全面刷新したトヨタ自動車の自動車ポータルサイト「GAZOO」

 トヨタ自動車は5月30日、自動車ポータルサイト「GAZOO.com」を全面刷新した。子供向けカードバトルゲームや、観光地へのチェックイン機能も備えたスマートフォン用ドライブアプリなど、昨今のトレンドに沿った、多くの機能を盛り込む。

 ユーザー視点では、エンターテインメント性が強まったことが特徴とも見える。だが、刷新を主導したe-TOYOTA部の佐々木英彦インターネット企画室長が語る狙いはまるで別だ。

 「GAZOOを通じて、1台でも多くクルマを売ること。実売につながるマーケティングが実施でき、マーケティングの効果が測定できる仕組みを導入すること。それに尽きる」

社名が出なくても、中心はトヨタファンに

 1998年4月にスタートしたGAZOOは、この15年間に複数回のリニューアルを実施して、機能や情報量はかなりのボリュームになっている。しかし、これまでのGAZOOの在り方に佐々木氏は問題を感じていたという。

 「GAZOOは、存在理由があいまいだった。他社ファンを取り込もうとトヨタの名を隠し、トヨタ以外の新車情報なども提供してきた。それでも集まるのはトヨタファンが中心。ログインしなくても大半の機能が使える。そのためどんな属性の、どのページを見たお客が、その後クルマを購入したかなども把握しにくかった」

 実売につながるマーケティングプラットフォームを目指す。その視点に立つと、次の3つが刷新の柱だということが見えてくる。

 1つは、会員情報の一元管理である。1200万人に上るGAZOOの会員データベースと、トヨタグループの総合ポータル「toyota.jp」の50万人の会員データベースを統合。その顧客ベースに対し、マーケティング施策を一元的に打てる環境を整えた。

 ユーザーがどのページを見たのか、その後どこに遷移したのかといった行動がより精緻に把握できる。そして、カタログ請求やディーラー検索、試乗予約といった購買に直結するであろうページに誘導しやすいコンテンツは何か、そこからどれだけ遷移したか、といったことについて、2つのサイトを横断した分析が簡単にできるようになった。

 2つ目は、顧客とのコミュニケーションの強化だ。GAZOOには会員が自分の愛車、ドライブの感想、その日の昼食など様々な内容を投稿できる「GAZOOブログ」という人気の機能がある。これに加えて年内にトヨタ独自のSNSを導入し、その活性化のために「アンバサダー」(仮称)という制度も始める計画だ。アンバサダーとは一般に、周囲に企業やブランドを率先して推奨してくれるような強いファンのことを指す。その“大使役”を組織化して、詳しい情報や優遇策を提供することで、クチコミ発信などを活性化させる。

 トヨタは、GAZOOブログの利用者からアンバサダーを指名する予定だ。中でも「周囲から多くの反応を引き出すような書き方をし、会員に影響力を持っている人」(佐々木氏)を中心に選ぶ。「その上で当社が会員に知っていただきたいクルマやサービス、キャンペーンなどについて投稿していただき、ネットの議論を盛り上げてもらう」(佐々木氏)。

 アンバサダーに多数のポイントを付与するような優遇策はしない方針。画面に表示するニックネームの横に何らかの印をつける、といったことにとどめる。実利が伴わない“名誉職”のほうが当人や周囲が受け入れやすく、投稿する情報への信頼感も増すだろうという考えだ。

スマホ対応で若者を呼び込む

 3つ目は全面的なスマートフォン対応である。

 「今はスマホからGAZOOにアクセスしても、パソコン用の画面がそのまま映し出される。年内をメドに、レスポンシブWebデザインを採用し、スマホでの表示を最適化する」(佐々木氏)。

 遅ればせながらの対応ではあるが、若い世代の利用者を増やすには必須だろう。ファミリーカーなども多くラインアップするトヨタだが、国内ユーザーの中心となるのは50~60代だという。GAZOO利用者は相対的には若いが、それでも40代がメーンとなっている。スマホ対応で、少しでも若い利用者を増やしたい。その思いは切実なようだ。toyota.jpなどほかのサイトも順次、スマホ対応を進めていく。

 1998年の立ち上げにかかわった豊田章男社長も強い関心を寄せているというGAZOO。今回の刷新はどれほどの効果が期待できるのか。KPI(重要業績評価指標)の1つとなるのが、GAZOOのアクティブユーザー数だ。

 実はGAZOOの会員1200万人の多くは、あまり閲覧や投稿をしないノンアクティブなユーザーだという。トヨタ系クレジットカード「TS CUBICカード」に入会すると自動的にGAZOOに登録される仕組みなどがあるためだ。「現在、アクティブな会員はtoyota.jpと合算しても75万人ほど。これを100万人、中長期には200万人まで持っていきたい」と佐々木氏は目標を掲げる。

 秋から本格化するアンバサダー制度導入などの刷新第2弾。その成否が、最終目標である実売に結びつくマーケティングプラットフォーム実現のカギを握っている。

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