さくらパンダは2007年、松坂屋上野店が改装オープンした際、“客寄せパンダ”としてお目見え

 大丸松坂屋百貨店のイメージキャラクター「さくらパンダ」が、この1年で知名度、好感度を上げて、店舗への集客および売り上げに貢献する段階に入ってきた。ソーシャルメディア上での露出を意識的に高め、地道にコミュニケーションを積み重ねてきたことが、キャラクターを軸にした020(オンラインtoオフライン)を開花させた。さくらパンダの事例を通じて、売り上げをもたらすキャラクターの育て方に迫ってみよう。

 そもそも百貨店という業態とコミカルなキャラクターの組み合わせにはやや意外感があるかもしれない。そごう・西武が、西武百貨店時代の1993年から起用している「おかいものクマ」は、夏・冬商戦期限定のキャラクター、かつその名の通りおかいものをする消費者の立場というキャラ設定ゆえに販促メッセージをしゃべらせることができない事情もあって、20年の歴史がありながら意外に知名度は低い。本誌が今年4月に20~30代の男女500人に調査したところ、おかいものクマの認知度は21.3%。さくらパンダは28.5%で既に上回っている。

“横綱相撲”が取れない中、独自キャラを打開策に

 視野を小売全般に広げれば、ローソン「ローソンクルー♪あきこちゃん」、ファミリーマート「日々野優」、ミニストップ「ミミップくん」など独自キャラクターを立てる企業が近年相次いでいるが、いずれもコンビニ業界だ。「唐揚げ20%オフの割引クーポンを配信したら利用率が高かった」といったよく耳にする成功事例は、そのまま百貨店には当てはめにくい。

 ではなぜお手本がないながらもキャラクター起用に踏み切ったのか。同社営業企画室販売促進部でデジタル販促を担当する洞本宗和氏は言う。「当社は業界中位で、例えば伊勢丹における新宿のような圧倒的優位に立っている商圏もないため、“横綱相撲”を取れる立場ではない。その競争環境下でどう戦うか、また50~60代が主顧客層の現状からいかにして20~30代を呼び込むか。打開策としてキャラクターが浮かび上がった」。

 2007年3月に松坂屋上野店が改装オープンした際、その“客寄せパンダ”としてお目見えしたのがさくらパンダだった。上野動物園のパンダと上野公園のさくらを組み合わせたピンクのパンダは、早速ブログを開設。「~まつぅ」という松坂屋にかけた独特の語尾で店舗と上野の街の様子を伝え、局所的に人気者になった。さくらパンダをあしらった携帯ストラップやぬいぐるみなどの小物グッズが狙い通り若い女性に響いた。そして上野店オープン限定キャラの予定が、いつしか他店の応援に回るようになり、2010年に経営統合した大丸松坂屋百貨店の公式キャラクターの座へと上り詰めた。

ソーシャルメディアと他社とのコラボが起爆剤に

 この人気を支えたのが、ほかならぬソーシャルメディア展開だ。ブログに続いてTwitter、YouTubeチャンネル、Facebookページを開設し、キャンペーンの告知やイベント報告、移動中のオフショットなどを投稿。「明日は、浦和へ行くまつぅ!」と予告すると実際にファンが駆けつける。さながら「会いに行けるゆるキャラ」といったあんばいだ。撮影した踊るさくらパンダ動画・画像は、個人ブログやYouTubeにアップされ、クチコミで着実にF1層に浸透していった。

 もう一つのさくらパンダ効果として洞本氏は、他社とのコラボレーション展開が手掛けやすくなったことを挙げる。同じJ.フロントリテイリンググループになったパルコの「パルコアラ」とは、この3月に円谷プロダクションと組んで「春のウルトラサンクスフェスティバル」を開催したばかり。2月には恵方巻の販促で、キリンビバレッジの「生茶パンダ先生」、味の素の「アジパンダ」と共演し、イベントを盛り上げた。山崎製パンとは、同社「春のパンまつり」と並行してコラボ商品を発売する「さくらパンダフェア」が今春で2回目を迎えた。

 では、さくらパンダはどれほど収益に貢献したのか。熱狂的なファンが遠征してくるような面白いエピソードには事欠かないが、実売の成果を表すことはなかなか難しかった。

さくらパンダスタンプが人気でLINEの友だち数は瞬く間に300万人超

 それがこの3月、LINEアカウントを開設して一変した。友だち登録を条件にさくらパンダスタンプを提供したところ、開設3日にして友だち数が200万人を突破。現在330万人に達し、ブロックしている人を除いても200万人を優に超えるという。

 早速4月第1週の週末、さくらパンダ特製チロルチョコ(3個セット)がもらえるLINEクーポン画面を配信すると、初日配布分の3000セットが昼過ぎにははけた。また1000円以上のお買い上げレシートとLINE画面の提示でメモ帳や蛍光ペンなどのさくらパンダオリジナル文具をプレゼントするキャンペーンには、8200人が参加し、レシートの合計額は5400万円。1000円以上が条件ながら、1人当たり6500円以上の売り上げがあった。

 一部のファストフード店では、LINEの割引クーポンを配信すると反響は大きいものの、割引商品だけ購入して併売が伸び悩む傾向がみられる。それだけにプレゼント条件の6.5倍も買い上げてくれる同社のLINE友だちは上客と言っていいだろう。

 LINE導入で成果が出たのは確かだが、ではLINEアカウントにキャラクターを立てれば同等の結果が得られるかといえばそうはいかない。さくらパンダ登場から6年間、ソーシャルメディアを通じて知名度と好感度を向上させ、スタンプやグッズを欲しがるレベルにまでじっくり開拓・育成したことが何より成功の要因だ。

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