感イベントへの送客を狙ったLINEの投稿

 そもそもLINEは店舗などへの送客に向くメディアだ。ローソンや日本ケンタッキー・フライド・チキンなどが集客で成果を上げている。ただ、それは店舗網を持つ企業に限った話であり、店舗を持たないメーカーでは実現しづらかった。パナソニックは、各地で展開するイベントへの集客という形でO2Oを実現した。

 今年3月に「東京スカイツリー」で実施した、デジタルカメラ「LUMIX」のイベントへの送客を狙ってLINEを活用。会場で提示することで、LINEの人気キャラクター「ブラウン」や「コニー」のスマートフォン向けアクセサリーがもらえるクーポンを配信した。

 これが当たった。「全来場者のうち2割がLINE経由での来場となった」(松岡氏)。商品体感イベントは、実際に商品を利用してもらえるため、購入に結びつく重要な施策だ。そのイベントへの集客にLINEは活用できる。この成果をきっかけに、LINEの新しい活用法を追求する方向へと、CLUB Panasonicは向かい始めた。

宣伝の一環として活用

 Facebookページを閉じて、LINE活用に注力すると決めた理由は大きく2つある。1つはLINEを強化しつつFacebookも運用するとなると、人的リソースが足りなくなる懸念があったこと。もう1つは、CLUB Panasonicは、パナソニックがオンライン上で展開する、ほぼすべての製品のキャンペーンの受け皿であったという点だ。

 パナソニックは、CLUB Panasonic以外にも多数のFacebookページを運用している。例えば、AV家電のFacebookページには約8万1000人のファンが登録している。また、美容家電のFacebookページには約3万4000人のファンが集まっている。これらのFacebookページで紹介するキャンペーンは、すべてCLUB Panasonic上でも展開している企画となる。CLUB Panasonicが、わざわざリソースを割いてFacebookを利用しなくても、Facebookからの集客は実現できている。一方、LINEを活用しているのはCLUB Panasonicだけだ。

パナソニックが運用しているFacebookページ

 「様々な施策にLINEを組み合わせることで、どういう反応が起こるのかを見る」(松岡氏)。そのためにCRM推進チームは、重複投資になるともいえるFacebookページを運営するのは止めて、LINEの可能性を探ることに注力することにした。

 方針転換後は、パナソニックで宣伝業務を担当するコミュニケーショングループと密に連携しながら、イベントへの集客にLINEを活用している。「様々な宣伝活動の一環として、LINEを加えてどういう成果につながるかを測定する」(コンシューマーマーケティング ジャパン本部コミュニケーショングループWEBチームの北原幸主事)。

 例えば、5月19日に大阪で開催した美容家電の体感イベントでは、LINE経由で小学生から年輩の人まで、様々な世代が訪れたという。「これまでは、若者向けを意識して、紹介する商品などを選んでいた。今回も若い世代が中心になると予想していたが、いろいろな方に来ていただいた。今やLINEは幅広い世代に使われていることを実感した」と松岡氏は振り返る。今後は若年層向けに限らず、様々な商品のイベント告知に活用していく方針だ。そうして、まずはLINEによる、メーカーならではのO2O施策の可能性を探る。

 パナソニックは2012年度に7500億円の純損失を計上した。この決算を受けて3月28日に発表した中期経営計画では、赤字事業を失くし、将来を見据えた道筋をつけると表明。この目標に不退転で挑む決意を示した。もはや無駄金を投じる余裕は残されていない。こうした状況下にありながらも、CLUB Panasonicは、よりコストのかかるLINEの強化を選んだ。明確な成果指標を策定し、パナソニックにとって、将来の道筋をつけるための重要な投資だと示すことが求められるだろう。