「ソーシャルメディアで割引クーポンを配布したり、プレゼントと引き換えに商品購入を促したりするような、短期的な売り上げを狙う施策を実施するつもりはない」
サンドイッチチェーンを展開する日本サブウェイ(東京都港区)マーケティング商品本部マーケティング企画室副室長兼広報グループの岩崎麻佐子グループリーダーは、自社のデジタルマーケティング戦略について、そう語る。

店舗数が約440店と多くないこともあり、サブウェイに、例えば日本マクドナルドのような「マーケティング巧者」のイメージはあまりないだろう。だが、それは少しばかり違っているようだ。例えば、3月25日からオムロンヘルスケア(京都府向日市)と共同で実施した「オム×サブ」というキャンペーン。割引クーポンやプレゼント提供などは一切しない企画だったが、「野菜のサブウェイ」というブランディングのために設けている特設サイト「野菜ラボ」への訪問者数が5倍になるという成果を上げている。
オムロンとのコラボで女性に訴求
「オム×サブ」は、30代の一般人の男女1人ずつをモデルに選んで、1カ月にわたって、1日1回サブウェイのサンドイッチを食べてもらい、朝晩2回、オムロンの体重・体組成計で体重や体脂肪率、総消費カロリーなどの数値を測って記録するという、ダイエット挑戦企画である。
元々サブウェイのサンドイッチは、どれも野菜がふんだんに使われ、総カロリーが低い。牛肉や鶏肉をメーンとする商品でも300kcal台。中には200kcal台のものもある。このため健康志向の強い20~30代の女性に人気が高く、顧客の男女比率は20:80になっている。
リピーターも多いそうした女性客に、「サブウェイ=ヘルシー」というイメージから一歩進んで、ダイエットにも役立ちそうな食事の1つとして認知してもらうことを目指した。
もちろん、「食べればダイエットできる」といったストレートな訴求はできない中、その壁を乗り越えようと、考えた末にたどり着いた企画だ。
当初、ややぽっちゃり体型だったモデル2人が、サブウェイのサンドイッチを食べ、オムロンの体重計に乗り続けることで体重や体脂肪率などがどう変化するか。それをサイトやFacebookで随時知らせた。
演出したわけではないが、体重が減るなど成果が出ている日があるかと思えば、数日後には急にリバウンドする。そんな2人のリアルな様子をありのままに伝えることで、サイトやFacebookに集まる同社のファンの興味を1カ月にわたって引いた。
「ダイエットに頑張るモデルに共感を覚え、応援したいという気持ちを持ってもらえた」(岩崎氏)こともあり、キャンペーン期間中、「いいね」やフォロワーが増加し、最大の目的であった特設サイト「野菜ラボ」への訪問者数もキャンペーン実施前と比較して5倍に増え、成功裏に終わった。
消費者からすれば、この企画に“挑戦者”として参加できるわけではないし、推移を見続けてもプレゼントやクーポンがもらえるわけでもない。そうした“地味”なキャンペーンが注目を集めた理由は3つ考えられる。
1つは、「お手軽感」。ダイエットに関心を持つ女性にとって、体重計に1日何回か乗って体重などを確かめるというのは、ごく日常的にしている当たり前の行為。それを記録に残すことくらいなら、「自分だって、できるかも」と思ってもらいやすい。
もう1つの、サブウェイのサンドイッチを毎日食べるというのはハードルが高いが、最近の消費者は「要は、野菜を多く取ればいいんでしょ」と見透かす冷静な目を一方で持っている。これもキャンペーンに関心を持ってもらう上では、さほどの支障にはならない。
2つ目は「不透明感」。サンドイッチを食べ、体重を測るだけで「本当に体重が減るのか。実は予想がつかないまま始めた」と岩崎氏は振り返る。運営する側がこんな状態なのだから、当然、消費者のほうも、これでダイエット効果があるのかどうか疑わしく感じていただろう。
実際、ダイエットを始めても体重は減ったり増えたりを繰り返し、先行き不透明な展開が続いた。「2人の挑戦をハラハラしながら見ていた」(岩崎氏)という運営側の気持ちは、Facebookなどで消費者にも素直に伝えた。それが、この先の読めないストーリーの続きを読みたい気持ちと、結果を見極めてやろうという気持ちを喚起し、長期にわたって、消費者の関心を引き続けることにつながった。
そして3つ目は「達成感」。1カ月間の挑戦によって男性モデルは体重が5.2kg減り、女性モデルも4.6kg減った。ダイエットは無事成功した。投稿を見ていた消費者は、たとえ自らは何もしていなくても、この大団円にカタルシスを感じたはずだ。実際、「野菜ラボ」のサイトへの訪問者数は、キャンペーン開始時にピークを迎え、途中少し減少したが、体重減という結果が見えてきた終了間際に再びピークを迎えている。ダイエット成功という結果を多くのファンが共有したことがうかがえる。
「野菜ラボ」の訪問者数が5倍増になるという成果を受けてサブウェイは、このキャンペーンを今後、セミナーやイベントに仕立てて、さらに広い顧客にアピールしていくという。
創業時からのサービスなのに、知られていない

この「オム×サブ」もそうだが、サブウェイが実施するキャンペーンは「野菜にこだわっている」というメッセージを手を替え、品を替えて訴求するものが多い。例えば、Facebookなどで実施している「サブウェイ好きの著名人インタビュー」というのも同様で、様々な著名人が登場するが、詰まるところはサブウェイの野菜へのこだわりと、ヘルシーさについて語ってもらっている。
その背景には「たとえFacebookにいいねをしてくれているようなファンでも、会社が思っているほど会社に愛着を持ってくれていたり、商品に詳しかったりする、とは限らない」(岩崎氏)という考えがある。岩崎氏自身、今年4月11日にFacebookに投稿した記事で、その点を再認識させられている。
それは「【ほぼ裏ワザ!?】“パン抜きサンドイッチ”」というもので、サブウェイではすべてのサンドイッチが中身の野菜だけでも購入できることを知らせる投稿。パン抜きは新サービスでも何でもなく創業時から実施しているのだが、それでもFacebookでいいねが2000を超える反響があった。「嬉しい半面、当社のサービスがこれほど知られていないのかと複雑な気持ちにもなった」と岩崎氏。
ソーシャルメディアのファンは移り気。プレゼントキャンペーンのような“打ち上げ花火”ではなく、じっくり顧客と向き合うことでブランド認知を深める。ソーシャル活用に結果が求められる時代だからこそ、こんなサブウェイ流が価値を持つのではなかろうか。