「スマートフォンのアプリ経由の売り上げが、想定していた額の5倍以上になった」

 仮想のキャラクター「初音ミク」を使って実施したキャンペーン施策の成果について、ドミノ・ピザジャパン(東京都千代田区)マーケティング部広告課の大槻昌弘課長は満足気に話す。

 女性アイドルや漫画の登場人物といった根強いファンを抱えるキャラクターを活用したマーケティングは、今も引きを切らない。同社のiPhone用アプリ「Domino's App feat. 初音ミク」もその1つではある。

 ただし、単なる話題づくりという短絡的なキャラクター起用ではない。ピザの売り上げ増という実利をしっかり稼ぐ仕組みがある。何より、若年層の取り込みとスマートフォン経由の注文比率の向上という、同社が抱える課題の解決を意識し、設計している点に見るべきものがある。

初音ミクが配達状況を歌って知らせる

ドミノ・ピザ ジャパンが配信中のiPhoneアプリ「Domino's App feat. 初音ミク」

 同アプリは、初音ミクのキャラクターと楽曲を全面に採用したピザ注文アプリだ。アプリには配達状況を確認する機能があり、注文した後にボタンを押すと、「ただいまトッピング中です♪」というように、ピザの調理・配達状況が表示され、状況に応じた曲を初音ミクが歌う。さらに、届いた箱の上蓋をiPhoneのカメラで認識させると、画面に初音ミクが現れ、同社の現場スタッフが作曲したオリジナル曲に合わせて歌いながら、ピザの箱の上で踊る様子が見られる。設定画面から好きなポーズや表情を選び、初音ミクと自分のツーショット写真を撮影したり、それをソーシャルメディアに投稿して友だちに知らせたり、といったこともできる。

 アプリを提供開始した3月7日から5月12日までは、同アプリから注文すると初音ミクの絵柄が入った特製の箱でピザが届くキャンペーンを実施した。この売り上げが、冒頭の発言のように、想定の5倍に達するほどの好評を得たのだ。

 キャラクターの人気を利用して「ピザの注文」という購買行動へ誘うばかりでなく「注文してから届くまでの30分間」、そして「届いた後」にも利用者が楽しめるように工夫。リピートオーダーを誘発する仕掛けを盛り込んでいる。

ネット注文5割超え、スマホ経由も増加

 同社が圧倒的に苦手としている若い顧客の取り込みも、実が上がっているようだ。

 宅配ピザというと主な顧客は20~30代の若者かファミリー層というイメージが強い。実際、同業他社はそうなのだが、ドミノ・ピザは違う。「メーンの客層は40代の男性。若いお客やファミリー層はかなり少ない」(大槻氏)。

 1985年に創業した宅配ピザチェーンの草分けである同社は当時、若者に圧倒的な人気を誇ったという。お察しの通り、現在同社を支えるのは、今や中年になった、かつてのファンたちだ。

 後発の「ピザーラ」らがテレビCMなどを通じて幅広い世代の人気を獲得。事業規模を拡大する中、ドミノ・ピザは徐々に失速した。同社の場合、テレビCMは今も一部の例外を除いて、実施していない。

 業界3位のドミノ・ピザが本格的に反転攻勢に出たのは2010年。米投資ファンドのベインキャピタルに買収されてからだ。

 以来、2012年にはスマートフォン向けの注文アプリ「Domino's App」の提供を開始するなど、若年層の開拓に向けてタネを蒔いてきた。そうした土壌の上に今回、小さく可愛い花が咲いた、というわけである。

 同社の場合、今年3月にネットからの注文の割合が50%を超えた。「恐らく業界でも最多だろう。パソコンとスマートフォンを比較すると、今はパソコンが多いが、初音ミクアプリのダウンロードが8万弱になったので、やがて、スマートフォンの方が多くなるだろう」と大槻氏は言う。移動先でも使えるスマートフォンなら、買い物途中にピザを注文し、その帰りに店舗に立ち寄って商品を持ち帰ってもらうテイクアウト注文という新たな需要を創造し、宅配コストを削減させる可能性もあるだけに、経営上でも重要な指標だ。

 アプリによって新たに獲得した数万人規模の若い顧客基盤。そこに向けて、様々なマーケティング施策を打てる環境が整った。スマートフォンからの注文に限って価格を割り引く「スマホ割」など、既に実現した施策もある。あとはマーケティング施策にどんな味付けをし、腕を振るって見せるか。昨年から続く積極的な出店と合わせて、同社の上位追撃の準備はもはや整ったと見るべきなのだろう。