「続きはWebで」。テレビCMの最後にこんな表示をして、Webサイトや動画サイトへ消費者を誘導する企画は珍しくない。だが、テレビCMの見た目を丸ごと「YouTube」風にすることで、徹頭徹尾、YouTubeへの誘導を試みるという企画ならどうか。

 「恐らく、世界で初めての試みではないか」

 資生堂宣伝制作部の鐘ヶ江哲郎チーフクリエイティブディレクターはそう話す。男性用化粧品ブランド「uno」の洗顔料を全面リニューアルしたことに伴い、今年3月末から4月末にかけて実施したプロモーションのことである。

 プロモーションを通じて消費者を誘導したYouTube上の「uno公式ブランドチャンネル」では、CM動画の再生回数が7万4600回、アクセスした人が映像再生を中止せず、どこまで見たかを示す「視聴者維持率」が最後まで100%を維持した動画が、同CMを含めて複数あった。再生回数が多いとは言えないが、消費者とのエンゲージメントという意味では、なかなかの成果だと言えよう。

 何より製品の売り上げという点で結果が出ている。unoの洗顔料を扱う店舗を対象にした社内調査では、プロモーション開始前に4位だった同製品のシェアが、期間中に3位へと上昇したという。

半端な施策では4位から抜け出せない

 資生堂がunoブランドの洗顔料を全面リニューアルするのは2008年2月以来5年ぶり。洗顔料の大規模なプロモーションを展開するのも久しぶりのことになる。

 自然、プロモーションは力の入ったものになったが、企画の面で同社が最も重視したのは、「消費者にいかに強い刺激を与えられるか」(鐘ヶ江氏)だったという。

 男性用化粧品の市場は拡大傾向にあるが洗顔料はほぼ横ばい。製品の差異化が容易ではなく、よほどのことがないとブランドスイッチは起こりにくい。実際、この分野では1位が「ギャツビー」(マンダム)でunoは4位という状態が続いている。

 では、そうした難しい状況を変えるべく、同社が力を注いだプロモーションの全体像について説明しよう。

 起点となるのは、妻夫木聡、小栗旬、瑛太、三浦春馬という4人の若手俳優を起用した15秒のテレビCMである。画面分割などの映像手法を駆使しつつ、4人それぞれが“ややワイルド”に洗顔をする映像を制作した。資生堂の調査で洗顔料の使用率が最も高いと分かっていた20代男性はもちろん、若い女性の目を引くことも狙った。

YouTube風デザインで制作された資生堂「uno」の洗顔料のテレビCM

 一番の特徴は、既に触れたようにCMが丸ごとYouTubeの見た目になっていることである。CM映像の上部には検索窓、下部には赤い進捗バーや経過時間の表示、一次停止や音量調整ボタン、を配置。画面の右端には、これもYouTubeのサイトの特徴の1つである、関連動画のサムネールが縦に並ぶイメージも再現した。CMを見ていると、“本物のYouTube”と同様に、時間の経過とともに赤いバーがちゃんと右に伸びていき、YouTubeらしさがさらに増す。

 YouTubeのヘビーユーザーなら1回見ただけで、それほど使い込んでいない人でも、このCMを何度か見ているうちに、これがYouTubeを模したものであることに気がつくだろう。そう期待した。それを印象づけるため、CMの映像にYouTubeのロゴを配したり、「続きはYouTubeで」といった文字を映したり、といった仕掛けはあえてしなかった。

 消費者に小さな驚きや発見を与えることで商品に対する興味関心を喚起する、いわゆる“Wow(ワォ)マーケティング”の考えを盛り込もうとしたためである。

 「CMを見た人が、『普通のCMと何か違うな』というような違和感を持つ作りにしたかった。視聴者が何度かこのCMに接するうちに『ああ、画面がYouTube(の見た目)になっているんだ』と分かってもらえれば、それが視聴者の心に強く印象づけられると考えた」(鐘ヶ江氏)。

 テレビCMを集中的に出稿した3月末から4月末に合わせて実施した山手線の中吊り広告や駅看板といった交通広告、そしてunoブランドサイトなども、テレビCMと同じYouTube仕様のビジュアルでイメージを統一した。

 こうしてテレビCMや交通広告、ブランドサイトといった全ての「顧客接点」から、YouTube上に設けたuno公式ブランドチャンネルへと“誘導”した。なかなか割り切った施策だと言えよう。

 一方、誘導先のuno公式ブランドチャンネルには様々なエンターテインメント要素を盛り込んだ。消費者にできるだけ長くサイトに滞在してもらい、unoというブランドと、リニューアルした洗顔料に対する理解を深めてもらう工夫である。

消費者が素材を選んでオリジナルCMを作れる「uno CM Remix Machine」

 目玉は「uno CM Remix Machine」と名付けた仕掛けだ。消費者がCMディレクターさながらに、CM映像と未使用映像から使用する素材を選んで、36秒間のオリジナルCMを制作できるというものだ。

 操作は簡単で、まずCMに登場する4人からメーンとなる登場人物を選ぶ。後はメーン画面の下部に現れる複数のコマ(映像)から気に入ったものをマウスで選択することで“録画”。作ったCMは通して見ることができ、その後は、FacebookやTwitterへのリンクボタンから、友だちに知らせることもできる。

 テレビCMと動画サイトを連携させたプロモーションでは、CMのロングバージョンやメーキング映像などが見られることを特典とするのが定番の手法。今回はそこから一歩踏み出すことを目指した。消費者が自らCMの映像を操作したり、制作したりできるようにしたらどうか、というアイデアはそこから生まれた。

全員がCM映像を最初から最後まで見た

 では一連の施策は、どれほど効果的だったのか。

 まずはuno公式ブランドチャンネルに置いた15秒のテレビCM映像の再生回数。3月28日のプロモーション開始時から4月3日までの最初の1週間が4万2417回、終了日(4月30日)までの34日間では約6万6700回、6月1日時点では約7万4600回となっている。

 プロモーション期間を通じたこのCM映像の視聴者維持率は100%。これはCMを再生した人全員が、最初から最後まで見たことを意味する。

 uno CM Remix Machineについては直帰率が28.64%、平均滞在時間は2分37秒となった。直帰率は、1つのコンテンツにアクセスした後、ほかのページを閲覧せずサイト外に出てしまう割合であり、3割弱というのはかなり低く、優秀な値だと言える。

 一方の平均滞在時間についてグーグル第一広告営業本部消費財・ヘルスケア担当の岩田幸也アカウントマネージャーは、「平均で2分半というのは、YouTubeの企業公式チャンネルに関連したコンテンツでは、かなり長い方ではないか。それだけコンテンツを楽しんだユーザーが多かったということだろう」と話す。

 CMや交通広告から明示的な誘導をせず、“違和感”を感じた人だけが訪れる仕掛けにしたからこそ、unoブランドと消費者が深い関係を築くことに成功したのではなかろうか。このようにWeb上の反応が良かったこと、自社調査で洗顔料のシェアが上がっていることなどを受けて資生堂は、7月にも同じテレビCMを流す計画を立てている。

 CMとWebサイトの連携という定番化しつつある手法にもまだまだ工夫の余地がある。unoの取り組みは、その可能性を示すものだと言えよう。